#3 Trill(C&N)
『は? ありえねえ。手前様それでも女子か』
お言葉ですがお師匠様? 一般的な女子高生の
などと
というわけで『小市民でごめんなさい』といつもの謎謝罪しかできず、あれよあれよと言う間に私の礼服を決めるという段取りがアバウトに構築され、いつものように有無を言わさず休学届けの提出を余儀なくされ、『卒業危うし』が
長々と失礼いたしました。お久しぶりです。
「すごいなー。まーたロンドンに来ちゃってるよ私。グローバルだなー」
「ま、たまにはイイんでない? リカーに連れられる時ってほぼ仕事だからさ。この御仁が一緒だと伸びるモンも伸びないけど、羽根を頑張って伸ばすってことで」
と、私と同じくお師匠様に連れられてきてしまったバドさんがポケットに両手を突っ込みながら笑うのでした。
「
私は前だけを見ながら、先生がた――と言っても学校のではない――と連れたって、目当てのドレスショップに向かって歩いている。
前だけを見て、というのは
事の発端はお師匠様の『
で、話は冒頭に戻って礼服の一つくらいは持っておけ、というありがたいお言葉が今の状況を作ったのでありました。
「だがよ相棒、ハイネの服を選ぶのにイイ歳した野郎が三人ってどーよ」
それー! それですブラックせんせー!
はい。私が前しか向いて歩けない理由がここにあります。
右にお師匠様、左にブラック先生、後ろにバドさんという賞金首でなくっても裸足で逃げ出すような面子が私をどこぞの要人よろしくがっちり囲んでロンドンを歩いているのです! SP必要な身分じゃないんですけど!! たすけて!
「……ま、その辺は
アメリカ人らしく物量で攻めた結果がこうである、と。
ううう。それなら私一人をロンドンに来させて、ほら! それなら私はこっちに友人がいるのだし!
とも言えない私は弱いのでした。
「それに」
と、目当てのお店の前で足を止めたお師匠様は、そのドアの上にかかった看板を見上げて、
「……ハイネ。手前様がひとつもドレスの
「…………」
「此処はオーダーメイドが主でな。正直に言うなら、己の趣味じゃあ、ないよ。だが手前様に相応しいだろう」
「畏れ多すぎるんですけど。オーダーメイドとか富裕層すぎませんか」
「なら、少しでも早くそれに似合った自分になるんだな」
そっけなく言って、お師匠様はドアを開けた。
そして。
「んじゃ、始めるか。まずカタログからメインを選んで、そっからハイネ用に変えていくぞ」
と、試着室の前で
「ハイネ、これ着て来い」
「き、着ました……」
「んー」
パチン、と指を鳴らしてチェンジを促すお師匠様。
「き、着ました……」
「んんー」(パチン)
「あ、あの、どうでしょうか」
「兄弟、どう思う?」
「んっんー。ちとお堅いかな!」
「んじゃこれで」(パチン)
「これはこれで派手すぎだろー!?」
「じゃあバドが見繕えよ」(パチン)
「……あと一手足らんな」
「うん、なんかこう。や、似合ってるぜハイネ! だけどちょい物足りないんだよなー」
「ネックレス?」
「まだ貴金属を侍らせる歳でもねえな」
「ストール」
「「それだ」」
「……はひ、いかがでしょうか……」
そうそうたるメンバーにうんうん唸られながら着せ替えモード搭載の蓮花寺は疲労がMAXでしたが。
「……決定だな」
最後の一手は、私が普段から羽織っているパーカーのイメージで決まったらしい。
「では店主、この段取りで頼む」
と、お師匠様が決を出したところでその電話が鳴った。
「ハロー。どうした警部。己は暫くオフって決めてンだ。飲みの誘いなら一週間後以降で頼むぜ。――なに」
そこで、どうやらサクライ警部とお話しているであろうお師匠様の目が、何故か私に流れた。
「…………まぁ、良いぜ。そう言うことなら手伝ってやる。だが手前様はアメリカだろう? ……ふん。今回ばかりはあまり期待すんなよ、武装なんざ特に持って来ちゃいねェんだ。じゃーな」
「どうしたんです? お仕事でも入りましたか?」
このマヌケな言葉を普通に出した私を明日の私は呪っているだろう。
しかめっ面で通話の切れた携帯の画面をしばらく睨んでいたお師匠様は、次には「にぃぃ」といつもの底意地の悪い、言っては何ですが世界<最強>のカラーズに相応しくない悪役ちっくな笑みを浮かべて、こう言ったのでした。
「抜き打ちテストだ、ハイネ。いまこの場所にミリオンダラーが出たっつー報せがサクライから入った。手前様がご執心の連中、な」
どくん、と心臓が跳ねて、それから止まる。
「え、いや、その」
まって。まってください。
私の動揺を置き去りに、チャイルド=リカーは店を出る。
「己の弟子、っつー肩書きを除けば手前様はまだ、有象無象のカラーズの若造だ。今の時点で連中を『自分の獲物』だっつっても効果が見込めないのは解っているよな?」
「で、でも二年。二年は待つって」
恐怖に心が凍りつく。私の獲物。私の――友人。【大強盗】OZ。
「あぁ、だから今回は抜き打ちのテストだ。特別に、手前様に己を止める権利をやろう」
そして、半ば停止しかけた思考とは裏腹に、恐怖や脅威の
現代に生きる女子高生をなめてもらっては困る。パソコンのブラインドタッチができなくとも、日常から手放せないコレの操作はちょくちょく大人の理解を超えるのだ。
具体的には授業中のステルススマホ弄りとかいう教育的によろしくないスキルである。
「くれぐれもカラーズの権利を剥奪されるような
送信。宛て先は――決まっている。
「うーわ。大変なことになっちまったなぁ。オレはちょっとそこのカフェでのんびりしてるから! ヤだよOZの連中の恨み買うとか!」
始まる前から戦線離脱を宣言するバド先生。そのフットワークの軽さを見習いたい。
「バド。手前様、この辺りに詳しいよな?」
「は!? 詳しくなんてねーし!」
「なら詳しくなるよな?」
「ふっざけんなよクソ賞金稼ぎ! ヤだって言ってンじゃん! オレは自分に飛び火するような近場でお仕事しないんですぅー!!」
あ、だめだこれ。バドさんは押し切られる。
「んじゃ、オレは静観だなー。その辺のバーでギネスでも飲んでるぜ。頑張れよ相棒」
「なに言ってンだ手前様も手伝え」
「チャーリーこそ何言ってンの!? オレはどっちかっつーとハイネの味方だからな!」
「残念だ。此処で【七番】を捕まえても己は構わんのだが」
「卑怯者ォ!? や、フツーに逃げますけどね?」
「まぁ待てよブラック。耳貸せ」
そしてなにやら耳打ちをするお師匠様。ブラック先生はふんふん、と頷き。
「よし乗った! Sorryハイネ! 今回は敵に回るぜ! グッドラック!」
びし、と親指を立てるブラック先生。くそ、捕まってしまえ。
なんということでしょう。私の服を選びに来た、私の先生である三人は一気に私の敵に変わってしまったのでした。シンデレラもびっくりの変身魔法である。
「んじゃ、スタートっつーことで。せいぜい頑張れよ、ハイネ?」
イヤダーヤメローと喚き散らすバドさんの首根っこを掴んで進軍を開始してしまう白黒コンビ。
私はこの事件に表立って関われないまま、観客席から彼らのサポートを行わなければならなくなった。
だけど。何があってもディナーが豪華になる結末は回避しなければならない。
私は、私の持てるものを総動員して、この暴君を止めなければならないのだった。
最初の一手はもう打った。だから次は――
「きっ緊急事態なんです! どうか私を助けると思って助けてください!!」
テンパりきった私の言葉が、琴線のどの辺りに触れたのだろうか。電話の向こうでくすくすと笑って、
『かしこまりました。ハイネちゃんならいくらでも助けます。詳しい話をうかがっても?』
チャイルド=リカーが初手で
どうかどうか、きちんと逃げてね、OZの皆さん。
/
≪Pi。マイスター。ミス・レンゲジからメールです≫
「ハイネから? 読み上げて」
≪Pi。『今すぐ逃げて。お師匠様たちが騒ぎを聞きつけました。一緒にこの街にいます』。以上です≫
「お師匠様――チャイルド=リカーか。たちってことは……うわぁ。これは本当に遊んでられないな。レイチェル、無線で皆に教えて」
≪Pi≫
事態はどたばたなまま急を告げる。
強盗行為が終わったはずの物語は、獲物が意思を持って街中を駆け巡り、たまたま居合わせたもう一組のミリオンダラーと、運が良いのか悪いのか同じ街に来ていた色つきのカラーズの乱入によって、一大演目にすり代わる。
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