第11話 メンチカツカレー

 メンチカツ、豚肉とみじん切りにした玉ねぎに衣をつけて上げたもの。

 あの惣菜屋さんのメンチカツは本当に豚肉と玉ねぎだけでこの味わいが出せるのかというぐらいに美味しい。

 カリッカリの衣を噛み切ると、これでもかというような肉汁と玉ねぎの甘味が混じったエキスが溢れ出す。

 噛みしめるごとに肉の旨味と玉ねぎの甘味が口の中で大暴れだ。

 今日は、それだけでもメインになるはずのメンチカツが、脇役だ。

 今日のメイン、それはカレーだ。

 日々、日替わり幕の内だった俺は知らなかった。

 あそこのカレーがこんなに美味しいなんて……

 完全に具材が溶け込んだルーに、あえて新しくゴロゴロの具を足している。

 ご飯がすすむ絶妙の辛さ、スパイシー具合。

 完璧なバランスが取れているようだが、そこにメンチカツを加えることで化学反応が起こる。

 ご飯とカレーとメンチカツ。

 暴力的な組み合わせによって、気がつけば目の前に空の容器が置かれている。


「あ、サラダ忘れてた」


 少しヒリヒリした口にサラダが優しい。トマトやキュウリが瑞々しく、少し酸味のきいた人参ドレッシングとよく合う。

 サラダは後に食べて正解だったかもしれない。

 もっとカレーを食べたいという欲求が、上手いこと収まってくれた。


 食べ終わった頃には、帰り道の胸の鼓動のことなんてすっかり忘れていた。

 

 歯を磨き、さっぱりとしてからベッドの上に腰掛ける。

 満腹感を十分に味わって再びゲームの世界へと飛び込む。

 

 剣士としての色々なスキルを磨いていくことに胸をドキドキさせると、なぜかアラームが鳴る。


「おい、今入ったばかりだぞ!」


 コンソールを呼び出すと……


『睡眠を取ってください。眠気が強い状態でこのゲームをやるのは危険です』


 どぎつい赤文字で注意喚起がされていた。

 思い返すと、たしかに満腹感から強い眠気を感じていた。

 そんなことまで感知するのか……


 仕方ない、無理をしてペナルティを食らうわけに行かない。

 俺はしぶしぶログアウトする。



「……しかし、このゲームは親みたいだな……」


 リアルの世界に戻るとたしかに強い眠気を感じている。

 

「ふぁー……仕方ない、一眠りするかぁ……」


 と、小一時間くらいで目が覚めるだろうと油断してアラームなどをつけなかったことが災いした……


「ん……、あれ……真っ暗だ……ん!?」


 時計を見ると19時50分、ぐっすりと6時間位寝てしまった……


「ヤバイ、惣菜屋さんが閉まっちゃう!」


 俺は財布を掴んで外に飛び出す。

 結構な早さで走ったおかげでまだ惣菜屋さんの明かりはついている。

 ちょうど外を覗うように店員のおねーさんが出てきた。


「ま、待ってください! お弁当だけ買わせてください!」


 はぁはぁと息を切らせながらスキンヘッドの男が走ってきたら怖いだろう、すこしおねーさんを驚かせてしまった。


「きゃっ! ああ、良かった。何かあったのかと心配してたんですよ」


 店に入ると店長さんが嬉しそうにいらっしゃいと迎えてくれる。

 もう残っているものも少ないが、おねーさんがお弁当を持ってきてくれる。


「今日の日替わりはお得なんですよ。なんとステーキ弁当です」


「あ、ありがとうございます。そしたら、それと……これもください」


 トマトスープも一緒に渡す。


「最近、生き生きしてるな。そのほうがいい。いつもありがとう」


 店長さんがそう言いながら弁当を渡してくれる。


「カレー……凄く美味しかったです……」


 気恥ずかしくなって捨て台詞のように言って外に出る。

 

「ありがとうございました」


 外まで送ってくれるおねーさんに会釈をしながら帰路につく。

 ふと見上げると、自分の暮らしている街の空にこんな星空が広がっていることを初めて知った。そんな夜だった。



 

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