第31話 飲み会 序
「ちょっと上に置いてきますね。待っててくださいー」
元気に階段を昇っていく瑞菜さん。
おれは部屋に入り今買ってきた缶を冷蔵庫へとしまう。
結構買ってるな……一人暮らしにはやや大きすぎて無駄な冷蔵庫がそれなりに中身が充実した。
店長から貰ったオードブルも机の上に出す。
これはまた、なんという立派な……
ミートボールやら唐揚げやらポテトスティックやらチーズやら生ハムやら、とてもじゃないが二人で食べる量とは思えない……
早速買ってきた食器や雑貨屋で手に入れたランチョンマットを配置する。
「おお、なんだか華やかになったな。オードブル大きすぎだけど……」
本当はお皿に移したほうがいいんだろうけど、流石にそこまで大きな皿はないし、あまり小さい皿に分けても逆にダイナミックさが無くなってしまうだろう。
ピンポーン
部屋のチャイムが鳴る。
「はいはーい」
扉を開けると少しラフな服装になった瑞菜さんが立っていた。
「やっぱり、家飲みは楽な格好じゃないと!」
うん、かわいい。
「うわー、なんか可愛くなってますね!」
部屋の変化にすぐに気がついてくれたのは嬉しい。
「わー、この箸置きかわいいー! ほしい!」
「片方差し上げますよー」
「ほ、ほんとですか!? うれしーなー」
「それにしても店長さん凄い張り切ったんですね」
「ええ……びっくりしました。いきなりこれ用意されていて」
「あ、そうだこれおいくらでした? 払います!」
「さっきも払ってもらったし、それにこれプレゼントだそうです」
「えっ? これ結構しそうですよね」
「そこはありがたく頂いちゃいましょう! 琉夜さん!
それでは、初めてのお酒は何から試してみますか?
ジュースっぽいのからお茶割り、まぁビールもあります」
「す、すみません。本当に予想がつきません……」
「と、とりあえずビール行ってみますか!
少しづつ試してみましょう!」
ささっと台所へ行って乾かしてあったグラスとビールを一缶持ってくる。
慣れた手つきで2つのグラスに半分ぐらいづつ注いでくれた。
「それじゃぁ、初めての飲酒ですね! かんぱーい!」
「か、カンパーイ!」
恐る恐るその黄金色の液体に口をつける。
ゴクリ。
「これが……ビール……おもったより苦くないんですね」
「これはさっぱりしていて飲みやすいのが売りですからね」
「嫌いじゃないです。少し苦いけどさっぱりして、なんか飲んだこと無い味で」
スーパーなドライな味わいだ。
「麦とかの味を感じるのはたぶんこっちかなぁ」
いつの間にか瑞菜さんのグラスは空になっていた。
そこに今度はえびす顔のキャラが書かれたビールが注がれる。
「個人的には一番好きな銘柄です。どうぞどうぞ」
それ……間接キスなんですけど!
受け取ったグラスを少し回して位置をずらす。
「おお、さっきとぜんぜん違う! 苦味はさっきよりまろやかで、なんていうかこの香りが麦の香りってやつなんですね。濃いって感じです」
「琉夜さん、いける口ですね! ビールの味の差が分かる男ってのになれますよ!」
なるほど、全く知らない世界というものは面白いものだ。
「ささ、ビールと唐揚げはあいますよー」
更にいくつか取ってくれたツマミから言われた通り唐揚げをいただく。
相変わらず美味しい。口の中に幸せが広がる。
そしてビールに口をつける。
「なるほど、これは、確かに合いますね!」
ビールのほのかな苦味とシュワシュワとした感触が口の中をリセットして、また食事の味をはっきりと感じやすくしてくれる。
ポテトスティックも少し大きめに切られた芋っぽさがいい意味で残っている。
これとの相性もいい。
「揚げ物と合いますね」
「琉夜さん体質的に飲めないとかじゃなさそうですね、顔色全く変わってないですね」
「特に、変化は……感じないですね……」
「初めてなので、慎重に行きましょう。お茶とかも買ってありますから!」
「そうですね、料理も美味しくて楽しいです!」
何よりも瑞菜さんが可愛い。とまでは言わない。言えない。
「私もいつも一人で飲んでるから楽しいです!
琉夜さん、ちょっとだけテレビつけてもいいですか?」
どうぞどうぞと促すと久しぶりにつけられたテレビから音楽が流れ始める。
「友達と遊んだりする時にカラオケとかいくんで、一応歌番組だけ見てるんです」
「ああ、確かに俺最近の歌手なんて全く知りません……」
「私もあんまり興味ないんですけどねー……」
その後は誰が今人気だとか、この歌はいいとか当たり障りのない会話をしながら、店長の絶品つまみとお酒を色々と試す。
「ハイボールってのが好きかもしれないです」
「琉夜さん……淡々と飲みますね……めまいとか酔ってるとか感じてません?」
「今のところは……?」
「私はちょっと暑くなってきちゃいました」
「あ、すみません。窓開けますね」
窓を開けると、なんだか湿度の高いぬるい風が入ってくる。
「これは、クーラー入れましょう。窓開いてると静かにしないといけないですしね」
窓を閉めてクーラーを付ける。
ぬるい風が少しづつ冷たくなって、部屋の温度を下げてくれる。
「どうですか……って……」
瑞菜さんは上着を脱いでシャツ一枚になっていた。
見事なボディーラインがはっきりわかってしまうその姿に、まるで急激に酔いが回ったかのように顔が熱くなるのを感じる。
夜は、まだ始まったばかりだ。
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