強欲な結論

「やあ、やあプレイヤー諸君。こんばんはー、みんなのアイドルマーちゃんだよー。昨日の今日で申し訳ないんだけど重大発表があります」

 昨日と同様にスーパーの屋上駐車場に集められた。

 深夜のものすごく眠い時間にもかかわらず、ハイテンションな司会に全員がキョトンとしていた。となりにいる高瀬さんもやれやれといった様子だ。

「でっ、なにが重大発表かというと今日すでにゲームクリア者がでました。スムーズなゲーム進行は私たち運営としてもうれしい限りです」

 昨日の今日で勝負がついたのか早いな。

 もっと時間がかかるものだと思っていた。昨日の適当なルール説明でも場合によっては一生がきまってしまう可能性だってある。昨日の例えで言うなら、八方美人な奴がはっきりと物事の芯をついてしゃべるようになるなら間違いなく友達がいなくなる。というか、少しも建前のないやつと関係を持ちたくない。

 あの真田ですら、お世辞や建前ぐらいは言う。むしろ、こいつなら本音で話せるって思われない限りそんなことは言わない。ある意味、親友に格上げされたと思ってもいいぐらいだ。

 俺が逡巡しているさなかゲムマスターは説明を続けていた。

「――さて、今回はこのようなルールで勝負してもらったわけです。では、そのゲームクリア者の名前を発表します!栄えあるクリア者は裏!真田博士」

 「えっ……」誰かがそういったのは聞こえた。

 そもそも、裏の勝利でしかもあの真田が?

「はい、じゃあ残り七人頑張ってね。解散!」

 そういうとゲームマスターはパンッと手を鳴らした。

 気がつけば次の日の朝だった。

 ○

「おーい、博士いるか」

 まあ、返事しなくてもいるのは知ってるけど。

 だから、堂々と技術室に入っていく。

「返事も何もしていないと思うけど?」

「実はお昼始まってすぐに入っていくのが見えた」

「はあ、相変わらず抜け目ないな。どうせお前のことだ、おにぎりかサンドイッチかだろ」

「正解」

 そういって、一般的な大きさのお弁当箱を出した。

「何つくってんの?」

「手作りラジオだ。キットを買ってはんだ付けしていた」

「へえ、あとどれぐらいでできそう?」

「もうできた。あとは、これを回してっと」

 博士は、ラジオについているつまみを回した。

 すると、ラジオからすぐにDJの陽気な声と音楽が流れる。曲名は知らないけどCMに使われている洋楽だった。

「聞きたいのは勝負が決まってからどうなったかということか」

 唐突に博士は話を切り出した。

「まあ、端的に言うとそうだけど」

「まあ、そう変わらないさ。結局、俺は俺ということだろう」

「でも、おれに対する言葉遣いが柔らかくなった」

「そうか、あまり気にしていなかったが」

 たしかに、変化としてはあまり大きくない。ただ、いつもなら「何つくってんの?」と聞いた時点で本題の話をしていたと思う。思っていたよりも性格の変化が大きくない。

「ただ、おれ自身が気づいた変化なら二つある」

「というと?」

「まず、村瀬にけんかを売られても買わなくなった」

 それはそれは、さぞ立派なことで。

「あれ、それに気づいたということはもうすでにあったのか」

「ああ、朝から教室に『見損なったぞ』と叫びながら来たよ」

「それで、いつもなら感情的になってキレるところがそうはならなかったと」

「そうだ」

 その時の教室にいた人間は死ぬかと思っただろうな。とくに中学校時代の二人を知っている奴は。

 おれたちが今通っている高校は中学校の校区からあまり離れていないという理由と偏差値的にちょうどいいという理由でほとんどの生徒が入学してくる。逆に、同じ学年で村瀬と博士の中の悪さを知らないやつはめずらしい部類に入る。

 そんな状況で、村瀬が怒鳴りながら入ってきたのだ。ICBMが撃ち込まれたと思うほどの衝撃だったに違いない。

 ただ、今日はそれが不発に終わったのだ。

「だから、みんな朝から口をポカンと開けて立ってたのか」

「みたいだな」

「納得したよ。それで勝負ってなにしたの?」

「自分がどうしたいかを相談しあった」

「というと?」

「俺の異能は”フルオーダー“、表は”セオリーコンストラクション“、まあ、簡単に言ってしまうと、工作に特化した能力か勉強に特化した能力だ」

 つまり、ミオの異能と違って戦闘系ではないわけか。なんかこう、もっとバトルマンガみたいに戦うためだけに特化した能力かと思ったがそれも違うようだ。あの、よくわからないテンションで登場するゲームマスターはいったい何がしたいのだろうか。

「続きを話していいか?」

 「いいよ」と返して頭を博士の話に切り替える。

 今重要なのはどういう理由で勝敗がついたか、だ。

「どうして俺が異能に注目したかというと、ルールにも書いてあったが異能は一生使えるからだ。自分の持っている異能はこのゲームに限らず普通に生活していくうえでも使える。だから、将来なにになりたいかで決めた」

「つまり、モノづくりに携わって仕事をしたいと」

「そういうこと」

 博士はそっけなく答えた。

「でも、セオリーコンストラクションって直訳すると論理構築って意味だから理論物理とか数学とかですごい成果を出すこともできたんじゃないの?」

 ふと浮かんだ疑問をぶつけてみた。

 どこまでの論理構築ができるかは知らないけど、勉強すれば数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞?かなんかは取れるのではないだろうか。素人がいきなりどう扱えば危険かとか突然わかるようになるくらいだ。それぐらい、造作もないだろう。

「言うことはもっともだ。だけど、表の自分が言ったんだ。『そんな、将来が決まった生き方が面白いとは到底思えない。それなら、可能性が広いお前のほうがいい』って」

 いかにも、博士が言いそうなセリフだと思った。

 そして、もうひとつ前の博士との違いに気づいてしまった。一言も憎まれ口をたたいていないのだ。いつもなら、皮肉の一つや二つこの短い会話でも言っていた。それがないだけで、少し寂しい気持ちになる。

 この小さな違いが、親密であればあるだけ気づいてしまう。このゲームの怖さはこういうところなのかもしれない。

「なるほど…ありがとう」

 そういって、席を立ち、出口にむかった。

「ナオ、最後に二つだけいいか」

「なに?」

「一つ目は、負けたほうが吸収されるというのは性格も異能も一つになるということ。今のおれはフルオーダーに比べれば力は弱いがセオリーコンストラクションも使えるし、内心怒っているときもある普通の人間ということ」

「二つ目は?」

「表のおれからの伝言。『どっちが勝とうが気にしないし見れないが表のお前のほうがいい』とさ」

 なるほど、裏が誰なのか昨日の時点で気づいてたということか。

「わかった。善処するよ」

 そう言い残して、技術室を出た。

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