/4 XXX(blood-coat)
「P1、状況は?」
ザッ、ザザッ。……『うーーーーーーーっす。こちらぴぃわん、会敵したドニー=ブライアンを取り逃がしましたァ』
「――――――、」
『で、どうしますキング? アンタもR1もまだ外なんでしょ? 追う? それとも退く? だァいじょうぶですってェ。ぴぃわんはほら、損害軽微、全員ピンピンしてますよォー』
聴覚を無線に集中させたまま、トゥエリ=イングリッドはこちらを見ているR1……ブライバル=ブライバルに短く指先で合図を送った。
ブライバルは次いで外されたキングの視線の先を目で追い、頷きひとつで走り出す。R1隊の残りもそれに続いた。合図は言うまでもなく『突入』。
戦車を撃破したとはいえ、未だに決着のついていない屋外戦闘の中、最高戦力のひとつを屋敷に投入する。
空いた戦力を自身で補うために、トゥエリ=イングリッドは愛銃を手に更に前へ踏み出した。
「……ラムネは美味しいかい、アンノウン」
『とってもね。ソコ退屈だろ。アンタも早く来いよ』、ブツッ。
/
「もしもーし。ドニーさーん。こっちは片付いたんすけど、今どこっすか? あ、ボスは? あっそう良かった良かった。えーっと一階はもう来ない方が良いんじゃないっすかねー。チェスのブライバル=ブライバルはマジヤバですよ。できればやりたくない相手。ああはい。突入して来ましたね。で、はぁ二階? 大丈夫かなー。そっちはそれはそれでヤバいのが、あれ? ドニーさーん。もしもーし」
『張』
「あい。あれ、ボス?」
電話越しに聞こえる声のトーンが低くなり、そしてランクは一桁ばかり上がったらしい。ドニーから電話を代わった【麻薬王】カットラスの声に、少年の唇も僅かに上がった。
『さっさと上がって来い。階段はまだこっちが守ってる』
「うっすうっす。今そっちどうなってんすか?」
張は駆け足で無人同然の廊下を抜け、激戦が繰り広げられているロビーに出る前に一旦停止。踵を返して中央ではなく館の端にある階段を目指す。
『
『ピット先輩は一足先にカラーズにやられちまいまして。あ、階段来たんで切ります』
ゲリラ戦さながらに、階段に布陣した同僚たちに味方アピールをしながら張は急ぐ。
「……テンゴ、テンロク、テンゴ、テンヨン。うぅんシブい」
指先確認。<
/
「ボス、ビンゴ! B1レイン隊、カットラスとの戦闘に入るよー!」
構えたギターのハードケース、その先端がばくりと開き、中から出てきたのはネックではなく銃口だった。マシンガンの
B1――ビショップ隊のキッス=レインの得意分野は防衛戦。だがそれ以外の仕事であっても不得意というわけではない。そもそもにして<ザ・タクティカル>チェスは獲物である賞金首を前にして敗走したことなど一度もない。然るに、このカラーズの中においてのビショップの役割は、後退する戦線を維持するのではなく――
「ブライバルも来るのね了解。一階は他に――へェ。了解だよボス。……はっはァどうしたトビラのドニーくん! 照合済んでるから! 殺すから! もっと頑張ってカットラスを守りなよ!」
味方の損害を出さずに、戦線を押し上げるというものだった。
「ああもう
一応の確認にカットラスは――五十代とは思えないほどに若さと艶のある顔の眉間に皺を寄せながら、「やれ」と言う代わりに顎を上げるだけで合図をした。護衛の残り二人が手榴弾を投げ込む。二階の廊下を崩落させかねない爆発と、窓ガラスを突き破って煙が外に溢れ出した。
「…………お前等は警官隊かなんかなの!? 賞金稼ぎは普通、盾なんて持ち込まないだろぉー!?」
比喩ではない。煙の晴れた先には、キッス=レインを守るようにB1隊が前に出て構えた、強化アクリル製の二枚の盾が立ち塞がっていた。
「私宅に戦車置いとくような連中に言われなくはないかなー! よし、B1前進。一階はR1が抑えるだろうからこのまま押し込むよ!」
じりじりと前進される。じりじりと後退させられる。キッス=レインの言う通り、端の階段はまだカットラスの部下が封鎖しているとはいえ、戦車を退けるような相手にいつまで
その時。
「ボーーーースーーーードニーさーーーーん!」
「ばっかやろう遅いんだよチャァァァァァン!」
後方、その件の階段から、身体を鮮血で真っ赤に染めた<
「俺を置いてったのドニーさん」
「お前さんが「任せて」って言ったよな!? ……ボス、行ってください」
「え。俺にここ任すんじゃないんすかドニーさん」
「……すげえそうしたい。が、ボスの安全が第一だ
「…………かぁっこいぃー。さすがドニーさん、ヤッてないヒトは違うなぁー」
懸賞金二万ドル。ドニー=ブライアンは【カットラス】の幹部であり、張を引き入れることに成功した知恵者でもあり、何より【麻薬王】の、クスリに依らない忠実な部下だった。その、まともな思考で世界屈指の大悪人であるカットラスに仕えている人間を文字通り手放しで褒め称え、
「んじゃあボス、ドニーさんが言うので承りまっす」
射線を遮るように身を出した血まみれの少年の姿に、カットラスは片眉を上げると、それでもカラーズ……B1隊に決して向けなかった背を向けて廊下を歩き出す。
「お前は俺の捌くクスリが目当てで来たクチだろう。言っちゃなんだが、今この状況だぞ」
身を呈したその行動に、どうなんだ、と問いただす。
「もちろん死にたくないですね。ドニーさんが、が一番。二番はほら、カラーズ連中は、賞金を稼ぐんで。俺みたいに正体不明の、殺して良いか悪いかわかんない奴をいきなり殺したりはできないんすよ。それに」
後を追うように踵を返して、張は俯き加減に笑った。
「アンタが生きてればだいじょうぶ。クスリはまた手に入る。そうでしょ、ボス」
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