第9話 二日目
ドキドキワクワクしながらゲームが立ち上がるのを待つなんて言うのは、小学生の頃の超有名RPGの続編や、携帯型ゲーム機を初めて手に入れた頃かなぁ……
あのころはどんなゲームでもまるで夢の世界のように夢中になってプレイしていた。
それが、ゲームが有って当たり前になって、どんどん要求が高くなって、満たされなくて惰性でゲームしてたなぁ……それも随分と過去の話だ。
そんな俺が、今、子供の時のような気持ちでゲームの開始を待っている。
ブンっという起動音を感じると、目を開けば広がっている世界。
「ただいまー」
その世界に思わず帰還報告をしてしまう。どれだけ浮かれているんだ俺は。
「とりあえず、今日の午前の目標はレベル5到達と剣士になることだな」
ステータスを確認するためにコンソールを開くと自分がログアウトしている間に来ていたメッセージがあるようだった。
「ミーナさんはレベル4まであげたのか、ははは、わかるわかる。絶望のアラーム音ね……お互い、今日中には職に着きたいですね。っと」
とりあえず冒険者ギルドにて手頃なクエストを漁る日々に戻る。
「森の少し奥にあるオランジの実10個か、少しポイントが多いな。
あそこまで行くといつぞやのネズミとかがでるんだよな……
お金も溜まったし、ちょっと武器買って行ってみるか!」
森の敵が出ないところでもまばらにあるオランジの実、まぁ見た目はオレンジだ。それは森の少し奥、敵が出るところまで行けば多く生息している。
しかも、このクエストは過剰納品が可能だ。
20個集めれば1.5倍の報酬がもらえる。
そうと決まれば早速、武器屋と防具屋だ。
「いらっしゃい」
武器屋と防具屋は流石にゲーム的な感じだった。
メニューから選ぶと装備された映像が出て攻撃モーションなんかが表示される。
色々と悩んだが、木刀400z、皮の鎧500z、皮の盾300zを購入する。
「おお、俄然ファンタジー感が出てきたぞ!」
アンダーウェア的なものは最初のキャラ作りのときにコーディネートしてある。
その上に武具のデータが上乗せされるイメージだ。
村の中では抜刀できないシステムのようだ。
俺はいそいそと村の外へと急ぐ。
村の外に出てすぐに木刀と盾を構える。
木刀と皮の盾なんて初期装備も初期装備で見た目のかっこよさのかけらもないが、自分自身で身につけたときのワクワクは、感慨深いものがある。
思わず敵もいないのに素振りをしてると、他のプレイヤーからイイネ! ジェスチャーを頂く。わかるわかるって表情をされて少し気恥ずかしかった。
いままで入っていた森のちょっと奥深くまで進む。
森の中も、変な言い方になるが、本当に森のなかにいるようだった。
動物の鳴き声や鳥の鳴き声が遠くから聞こえ、虫の音や葉の擦れる音、風で木々が揺らされる音、獣道を歩く足に伝わる足場の悪い感じ。
「ほんとに本物みたいだな……」
陳腐なセリフだが、一番今の状態を表している。
素直に感動してしまう。この森を歩いているだけでも何時間でもいられる気がする。
オランジの実はすぐに見つかる。
一箇所見つけると3~5個くらい集められるのですぐに10個は集まった。
「これなら、20個もすぐだな。……ん?」
その時、バサッ! と草むらから何かが飛び出した。
ミドルラット。例のネコくらいの大きさのネズミとエンカウントした。
ゲームを初めて、最初の戦闘に突入する。
「よいしょ!」
おじさん特有の変な掛け声と共に木刀を振るう。
ラットにあたると頭上のゲージが短くなる。
当たった感覚も軽く伝わる。リアルな感覚だと動物をいじめてるみたいで嫌なのでホッとした。悲鳴とかも無いのも助かった。
ラットの突進を盾で受け止める。痛みは無いがズンと重みを感じる。
HPも少しだけ減っている。
このあたりはゲームっぽさを残している。
たぶん、ここをあんまりリアルにすると日常での事件がとか、子供への悪影響がーとか色々うるさいんだろう。
何度かマウスを叩くとボンッっとラットの姿が消えて勝利のファンファーレが鳴る。
『12zと経験値を手に入れた。
リュウヤはレベルが上った!
ラットはオランジの実を一つ落とした』
わざとらしいゲームアナウンスもここがゲームであることを印象づけるためかな?
それよりも……
「レベルが上った!? 早すぎない?」
あとで分かるのだが、戦闘のほうが遥かに経験値がよくて、慣れた人はGランククエストは無視して戦闘でレベルを10まであげて、Fランクまで飛ばすのが定石らしい。この時の俺は知る由もなくせっせとGランククエストをクリアしていくわけだ……いいんだけどね。
「はー、緊張した。20個集めたら帰ろっと」
別に死んでも教会に戻るだけでも、戦闘は緊張した。
しかし、同時にものすっごく楽しかった。
その後順調にオランジの実を手に入れて村へと戻る。
「オランジの実20個確かに受け取りました。
おめでとうございます! G-3にランクが上がりました。
これからもよろしくおねがいしますね」
納品を終えたタイミングを見計らったようにメッセージがくる。
と言うか、ボイスチャットが飛んできた。
『リュウヤ君頑張ってるねー、私も今入ったよー』
『ああ、ミーナさんこんにちは』
『ははっこんにちは。今はなにしてるのー?』
『今はオランジの実を納品してました』
『あのさ、一緒にパーティで魔物退治しない?
さっき入ってすぐ変なのに絡まれたら、聞きもしないことベラベラと教えてきてさぁ……パーティ組んで戦闘すると経験値が増えるらしいんだよ』
『あ、そういえばさっきミドルラットを一匹倒しただけでレベルが4になりました』
『おお、いいね! いやー、正直な話。もう早く職業に着きたくてウズウズしちゃってるんだよねー!』
『わかりました。えっと、たぶんあと2時間ぐらいでログアウト時間になるのでそれまででよろしければ』
『やったぁ! 私もちょうどそれくらいでバイ、じゃなかった落ちないといけないからさ! そしたら村の真ん中の噴水のとこにいるねー』
『すぐ、向かいます』
初めてのパーティ戦闘だ! 俺はワクワクしながら準備をして噴水へと向かった。
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