第10話 パーティ戦闘
初めてのパーティ戦闘は、ハッキリ言って最高に楽しかった。
ミーナさんは驚くべきことに弓をメインで使っていた。
「いやー、中高とがっつり弓道やってたのがこんなところで役立つとはねー」
サラッと言っているけど、弓道って走ったり飛びながら打つ競技じゃないでしょ!
ミーナさんなんか動きが凄いんですけど!
「リュウヤくんさぁ、ゲームなんだからそんなリアリティ溢れる動きじゃなくて、こう理想のかっこいい動きーみたいなの意識してみなよー、出来るから」
そんなことを言われてしまったので、冗談半分にそんな動きを想像してみた。
「うお! 何だこれ! 俺の身体じゃないみたいだ!」
「ははは、そうそう。そっちの俺って方が今の君らしいよ」
たぶん、何の気なしに言われたその言葉に俺は心を掴まれたような気分になった。
未だに俺は現実の世界の自分を引きずっていたんだ。
それを、今、彼女の言葉で箍を外してもらったんだな……
「そうだね……うん、そうだ。俺らしくやってくよ!」
「? よくわかんないけど、いいね!」
たくさんの冒険者で賑わう村から少し離れた高台の上の草原で、ポヨンポヨンと可愛らしいスラリームやミドルラット、でかい芋虫のグリーンワームを二人で倒していると二人共無事レベルが5になった。
「一回戻って職につこう! さぁ早くー!」
満面の笑みで俺の袖を引っ張るミーナさんは子供のようにはしゃいでる。
俺がニコニコと見ているとその手を離して恥ずかしそうにしてしまう。
「ご、ごめん。楽しくてつい、子供みたいだよね……このゲームなんか凄いから、ついついさ……」
そう言えばさっき中高の部活の話してたし、結構大人の人なのかも……
「い、いや、凄くわかる。俺もそうだから、なんか同じ気持ちなんだと思うと嬉しくて……」
「そ、そう!? よかったー。一人ではしゃいでたらバカみたいだからさー!」
照れくさそうに笑い合いながら、俺達は村のギルドで無事に剣士と弓使いになることが出来た。
そして、そこで俺のアラームが鳴り響く。
「あー、ごめん。時間だ。職試したかったけど落ちるね」
「え? もうそんな時間、やばっ遅れる! 私も落ちるね! ありがと! またね!」
返事する間もなくミーナさんはログアウトしていた。
俺も、後を追うようにログアウトする。
「……ふぅ……楽しいなぁ……」
気がつくとニヤニヤと笑みがこぼれている。
所謂、ハマっているってやつだ。
間違いなく、俺はこのゲームに心底ハマっている。
「よし、健康のためにも昼飯だ!」
ささっと準備をしていつもの惣菜屋に、健康のためにも早足で向かう。
いつもの道、いつもの街路樹も見る目が違うと感じ方が違う。
地面のブロックの組み合わせや、木々の緑。
現実世界で見るものまでもが、色づいてみえる。
普段の通い慣れた道のりが、まるで新しい冒険への道のような感じさえする。
あっという間に惣菜屋さんへと到着する。
「今日は、なに食べようかな……」
そんなこともつい一昨日ぐらいまで気にすることもなかった。
「わー、おかーさんすみません。遅れました! すぐ準備します!」
なにやら店員さんが慌てて飛び込んできた。
昨日の人か……髪……長いんだな……
「今日は……カレーにしてみようかな……」
カレーの香りは卑怯だ。それを認識すると頭がカレーを食べるモードに切り替わる。
そう思うと隣りにあるメンチカツも欲しくなる。
憎い配置だな……
結局チキンカレー、メンチカツ、サラダとたっぷり買ってしまった。
「いらっしゃいませ、あ……先程はお騒がせしました……」
言われて顔をあげるとさっきの女性が三角巾とエプロンをつけてカウンターに立っていた。
「あ、いえ。ダイジョブです」
まだ若い女性とリアルで話すのはハードルが高い。
でも、ミーナさんと話しているせいか、前よりはマシだ。
「そういえば店長が喜んでましたよ。初めて美味しいと言ってもらえたって。
ありがとうございましたー」
包まれて手渡される時にそんなことを言われた。
俺の言葉で喜んでくれる人が居るんだ。
ただ、そんなことが嬉しかった。
「す、すごく! 美味しいです……いつも……」
「店長に伝えておきますね。いつもありがとうございます!」
優しそうな店員さんの笑顔に少し胸の鼓動が早くなる。
軽く会釈して店を出る。
早歩きのせいじゃない。
少し早くなった鼓動は帰宅するくらいまで治まることはなかった。
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