3.
「いい?」
「うん……でもなんだか、やっぱりちょっと、恥ずかしいね」
「俺も」
薄暗い、カビのにおいが漂う体育倉庫で、わたしたちは向かい合う。
「いくよ」
「うん」
そう言って、お互いの胸に、自分の手を置いた。
はじめてだれかに触れられる感触。
もうそれだけで、わたしの心臓は破裂しそうになる。
「ゆっくり、ね?」
「……わかってる」
胸に置いた手を通じて、相手の中にあるダイスを探る。同時に、彼の手から出た見えないなにかが、自分の体の奥を探るのがわかる。
それがなんだか、その……。
すごくいけないことをしているような感じがして……。
「ごめん! 痛かったか?」
思わず漏らした吐息を飲み込んで、わたしはふるふると首を振った。
……やがて、互いが互いの核心を探り当てる。それはダイスの輪郭。自分のとはまたちょっと違うけど、確かに、触れて、感じている。
目をあわせ、うなずく。
「せー……のっ!」
あのきらめく光が、彼の胸から、そして私の胸から、激しい流れとなってあふれだした。ふたつはやがて目の高さで集まり、形を作る。
縦横高さ十五センチの立方体。
わたしと駆人くんの、大事なところ。
真っ黒なわたしのと違って、彼のそれは淡いスカイブルーだった。振られた日に広がっていたあの空の色を、もっと優しくした感じ。
駆人くんが、わたしのダイスをじっと見つめている。
「これが、三栗山の……」
「あ、あんまり見ないで。恥ずかしい」
「お、おう、すまん」
そんなことを言っているうちに、ふたつのダイスがゆらゆらと揺れはじめた。相手のダイスを呼び出した時点で、交配はもう、始まっているのだ。
二つのダイスが、角の部分から少しずつ光の粒にかわって、ひとつに交わっていく。彼のスカイブルーとわたしの漆黒が溶け合い、渦を巻いて輝きはじめる。
ひとつになったそれは、ゆらゆらと蜃気楼のように揺れながら、透明な淡い光を放った。
わたしたちは手を握って、その光景を見つめている。
「きれい……」
そして、ひとつになったダイスは勢いよく弾け、ふたたび無数の粒子にかわって、体の中へと流れ込んでいった。
わたしの体に。
ふたつのダイスが。
心にぽっかりとあいた穴に、なにかが注がれてゆく。前以上に。今以上に。
あふれた光が体をめぐりめぐて、血管のひとつひとつ、細胞のひとつひとつを、すみずみまで洗ってゆく感じがした。閉じたまぶたの裏でいくつもの星がきらめき、耳の奥でぱちぱちとなにかが弾ける。
先生が言ってたとおりだ。
ああ、
なんて、
なんて素敵で、幸せな気持ち――!
「おい、三栗山、大丈夫か? おい!」
体を揺さぶる駆人くんの手のあたたかさを感じながら、
わたしの意識は光に溶けた。
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