#11 Tutti

 後日談。


「……ごめんね、ふたりともっ!」


 ぱしんっ、と景気の良い音を立てて手を合わせる私を、カカシくんとドロシーちゃんは不思議そうな目で見た後、なにやらひそひそと話し合っている。


「カカシ、カカシ。ハイネは何をしてるの?」


「ジャパニーズの祈りの作法だって前にスズが言ってた気がする」


「あたしたちが教会でお祈りする時に手を組むみたいな?」


「たぶん」


「…………あっ。ごめんねハイネっ!」


 や、それは別にいいんだけど私は私でふたりが教会でお祈りするようには見えない。ごめんね。


「それで。ハイネは何で謝ってるの?」


「い、いえ……その、今回は本当にご迷惑を……私のお師匠様たちが……その……ハイ」


「えーっ。確かにブラックもリカーも出てきてびっくりしたけどそれはハイネが悪いわけじゃないじゃない?」


「うん。まぁ構図としてはの方がよっぽど、どうかと思うからね」


 そうだね。賞金稼ぎは賞金首を追うもので一緒にお茶とかしないもんね。


「でっでも私としては、そのぅ……これ以上OZの皆さんに借りを作りたくないというかまだまだ及ばずながらも友人として対等でありたいというかその……」


 もじもじと言い淀む私を、カカシくんとドロシーちゃんは不思議そうな目で見た後、なにやらひそひそと話し合っている。


「カカシ、カカシ。ハイネは何を借りてるの?」


「ルナの討伐の時に手助けしたことじゃないかな。ああ、ミーティングの時に一応『貸しにしておく』とは言ったんだけど」


「真に受けたのかな?」


「たぶんそう」


「…………」


「あっ!? 何度もごめんねハイネっ!?」


「いえ、ハイ。そういう感じです……」


「別に気にすることでもないと思うけど」


「友達の力になるのは普通だと思うっ」


「それは! そうですけど!」


 力になられ過ぎている!


「それに、きちんと助けてくれたじゃないか」


「そうそう! マリアとエルを呼んでくれたのってハイネでしょ?」


 それも! そうですけど!


 そうだけど違ぁぁう! ともだもだする私をオロオロしながらカカシくんと交互に見るドロシーちゃんは可愛い。


 カカシくんは少し考えてから「じゃあ」と切り出した。


「……そうだなあ。結局、まぁお互いのことを考えれば当然なんだけど。あんまり一緒に遊べるような時間も取れなかったし、今度はハイネが僕らを案内してよ」


「うん?」


「あっ! それ良いー! 一回ね、行ってみたかったんだっ!」


「はい?」


「ニッポン、案内してよ、ハイネ」



 ――ということで次のオフはどうやら日本旅行と決め込んでしまった【大強盗】のふたりに、私は「はい」と言うしかなかったのでした。ふたりとも危機感とか大丈夫? 世界トップランカーだよ? 懸かってる賞金的な意味で。



 /


 閑話休題。



「はぁぁぁぁ…………」


「それにしても、どうして今回ロンドンに? リカーは良いとして、ブラックもバドも連れてさ」


 いつかのように行儀悪くテーブルに突っ伏す私に、カカシくんはこっちサイドの理由を尋ねてくる。


「えーっと、それが……お恥ずかしい話というか、普通に恥ずかしいんだけど。私の礼服を選ぶぞーって言い出して……」


「ふーん。そうだねえ。ハイネも一着くらいドレス持ってても良いって思うよ?」


「それで、結局当初の目的は果たせた?」


「うん、まぁ。怖いから値段とか見ないようにしてた。だって、カカシくん! 入る前から小市民を平伏させる感じの佇まいだったんだよ!?」


「う、うん」


 あっだめだ、この感覚は共有できない感じだ。


 ドレスそのものは郵送で送り届けるというセレブなやり方をお師匠様がしたせいで、手元にはない。ので、いつかのように今度はお店の名刺をつつつ、とテーブルに滑らせる。


「おおー。ほんとにリカーはハイネを可愛がってるんだねえ」


 感心するドロシーちゃん。


 カカシくんを見ると、何やら前髪に隠れた表情ながら、色々と思うところがあるようだ。


「私だって、その、服選びはドロシーちゃんとかと一緒にやりたかったんだよ。でも何か知らないけどお師匠様が『駄目だ、これは己たちの仕事だ』って聞かなくて……全然関係ない案件だと思うんだけどなあ……」


「……そう、でもないかな。うん、ことハイネの最初のドレス選びというなら僕らは立ち入るべきじゃあないというか」


 くるり、と名刺に刷られた名前を私の方に向けるカカシくんの指。


「その方が、よっぽど良いと思う。……君がこのブランドに覚えがなくて、ドレスに覚えがなくったって、それを着ていた人物を忘れない方がきっと良い」


「え、それって誰のこと? お師匠様はしかも『己の趣味じゃあない』とまで言ってたんだけど……」








 ああ。駄目だ。


「――これは、彼が愛用していたブランドだよ、ハイネ」



 その名前を、誰かの口から聞くだけで、貰い物の私の心は、こうも容易く軋んでしまう。


「……そうだね。ハイネの私服は、今度一緒に見よ? それでさっ、あたしの服もハイネに選んで欲しいなっ」


 恐らくは笑顔のドロシーちゃんを見れない。


「……っ、はい。うん」


 くそ。静まれ、私の心臓。


「……。勢いもあっただろうけど、チェスの女王クイーンを名乗ったんだ、ハイネ。君は、そう在るべきだと思う」


「うん。……私、頑張る」


 ――いつか、そういう私に、なれますように。


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