仲の悪さ

「うーん、疲れた。ミオさっき聞いた通り、気をつけろよ」

「うん、わかった。次からは一言かけるようにする」

 いや、そういう問題じゃないけど。まだ、一言言ってくれるなら止めようもありそうだ。

「あのぅ……すいません」

「んっ、おれ?」

 目の前には女子二人がいた。

 よく見ると、顔もそっくりだ。双子…かな。

 髪型はさすがに違うみたいだけど。

「さっきはありがとうございました」

「別に、何もしていないと思うけど…」

 正直思い当たる節がない

「その前に名乗るのが普通じゃないのかな」

 いつも通りミオの抑揚のない声だ。

「すっ、すいません。わたしは堅香かたかサツキって言います。こっちは姉のツツジです」

「俺は、水戸ナオ。でっ、こっちの抑揚のないしゃべり方するのがミオ」

 ミオは小さな声で「どうも」と言って会釈をした。

「それで、おれ何かしたっけ?」

「先ほどメガネをかけた方と背の高いの方がけんかされていた際に間に入ってくださいましたから」

 メガネをかけた方と背の高い方……ああ、博士と村瀬か。

 この二人のけんかを知っているってことはこの子たちもゲームプレイヤーか。

「別にあの二人がけんかするのはよくあることだし、止めるのはいつも俺だから気にしなくていいよ」

「そんなによくケンカするんですか?」

「そりゃあもう。それに中学の時はあんなもんじゃなかったよ」

「ナオさんはあの二人と中学の時からのお知り合いで?」

 知り合いというかなんというか。うーん…どうこたえるべきだろうか。

「おーい!ナオー」

 ものすごいスピードで駆けてくる巨体が目に入った。

「おおっ、まさと。どうした?」

「どうしたって、お前気がついたら教室にいないから探してたんだよ」

「ああ、悪い悪い。そうだ、ねえ二人はお昼持ってきてる?」

「いえ、今日は食堂で食べようと思っていて…」

「ならちょうどいいや。村瀬たちの話もしたいし、今日は作りすぎたから一緒に食べよう」


 ○


「はあーっ、おいしかった」

 そういうとツツジ?のほうはひいてあったビニールシートの上で横になった。

「もう、お姉ちゃん。行儀悪いですよ。すいません、ごちそうさまでした」

「いやあ、こんなに人が多くなるならもう少し作っておけばよかった」

 そう言いながら、きれいになったお重を片付ける。

「それにしても、この学校にこんなきれいで人もあまりいない中庭があるなんて」

「そのお礼はこっちに言ってあげて」

「ああ、そうでしたね。山里さん、ありがとうございました」

「別にいいわ。趣味で調べてたわけだし、それに全員がゲーム参加者なら話しやすいし、情報も得やすいから」

 そう、今ここにいる全員…つまり、俺とミオ、有里花と堅香姉妹、そして”まさと“こと田上雅人たのうえまさとはリバーシ・ゲームのプレイヤーだったことが判明した。

 有里花はみつけていたが、まさか雅人までいたとは思わなかった。

「それにしても、ナオさんは料理が上手なんですね」

「そんなことないよ。まあ、うちは料理でも何でも自分でしなさいって家だから知らない間に身についてたんだ」

「あーっ!すっかり忘れてました」

「どっ、どうしたの!?」

「すいません急に。先ほどどうして仲が悪いのかを聞くつもりだったのに忘れていました」

 そういえば、そんなこと言ってたな。あまりにも大きな声を出すから何事かと思った。

「でっ、どうしてなんですか!!」

 ぐっと、顔を近づけて聞いてくる。

 さっきまでのお淑やかさと打って変わってなんというか凄みを感じる。

「とっ、とりあえず、いったん落ち着こうか」

 「あっ、私としたことがすいません」と言って座りなおした。恥ずかしかったのか耳まで真っ赤だ。

「えーっと…どこから話せばいいかな。どう思う、まさと」

 雅人はうーんと考えてから「とりあえず、生徒会の制度からじゃないか」と答えた。

「俺らが通ってた中学って生徒会選挙の時に必ず与党と野党がでるようになっているんだ。で、各役職に人を出して選挙を行う。過半数取ったほうのチームのリーダーが生徒会長になって取れなかったほうのリーダーが副生徒会長になるんだ。それでその時の生徒会長が村瀬で副生徒会長が博士だったわけ」

「じゃあ、村瀬さんはその時に足を引っ張られたから真田さんと仲が悪いんですか?」

「真田はそんなことしないよ。むしろ、健全な生徒会運営だったよ。意見が一致しているときはちゃんと賛成して詰めが甘かったり効果がなさそうだったら反対する。理想の野党って感じ」

 「へえー」と感心した声がサツキさんから出た。

「まあ、もともとそりは会わないし口喧嘩は絶えなかったよ。止めるのはいつも俺だったけど」

「ナオさんは、生徒会役員だったんですか?」

「いやいや、おれは文化部代表者。でっ、意外かもしれないだろうけど雅人は運動部代表者。基本的に各部活動の要望を伝えるのが仕事」

「へえー。じゃあ、あれがいつも通りというわけですか」

「うーん……まあ、そんな感じ」

 もっと、細かい話をすると昔はもう少しましだったんだけどほぼ初対面の人に込み入った話をするのもなあ。ほぼうちの黒歴史みたいなもんだし話すのはやめておこう。たぶん、まさしも察しているだろうし。

「そういえば、ナオさんたちの学年以外の生徒会はどうだったんですか?」

「どうって、言われても直接かかわりがないから噂程度の話しかできないけどいい?」

 堅香さんは「もちろんです」と答えて興味津々の様子だ。

「私も聞きたい!」

 有里花、お前もか…

「そうだな、おれたちの二年上は二党じゃなくて複数党で選挙で、結果は見事にばらけたわけ。普通なら、生徒会運営どころじゃないんだけど、その時の生徒会長がすごい人で全員まとめ上げて過去に類を見ないほど生徒会運営をスムーズに行ったみたい。しかも、その人のあだ名が”ゼウス“って言われてたんだ」

「ゼウス……ですか。また、たいそうな名前ですね」

「なんでも、くせ者ぞろいの生徒会をまとめ上げる様と雷が落ちたと錯覚するぐらい怒鳴るからそうなったんだって」

「それは確かに面白いですねー」

「あとはーー」

 続きを話し始めたタイミングでちょうど予鈴がなった。

「じゃあ、この話の続きはまた今度。次からは定期的に報告会も兼ねてやろうか」

「そうですね。お願いします」

 そういうと、サツキさんは眠たそうな姉を引っ張りながら教室へと戻っていった。

 さっき言いかけたときに思い出したけど、俺らの一つ上の生徒会長 浅田龍一あさだりゅういちの独裁政治を作り上げた首謀者がタカセって名前だった気がするけど…まあ人違いかもな。

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