#2 Vago(8)


「付き合わせて悪かったわね、


「なに、礼には及ばんさ。知らないかい? 女性の買い物に付き合う場合、男性の腕の中に積み上がった物の量が、そのまま甲斐性になるのさ、


 可愛いものさ、と微笑む青年を「さすが、良く回る口だこと」と半眼で見た後、少女はそのポーズを崩して同じように笑った。


「とはいえ、私の物まで新調する必要は無かったのでは? 君が着飾る分には誰の目にも嬉しいがね」


「何を言っているのかしら、貴方は。良いこと? このわたくしの隣に立つのよ。貴方が几帳面できちんと礼服を着こなせることは知っています。靴にも気を遣うことだって。けれど、社交界は魔窟よ。用意してし過ぎることなんてないの。それは、わたくしたちのお仕事だってそう。良くって?」


「君がそう言うのであれば是非も無く。……それだけが理由かい、と意地悪も言うけれどね?」


「ま。本当に意地悪。そうね、気が張ってるのは認めるわ? 最近マリーに面白い話もできなくって。無意識にハードルを上げて来ていることに気付いているのかしら、あの子」


「ふん? 噂の“ウェンディ”か。ピーターパンも大変だな、キャロル嬢。あぁ、それで今度の獲物はアレを……?」


「なによ、悪い?」


「いいや、私も一目見たかったからな。薔薇には少し心が騒ぎ立てられもするが――おや?」


「貴方こそレオにご執心ね……っと。胸中じゃなくて街が騒がしくなってきてるわ。……何かしら?」


「君のその、怖がる素振りで好奇心旺盛な顔は楽しいが――どうにもきな臭いな。我々の素性が関係しているようにも思えないが……」


 きょろきょろと見回し、振り返る。その瞬間――


 何かを銜えて猛スピードで公道を走り抜ける一匹の犬と。


「……見つけたぁ! 姫、坊! 上からナビ頼む! 大通りから外れやがった!」


 路上に急停止する旧式のワーゲンから躍り出てその犬の後を追う、大人げない青年。


「わ、わかった! カカシは全体見ててっ! あたしがレオのサポートに入るっ!」


 その上空、ビルの隙間を縫うように走る赤いワンピースの少女。


「――――」


「――――」


 一陣の風となった騒ぎ――の元凶が通り過ぎた後、二人は目瞬まばたきを同じように一回、それから二回。


「……ねえ、貴方、レオにリベンジしたいのよね? オリヴィエ」


「……君も人が悪いなキャロル嬢。そして悪い顔をしているぞ」


「あら、失礼ね。ちょっと、ほんの少ぅし、ちょっかいを出したくなっただけよ?」


 転進。二人は申し合わせたように買い物を済ませた服屋に戻る。


「ごめんなさい、急用ができてしまったの。少しだけ預かっていてくださらない?」


「本当に申し訳ありません。閉店までには戻りますので。ああそれと、そのコサージュも包んでおいてください。……はい、どうもありがとうございます」


 手ぶらになった二人は再び店を出た。駆け足でパーキングエリアに向かい、停めてあったミニクーパーのドアを開けると、乗り込む代わりに、一機のFPボードを後部座席から取り出した。


「……作戦も何もあったものじゃないわね。アドリブになるけれど大丈夫かしら、


「君が『やる』と言ったら私はやるさ。そうだろう? 


「お客様を呼んでいないの」


「なら、これからたくさん呼び込もう」


「平日だし、記念日というわけでもないわ?」


なら持って来いだ、そうだろう?」



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