第32話 衝撃
「あー涼しー。蒸し暑いとエアコンは神ですよねー」
「そ、そうですね……」
「店長作りすぎって思ってたけど、結構減りましたねー。
美味しいんだもん店長の作るもの」
「そ、そうですね……」
「……琉夜さん私の事好き?」
「そ、そうですね……えっ?」
「ぷっ! その驚いた顔! ほんと琉夜さんって面白いなー」
「か、からかわないでくださいよ……」
ケラケラと笑い続ける瑞菜さん。
もしかしたら見た目以上に酔っているのかもしれない。
「瑞菜さん酔ってます?」
「酔ってませー……酔ってるかな? なんか楽しくなってきちゃいました」
「楽しいのはうれしいですけど、あんまりおちょくらないでくださいよー」
「怒りました? すみません……」
想像以上にシュンとしてしまうのでびっくりする。
「あ、いや、俺も楽しいですけど、その、すみません」
「……琉夜さんと話せるようになって、舞い上がっちゃってたのかもしれません。
こんなにグイグイ来られたら嫌ですよね……」
「い、いやいやいや、それはないです!
俺は素直にうれしいですよ! 瑞菜さんみたいな素敵な人がなんで俺なんかに構ってくれるのか不思議なくらいです!」
「……ほんと……ですか……?」
あーもー、その見上げるような可愛い表情とかほんとに最高です!
「ホントです! 超ウレシイです!」
「よかったぁ……」
うおーーーー、にか~って笑顔がたまりません。
瑞菜さんはグラスの氷をくるくると回して、静かに話し始めた。
「私……一人なんです……母親は私を産んで……亡くなってしまって……
父親は、事故で亡くなって……」
「え……?」
心臓が握りつぶされるかと思った。
俺と、同じだ。
「お父さんが入院していた病院のお医者さんのツテで店長、遊蔵さんのお世話になって……凄く良くしてもらって……私はそのお陰で今、生きていられるんです」
「……俺も、母も父も亡くしてます……そして、店長に……物凄くお世話になっていたことを、最近知りました……」
「……ずっと、琉夜さんのこと気になっていたんです。
魂が抜けたような、昔の自分を見ているようで……」
そう……だったのか……。
勘違いも甚だしかった。そういう理由で気にかけてくれていたんだ。
「だから、元気になってきて、話せるようになって凄く嬉しかったんです。
店長も凄く嬉しそうで、でも、私自身が、凄く嬉しくて……」
「すみません、心配していただいて……ホントに皆さんにはどうお礼を言えばわからないぐらいです。本当にありがとうございます」
「ち、違うんです。お礼とかじゃなくて、私が嬉しくて……」
気がつけば瑞菜さんは涙をこぼしていた。
俺はティッシュを渡して上げる。
「すみません、泣くつもりは無かったんですが……琉夜さんに拒絶されたような気がして……またひとりに……」
「瑞菜さんには店長さんも女将さんも居るじゃないですか」
「……琉夜さんは私の事……嫌いになったんですか?」
「あんまりからかうと、俺も、少し怒りますよ……」
「ち、違う! からかってなんていません!」
「嫌いになる要素なんて無いじゃないですか……こんなに良くしてもらって……」
「よかった……」
「そ、それじゃぁ、瑞菜さんは俺のことどう思ってるんですか?」
お返しじゃないけど、ついついそんなことを聞いてしまった。
「……好き、なんだって気が付きました……」
「なっ!?」
とんでもないカウンターパンチを食らってしまった。
「だって、瑞菜さん俺のこと知らないですよね……?」
声が震える。嬉しいって気持ちと、本当の自分を知られて捨てられる怖さが入り乱れる。
「はい……」
「それじゃぁ、どこで……」
「理由なく好きになったら駄目ですか?」
潤んだ瞳から発せられる視線が、俺の目を撃ち抜く。
目をそらすこともできない。
「……駄目じゃないです……」
「私だって、なんで今まで誰も好きにならなかったのに、こんなに琉夜さんを好きになるかわかっていないんです。それでも、好き……なんだと……」
だんだん顔が真っ赤になっていく。
「私、すっごく恥ずかしいこと言ってますよね……」
「はい、顔から火が出そうです。うれしいですけど……」
「じゃぁ……!」
「俺もちゃんと言います。俺も瑞菜さんを好きだと思います。
それでも、俺は瑞菜さんに話さなければいけないことがあります」
俺の生い立ち、空白の人生、そのすべてを話さないで瑞菜さんと向き合うのは卑怯なような気がした。
瑞菜さんは俺の話を真剣に聞いてくれる。
話そう。この人に、すべてを……
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