ゲームスタート

 どうしてこうなった。いや、こうなっている。

 おれの隣に見知らぬ女の子が寝ている。しかも、すやすやと心地よさそうに寝息を立てている。

 黒髪のショートヘアーに桃色と言ったほうがしっくりくるピンクのパジャマだ。

 もちろん、未成年であるからお酒による事故ではない。

映画やドラマでそういう過ちがあることは知ってはいるけど、実際に起こるとは考えられない。

 あと、自分で言うのも変な話ではあるけれど貞操観念はしっかりしている。俺は堅実なタイプだし付き合ったこともない。

 まあ、個人的に心が折れそうな話をしても仕方がない。

 でっ、彼女は誰だ。

 ちょうどその時、部屋の扉が突然蹴破られたみたいにものすごい勢いで開いた。

「おはようございます!ナオー朝だよ起きろー!」

 ああ、最悪だ。こんな時にいつも通り、人間目覚まし時計がやってくるなんて。

 日頃の自分の寝起きの悪さを呪ったところでもう遅い。

 幼馴染である有里花が金髪のツインテールを揺らしながら部屋に入ってくる。

 もちろんこんなところを彼女に見られるわけにはいかない。隣にいる女の子に布団をかけてそれがずれないように慎重になおかつ素早く布団から出る。

「ほら、今日はもう起きたから。下に行こう」

「ん?いつもそんなに寝起きよかったっけ、なんか隠してない?」

 さすが幼馴染いつもながら鋭い感をしている。

「何もないよ。だから、ほら下に降りよ」

 できれば彼女が降りて母さんと飯を食っている間に何とかしたい。

「やっぱり、なんか怪しい。なに?私に言えないことでもあるの」

 「いやいや、ないって」といいながら必死に彼女を部屋から少しづつ押し出していく。

「ナオ、おはよう」

 さっきまで寝ていた女の子は抑揚のない声でそういった。まだ眠いのか目をこすりながら伸びをする。

「ななな、ナオ!どういうことか説明しなさい」

 プルプルと肩を震わせながら、問い詰められた。

 正直自分もこの状況をわかっていないのに答えられるわけがない。

「いやあ、この前助けた猫が人型になってサービスしに来てくれたのかな。なんて、わはははっ」

 言い訳としてもジョークとしても最低レベルの話をしてしまった。正直、顔から火がでそうだし、すでにつらい。

 幼馴染にも通じなかったようで顔を真っ赤にして鬼の形相である。

「そんなわけあるかーっ!」

 彼女の怒声が家中を駆け巡った。

 ああ、もう最悪だ。


  …

「なあ、ちゃんと説明しなかったのは謝るから。いい加減、機嫌なおしてくれよ」

「いやだ。それならそうと説明してくれればいいじゃん」

 彼女は起こりながら早足で学校へ向かう。彼女の足の速さはたぶん一般人の倍ぐらい早いかもしれない。

 どれぐらいかというと、2㎞をニ十分で行くぐらいのペースだ。

 それがローファーだから、少し遅いものの追いつくには一苦労だ。

「それは、おれだって説明できるならしたかったよ。でも、朝起きたら見知らぬ女の子が俺のベッドで寝てましたって言っても信じないだろ。普通は」

「……」

 有里花の歩みが止まった。

「もう知らない!」

 そういうと、さっきの二倍の速さで行ってしまった。

「なんなんだよ。まったく」

 本来なら追いかける必要があるのかもしれないけど、今日は追いかけられない。

「遅い」

「違う。ナオ達が速すぎるだけ」

 後ろを歩いていた彼女は悪びれもなく答える。

「なあ、お前誰なんだよ」

「お前じゃない。私にはミオって名前がある」

 ミオ?まさか…な。

「どうして、うちのしかも俺の部屋にいたんだよ」

「それは、あなたがリバーシ・ゲームのプレイヤーに選ばれたから。そして、私はもう一人のあなた」

 リバーシ・ゲーム?もう一人の自分?いったい何を言ってるんだ、この子は。

 遅めの中二病だろうか。

「じゃあ、私は職員室に行かないといけないから」

 そういって、彼女は颯爽と行ってしまった。

「おっ、おい。ちょっと待てよ。本当にどいつもこいつもなんなんだよ」

 本当にどうして俺の周りには自分勝手なやつばかりなんだよ。

「ねえ、君」

「はい」

「そんなに、けんか腰でも来なくても」

「ああ、すいません。ちょっと、いやなことがあったので」

 声のするほうを向くと色褪せた黒の学ランに短髪、背は高めのメガネの人が立っていた。

 話しかけてきた人は、おそらく自分より一つ上の学年の人だと思う。

 知らない間に怒気がこもっていたのかもしれない。

「でっ、なんでしょうか」

「ああ、水戸ナオ君。君はリバーシ・ゲームのプレイヤーに選ばれた。もちろん拒否権はない。詳しい話を話をしたいから昼休みに視聴覚室に来るように」

「はい?えっ、どういうことですか」

 「まあ、詳しい話は昼休みにするから」と言って、颯爽と行ってしまった。

 本当にどうして俺の周りには人の話を聞かないやつが多いんだ。

 ああ、もう最悪だ。

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