4.

「――だから、ね? もっと自分に正直になってもいいのよ。また何かあったら、いつでも来てね」


 先生の手がふわりと頭を離れ、生徒相談室のドアが閉まる。


 泣きすぎてだるくなった体を引きずるようにして、わたしは歩き出した。


 すべてを打ち明けたわたしに、先生はいろいろな話をしてくれた。……なんだか難しくてよくわからなかったけど、でもすこし、心が楽になった気がする。


 それから、愛美先生が教えてくれたこと――


『本当は個人情報だから教えちゃダメなんだけど……特別よ? あなたの好きな彼、まだ交配してないみたい』


 どういうこと?

 彼が梅子と付き合ってから、もう二か月。

 とっくの昔に、交配しているものだと思ってたのに……。


 喜びと疑いが混じった落ち着かない気持ちで、わたしは三階の廊下を歩く。


 落ちかかった夕日が、天井や壁を赤く染めていた。

 窓の向こうには、大きな裏庭の森と、取り壊し予定の旧校舎が見えた。

 もっと子供が多かった昔は、この学校もにぎやかだったのかなあなんて考えると、少しだけセンチメンタルな気分になる。


 と――


 見下ろした裏庭を、泣きながら誰かが走り去っていった。


「……梅ちゃん?」


 彼女が来た方向を見て、わたしはハッとする。


 裏庭の体育倉庫。

 その前に、中村くんが立っている。

 わたしを振ったときと同じ、あの無表情で。


 先生の言葉が脳内でリフレインする。

 

 ――もっと、自分に正直になってもいいのよ。

 

 迷いは一瞬で振り切れた。


 わたしは走り出す。

 彼のところへ。

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