/4 ステップ・バイ・ステップ
なるほど荘厳。
――さて。この世の中には賞金稼ぎというれっきとした職業が存在する。世界中に支部を持つ、ある一つの人種に対してのみ最強の勢力である『協会』に所属する、ライセンスを取得した専業賞金稼ぎたちは【カラーズ】と呼ばれ、彼らは日々その一つの人種……賞金首たちと命の遣り取りを行いながら、富と名声を一身に浴びたり浴びなかったりしている。
なかでも時代の最高位であるカラーズは『色つき』と呼ばれ、劇場型賞金首の最高峰【ミリオンダラー】の八席の対極に位置するように、赤・青・緑・白・黒の五色として世界中に名を馳せ、彼らの潜り抜けた死線の数はもはや明確にその他のカラーズとは一線を画している。
一線を画している、のだけれど。
「…………」
かくいう私もその『色つき』のひとつで、【緑】を冠しているわけですけれども。
「もう少々お待ちください」
「は、はい」
どーんと広がる『荘厳』。広大な敷地に綻びのひとつさえ見出せない、見晴らしは良いくせにこの目の前の正門以外からはどこからどうやって踏み込めば良いのか見当のつかないある人物の私有地――公的に居場所の割れている唯一のミリオンダラーの邸宅を前にして思わず息を呑む。
スーツの上着を脱いで片手に畳んだアルフォートファミリーの門番さんはとても紳士的に対応をしてくださり、特に威嚇や敵意を浴びせられたわけでもないのだけれど。それどころか色々な意味で顔の割れている私に対して友好的でさえあったのだが、そうであったとしても私は萎縮する自分をどうしようもできないのであった。
具体的な例を出すと、成人式の案内に『私服で構いません』の一文があったのにいざ出席してみると私服参加は自分だけだった、みたいな居心地の悪さ。や、まだ成人前なので成人式とかよくわかりませんけれども。
視線をあちこちに投げることも、小声で雑談をすることさえ
そして握る先の手は普段から冷たくて末端冷え性を心配させる感じで、逆に私がこうも血の気を引かせつつある現状に対してもフラットであるという証左でもあった。こういうところは見習わないとなあ、などと思っていると、そんな私を安心させるように、きゅっと握り返してくれたのでした。こほん。
そんな私たちが微笑ましかったのだろうか。こちらを見た門番さんは少し穏やかになった笑みを浮かべて――無線での連絡も終わったのだろう。小さく頷いてから開いた門の奥へと誘導するように手を伸ばした。
「お待たせいたしました、ミス・レンゲジ。ミスター・コウノミヤ。お嬢様と若様が奥でお待ちです。どうぞ」
「は、はひっ! お手数おかけいたしました!」
そんな私にきょとんとした顔の門番さんと弓くんは、次には同じようにくつくつと小さく肩を振るわせ笑うと、何やら意思の疎通をしたみたいに頷き合っていた。くそう、なんだよくそう。
――これは後から聞いた、大筋にはなんの関係もない話なのだけれど。
かのミリオンダラーの三番。【ザ・ゴッドファーザー】の本宅に入ったカラーズは私たちが最初らしい。
そして決して公表ができない情報でもあるが――この私、
『いいかいハイネちゃん。世の中には買い取り不可の情報もあるから注意しろよ。特にソレね。オレは死にたくないから絶対言わないでね』
とバドさんとの温かな会話がフラッシュバックするなど。
さておき荘厳、うん荘厳――な庭をふたりで歩いて進む。手入れの行き渡った緑と舗装された道。陽射しは攻撃的ではなく、いくぶんとやわらかい印象で鳥の囀りも聞こえてくる。お師匠様に『
ほんと、庭の中にロータリーがあるってどんな世界だよう、と半ば現実の把握を手放しかけた時。たたたたと小走りで駆け寄ってくる足音と、恋心のように待ち望んだ赤いワンピースと飴色の髪の少女の姿が見えた。
「ハイネーっ!」
「ドロシーちゃん!」
右手に持った荷物を取り落とす。繋いだ左手も解いて手を広げる。1mの距離をゼロにする飛びつきを、昔の私からすればありえない、すっかり馴染んでしまった反応速度で受け止めて抱擁する。
「来てくれてありがとねっ、ハイネっ!」
「こちらこそ呼んでくれてありがとうドロシーちゃん」
私の心は救われました。あと一分登場が遅かったらどうなっていたかわからない。
お嬢様とぎゅむぎゅむと再会のハグをしながら癒されていると、奥から……こっちはこっちで安心するいつも通りのマイペースさでゆっくりと歩いてくる若様の姿があった。
それと、彼に良く似た姿の少女。一度だけあの
「カカシくんも、カレンちゃんもお久しぶり。元気だった?」
「おかげさまでね」
とカカシくんは視線を私の横にやるとまた戻し、静かなままだけれど以前よりもいくぶんかやわらかくなった笑顔で頷いた。
「靴、無事に届いたようでなによりだよ。こうして顔を合わせるのは初めてだね、アルク」
「その節はどーも。世話になった。ありがとな、スケアクロウ」
若干
「あっそうだお土産あるよ。それからえーっと、ボード持参って言われたから持ってきたけど」
「お土産? いいのに。ハイネはマメだねえ」
ところころ笑いながらドロシーちゃんが言うけど日本人的にそういうことは何か基本行動になっているのです。
「オレは蓮花寺の付き添いだからさ、ボードとかさっぱりだけど。大会とかあったっけ?」
と弓くん。
「いや、今回は別件。一山当てられるかはまったくわからないんだけどさ、ハイネ――宝探しに興味ない?」
はて、と首を傾げてしまう。このご時勢に宝探しときましたか。しかもボード必須らしい。
――これは後から思い至っただけで、そうと明言されたわけでもないけれど。
どうしてこの日、私が呼ばれたのかという理由について。
ふたりの友人であること、とは別にして――きっと。うん、きっとだ。
駆け足で望む色を手にした私が引き替えに落としてきた『子どもらしい』遊び心を拾う機会を、おすそ分けしてくれたのだと思う。
なんでも、その宝の地図が示した場所は、はるか空の上にあるらしい。
天空の宝島。それは
なんとも
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