第二語り手:涼宮ハルヒ

「でもどうしてかしら、有希があんな被り物してるなんて、珍しいこともあるものね」


「いやいやハルヒ、化物の被り物したやつが何事もないかのように本を読むなんて芸当が珍しいで片付けられるなら、この世のそれなりの仰天現象も珍しいという枠に収まってしまうぞ」


「まあ、そう言われたらそうかもしれないわね」


 有希が夏休みのお祭りで変わったお面をつけていたことはあったけど、なんていうか…今回のは不気味な妖怪にしか見えなくて。

 なんとなく普段から少し感情を読み取りづらい子ではあるけど、とても良い子だからあんまり気にしていなかったのは認めるわ。

 そうだとしても、今日のは逸脱すぎるわよ。

 あたしは考えれば考えるほど、鬼の顔の周りに花びらが咲いたような被り物をしている有希が不思議でならなくなってきた。


 遠くで有希を見ていたあたしは同じように遠巻きにいたキョンに小声で話しかける。


「ねぇキョン、あんたちょっと聞いてきてよ」


「なにをだ」


「そんなの決まってるじゃない! 有希がどうしてあんな変なのを身に着けているかってことをよ」


「待て待て、なんで俺がいかなきゃならん」


「いいじゃない、団長命令よ、聞いてきなさいっ。聞いてくるだけでいいから!」


「はあ、やれやれ。今回だけだからな」


 キョンはしぶしぶといった表情で承諾したわ。

全く、あんたは雑用係なんだから、こういうことは率先してやりなさいよねっ。


「へいへい」


 一歩、更に一歩、キョンは有希との距離を縮めていき、とうとう一メートル圏内の視界に入れた。


「なあ、長門。一つ聞きたいんだが、いいか?」


 恐る恐るといった様子で有希に話しかけていたわ。


「なに」


 キョンの方を向いた有希は正面から見るとほんとによくわからないインパクト抜群の被り物をしていて、多分目を合わせられなくなったんだと思うんだけど、キョンは有希の足元ばかりに目がいっていたのよ。

 有希は有希でどこを見ているのかそもそもどこに目があるのかもわからないし、傍から見てすごく変よ、あんたたち。


 あたしの方を見てキョンは「ほっとけ」と目で告げた。


「なんというかだな、長門、お前いつもと少し違わないか?」


「違わない」


「そ、そうか? ほら、ちょっといつもより元気そうというか楽しそうというか。そう、朝比奈さんや古泉や俺はもちろんハルヒより目立ってるように見えなくもないんだ!」


「いつもと変わらない」


「ちっとも変わらないのか」


「ない」


「そうか、ならよかった」


 そう結論付けたみたいにキョンは一歩であたしのところに戻ってきた。

 ちょっとキョン、なにやってるのよっ。それだとなんの意味もないじゃないの!


「いやいや、ハルヒ。SOS団で最も存在感の乏しい静かな文学少女が、いまやお前以上にインパクトを爆発させる魔の化身と化してしまっているんだぞ。正面にでも立たれてみろ、数秒話すだけで腰砕けなるってもんだ。あの城壁は崩すには脊椎の数が今の倍になったとしても足りないね」


 キョンは両手を天に向けて差し出すと、溜息交じりに首を横にふった。

もう、それでもあんた団員なの!?


 早くも白旗を上げ始めた雑用係に、何が何でも役目を果たすようにとあたしは言い聞かせにかかったんだけど、

その時、


トントン


 タイミングが良いのか悪いのか、扉の外側からノック音が聞こえたもんだから、仕方なくあたしは入るように促したわ。


「どうぞ!」

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