☆友だちどうしじゃ、争えないっ!
1.
「ねえねえねえ知ってる? A組の加藤君、交配しちゃったんだって」
「えっ嘘、マジ? 誰と誰と?」
「相手はまだわかんないんだよねぇ、調査中」
「加藤君ってさぁ、あの影うっすーーいコでしょ? あの顔で意外とやるじゃん」
「おとなしいタイプの方が意外と経験早かったりするってやつぅ?」
隣の席に集まって、きゃいきゃいとウワサ話に花を咲かせている同級生たちを、わたしは横目で眺めていた。
ああいう雰囲気、ちょっと苦手……。
わたしも輪に加わったほうがいいんだろうけど、うまくやれる自信がない。
手元にある紙に視線を落とした。ついさっき、緊急で配られたプリントだ。
(それにしても、なんで学校は紙のプリントを配るんだろう? 漫画だって小説だって教科書だって、ふつうは電子ペーパーなのに。お父さんに聞いてみたら、「キョーイクゲンバってのはいつの時代もそういうもんだ」だって。へんなの)
ねずみ色のわら半紙にでかでかと印刷された文字を、目で追う。
『異性との交配は慎重に!』
――毎年この時期になると、軽い気持ちで交配しちゃう生徒がいるの。でも、交配はあなたたちの将来にも関わる大事なこと。決して気軽な遊びじゃないのよ。このプリントをよく読んで、慎重に考えなさいねぇ……とは、さっきプリントを配った先生の言葉。きょうの放課後、男子は追加の講習があるらしい。
プリントはこう続く。
『交配相手は、あなたにとって本当に大事な人ですか? いちど交換した遺伝子情報は、リセットできません。その相手に、本当にあなたの遺伝子を託してもいいのかどうか、交配を申し込む方も受ける方も、もう一度よく考えてみましょう』
そんなの決まってるじゃん。
すぐさま思い浮かぶのは駆人くんの顔だった。
女の子みたいにきれいな肌。
大きくて黒くて吸い込まれそうな目。
ほかのガサツな男子とは全然違う、物静かな雰囲気。
確かにちょっと冷たいところはあるけど、それもなんだかドキドキして――
「あれ、梅子おかえりー」
冷たい水をかぶったような気分になる。
「ただいまー」と同級生にこたえる声。すたすたと近づいてくる足音。
そして彼女は、わたしのななめ後ろの席に座る。
「ラブラブだねえ。こんな短い休み時間にも会いに行くなんて」
「いや、別に、今度の休みどうするって話しに行っただけだから……」
「あのカタブツの梅子に、男とはねえ」
「しかも、相手はあの女嫌いの中村駆人くん!」
「いーーなぁーーわたしもひそかに狙ってたのに」
「あんたじゃ無理でしょ。今の彼氏で我慢しときな。……ね、ふたりでいるとき、
どんな感じなわけ? 甘えたりすんの?」
「べっ、別に普通だよ……授業の話とか、部活の話とか」
「いいなー初々しい」
「梅子ぉ、交配は慎重にするんだぞー」
「こっ、ばっ、なに言ってんのよもう!」
「あはは、チョー真っ赤になってる!」
「やーらしー」
キラキラした会話を、必死でプリントを読むふりをして聞き流す。
背後を盗み見ても、
屈託なく笑う梅子はもう、
わたしの方を見ようともしない。
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