強盗童話ボイスドラマ【BBB】原作版

『BAW!』Bounty Bounce

#1 Da capo(2)

 


 時は二十一世紀。時代の代表は“賞金首”と“賞金稼ぎ”。


 それから自由に空を駆ける夢の機構――FPフェアリーパウダー


 世界を賑わす八組の劇場型賞金首【ミリオンダラー】と、ライセンス持ちの専業賞金稼ぎ【カラーズ】。


 物語の主役はミリオンダラーが二番。【大強盗】OZ。その滅茶苦茶な強盗行為は世の中を多いに湧かせ、賞賛と喝采の替わりに、その首にかかる懸賞金が今日も跳ね上がる。


 ――主人公たる少年、カカシ曰く。


『OZは獲物を逃がさない』


 言葉の通りに、事は容易たやすく運んで。


 あとはいつものように、サイレンや銃声、悲鳴よりも先に行方を眩ますだけで良かったのだ。



 /


「……ハズだったんだけどなぁ」


 後方に金色の粉を振り撒き、風を切って進むFPボード。ドロシーの呟きはキィン、と小気味良い走空の音に紛れて消えていった。


 眼下に広がる街並みは、寝ている間に花火を仕込まれたように慌しい。


 それはそれで、彼女――彼女たちには茶飯事にしてしまう日常、だったのだが。


「まったくもう! あとでお説教だからね……!」


 なにがどうしてこうなった。ドロシーは眉をつり上げて怒った表情を作ると、落雷のようなカットで上空から市街地に向かった。


「ぜぇ~~ったい逃がさないんだから!」




 /これがこうしてこうなった。




「こちらドロシー! 無線はどうかなー? テステスッ! ねぇスズー! 準備はオッケー?」


「……感度良好、だ。こちら、スズ……誤差はあって無いようなもの、だ。レオ、お前はどう、だ?」


「オーライ。姫の髪がバッサバッサ舞ってるがスピードは落とさねぇよ。ははッ坊! 準備できたらいつでも始めなぁ!」



「――了解。いくよ、皆。……レイチェル、ファイア」


 ≪Pi.かしこまりました、マイスター≫



「――ハイヤーザンザサンの掃射及び目標の護送車、一時停止を確認っと。さぁ出番だぜ姫! さらいなぁ!」


「はーい! ドロシーいっきまぁーすッ!!」



「……爆風に気を付けろ、だドロシー………発射」


「護送車の装甲突破確認。……スズ、絶妙だよね。僕は毎回、中身が無事なのって凄いと思う。あ、ドロシー。突入角度は気持ち左から入った方が良いよ」


「りょうかーいっ!」


「こちらレオ。姫が目標、『女王陛下直筆の騎士任命状』の奪取に成功。見届けたぜ。……んじゃ旦那、あとは俺等の本番だ。ショウタイムといこうぜ」


「了解、だ。カカシはお宝とドロシーを回収次第、先に戻っていろ、だ」


「うん、二人とも気をつけてね」



 ≪Pi.お帰りなさいませ、ドロシー様。お怪我などはございませんか?≫


「ただーいまっ! ふふん、だいじょーぶだよっ! トトも良い子にしてたかなぁー?」


「わん!」


「……でさぁ。どうして今日に限って連れてきたの、トト。皆の動きよりも肝を冷やしたんだけど」


「だ、だって今日はなんか離れたがらなくって。どうしても一緒がいいって言うんだもん……」


 ≪Pi≫


「ドロシー、犬の言葉がわかるんだ。凄い特技じゃないか」


「う、うるさいっ! もー、早く帰ろ? ねっ?」


 ≪Pi.それでは帰投いたします。経路確認――オールグリーン≫


「じゃ、トトはドロシーが持っててね、はい」


「……はぁーい。カカシは冷たいねえ。トート、こっちおいでー」


「わん!」


「ちょっと、トト。駄目だよ? これは大事なお宝で――わぁぁ!?」


「なに、どうしたのドロシー………………はっ?」




 ≪緊急事態発生。Mr.ヴァレンティーノ、スズ両名は至急対応をよろしくお願いします≫


「あぁ? 何事だよ。FPライダーでも現れたか?」


「此方では空の戦力を確認していない、だ」


 ≪Bibi.たいへん申し上げにくいのですが……≫


『ごめん! レオ、スズ! 助けて!』


「だからどうしたよ、姫」






『トトがお宝くわえて降りちゃった!!!』


「!?」


「!?」


 ≪Pi.上昇直前の出来事でした。三番通りのオープンカフェの屋根に着地後、市街地を走り出しました≫


「あンのバカ犬……!」


『とっトトはバカじゃないもんー!』


「じゃあアホ犬だクソがッ! 旦那、いけるか!?」


「是非もない、だ」


『……目標はトト、それから令状の再奪取に変更。皆、その、うん。頑張ろう』



 ……以上が、終わりかかった出来事が再始動した経緯いきさつで。


 それで終わるのならば、やはり事は容易く済んだのだろう。



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