第3話 話題は毒舌な読書家さん
朝のホームルーム前の教室。そこには様々な喧騒が顔をのぞかせている。そのなかでも特に多いのが、美人姉妹現るだった。
「やっぱり教室もこの話題でもちきりだね」
まつりが自前のだて眼鏡をひからせてうんうんとなんども頷く。
「腹減ってきた」
哲はどうやら関心がないらしい。あくびをお供に腹をさする。
そんな二人に挟まれた達也はなんだか気まずそうになりをひそめる。
「どうしたんだいたつやん。あまり調子がよろしくないのかい」
「腹へってんのか」
「そうじゃない。そうじゃないけど」
達也は控えめに溜め息を吐く。そして、慎重すぎるほど小声でまつりに聞いた。
「その二人ってどのくらい話題になってるんだ」
「むふふのふ~」
まつりが自慢げにポケットから一冊のメモ帳を取り出す。表紙にはまつり囃子の事件簿25と書かれている。それをペラペラとめくり、ピッたっと止めるとだて眼鏡を人差し指でくいっとあげる。
「とりあえず、私が聞いた話だと二人の容姿は端麗であるということで満場一致している。一人は黒髪にショート。もう一人が金髪のロングのポニーテール。二人とも身長は165前後。黒髪のほうの名前が御門巴。キンパの方が御門奏。巴ちゃんの方が読書家なのか朝、複数の生徒が本を片手に歩いてるところを目撃。奏は編入試験当日であるのに関わらず、制服を改造。見た目からはギャルっぽいが、絡んできたうちの不良(笑)を拳一発で沈静化。武道派なところを感じさせる・・・っと。こんなところかな。私が今朝までに集められた情報は」
休みを挟まず、なんとも流暢にすらすらと自身が集めた情報を披露する。それをやりきったまつりはどこか自慢げに胸を張る。褒めろと言わんばかりのその態度を軽く無視して、達也は思考する。
ぺらぺらと情報が沸いてでまつりの口からは大事な情報がでてこなかった。達也と話題の二人が兄妹であること。そんなにみかけるような名字ではない。これだけ話題になっていれば、もっと探りをいれてくるやからがいてもいいだろう。
兄妹という部分を隠し、それをまつりに聞いた。
「ん?それはね。たつやんがあんまりぱっとしないから、あんな印象の強い二人と繋がりあるなんて誰も思ってないってのが本音だよ」
それはそれで傷つくが、どうやら不安視していたことは防げていたらしい。今朝の事件も含めて、二人の態度から自分は嫌われているらしいという答えを導きだした達也はなるべく関わらないようにしよう。そう思っていたのだ。
「しかし、そんな話題にあがる二人だ。見てみたいかも」
白々しくそんなことをいう達也。まつりがそんな達也を目を細めて見つめる。
「な、なんだよ」
「本当にたつやんは二人と無関係なの?」
「そうだよ。お前の言った予想どおり、そんなべっぴんさんとは知り合えてないよ」
なんとか冷静を装い答えるが、まつりはさらに目を細め、達也を見つめる。 冷や汗が額に流れるのを実感しながら達也はその時間が過ぎるのを待つ。数秒するとまつりは「そうなんだ」とつまらなそうに唇を尖らす。
「そうそう」
まつりはなにか思い出したかのように、また机に乗り出してきた。
「上のほうのさ、ええっと・・・巴ちゃん!早速、生徒会に勧誘されたらしいよ」
「はぁ?なんでだよ。今日は形だけだとしても編入試験受けてるんだろ?いくらなんでもそれは根も葉もないんじゃないか」
まつりにいちゃもんをつける。同意を求め隣を見ると、哲はすでに夢の国へ旅立っていた。通りで先程から無言な訳だ。
「ちっちっちっち。これが嘘じゃないんだな」
得意気に舌をならすまつり。その仕草にイライラしつつ、達也は理由を問う。
「そんなのそうそう噂になるもんでもないだろ」
「いや、だってこの情報のソース
「それはワタクシですわ!!」
まつりの言葉を遮り、なんとも元気な宣言がとんでくる。しかし、達也は声の主の方へけして視線を向けなかった。
「無視ですの!!無視ですの!?」
今にすぐにでも泣き出しそうな声に観念して、達也はそちらへ向き直る。そこにはまつりより少し身長の低い女の子が。
「よ、金髪ロールちゃん」
「ワタクシの名前は観仏栞菜(みほとけかんな)でしてよ!」
顔を真っ赤にして怒る栞菜にへいへいと適当な返事をして、目線をまつりに戻す。
「で、そこのイギリスかぶれがその情報を」
「観仏栞菜です!!」
達也の質問にまつりではなく栞菜が冷静を装い、髪をかきあげながら答えた。
「これは生徒会長直々に出した案件ですの。まぁ、この生徒会会計のわ・た・く・しだからこそ知れる情報ですから、本当は貴方たち下のものどもが知れるはずもないのですが、そこの庶民が教えてほしいと額を擦りながら懇願するので教えてあげたまでのことですわ。それをしれたことに感謝するのね、オーホッホッホ」
なんとも高飛車な態度。達也は面倒くさそうにはいはいと頷く。それを目を光らせながら、達也に顔をずいっと近づける。
「負けを認めましたわね!」
「・・・なんのだよ」
「貴方の知らない情報をワタクシが教えてあげたのです。これはワタクシの勝ちですわね!言い訳は聞きませんでしてよ!」
「はいはい」
みての通り、達也は少し・・・というか、かなり栞菜のことが面倒だと思っている。毎度のごとく、勝負をしかけてくる。何が原因かは知らないが、栞菜が生徒会に入った当初から何かと達也にけちをつけ、やっかんでくる。達也もべつに嫌いではないが、関わるのはたまにでいい。そう思っていた。なのになんの因果か栞菜と同じクラスになってしまった。それまで、たまに顔を合わせたときにしかなかった勝負がいまでは毎日の日課になっている。
「負けを認めなさい!」
「はいはい、俺の敗けですよお嬢様」
「むふふ、言い方は気にくわないですが、これでワタクシの128勝ですわね」
正確には328敗というのが後ろにつくのだが、これをいうとまたうるさいのでだまっておく。
「正確には328敗ってのがぬけてるけどね」
まつりは平然とたつやの思いを裏切る。
「う、うるさくってよ!下民風情がわかった口を。何様かしら!恩を仇で返すとはこの事だわ。今日かったのだからもっとワタクシを褒め称えなさい!」
きゃんきゃんと吠える栞菜の声が教室に広がる。周りのクラスメートからどうにかしろと達也の体感気温がマイナスに突入するような冷たい目線があちこちからとんでくる。
溜め息を吐き出しながら、達也は栞菜に視線を向ける。
「褒め称えんのはいいが、多分、お前はもうそろそろ呼び出しくらうとおもうぞ」
「何を。負け惜しみかしら、オーホッ・・・
ピンポンパンポーン。
『二年C組、観仏栞菜さん。至急、生徒会室へお越し下さい。観仏栞菜さん。至急、生徒会室へ。以上です』
「ほらな」
栞菜の高笑いを遮った放送に達也はにんまりといやらしい笑みを浮かべた。
「なぜ貴方の言った通りに!何をしたの御門達也ぁ!!」
「なんもしてねぇよ。お前が勝手に生徒会の秘密ぺらぺらとしゃべるから、そりゃ怒られるだろ」
「なっ」
「ほら、早くいかないと生徒会長に怒られるぞ」
「くっ、覚えてらっしゃい!」
そう言い残し、栞菜はもうダッシュで教室を出る。そのあとすぐに「廊下をはしるなー!」という体育教師の怒号が聞こえてきたのに、教室は笑に包まれる。
「良うございましたねまつり殿。今日の一面が出来上がりでございます」
「たつやんも悪よの、がはは」
「うるさい」
「がはっ!」
むくりと起き上がった哲が缶タイプのペンケースを投げつける。それは見事にまつりの顔面にクリーンヒット。鼻頭を真っ赤にしながらまつりが吠える。
「なんで私だけなのさ!」
「・・・」
返事はない。すでに哲は心地よさそうな寝息をたてている。
「まったく、この子も丸くなったもんだわさね」
「お前はこんつのなんだよ」
苦笑しながら、まつりの頭をぺしりと叩く。
「そういやさ、巴ちゃんでもう一つ噂があったな」
「なんだよ」
達也は興味なさげを演出しようとしながら、聞き返す。その結果、変顔をしていた。
「なにやってんのたつやん。普通にキモいよ」
「すんません」
真顔でそう言われるとなんともつらい。達也はどうにか真顔をつくりつつ、再度聞き直す。
「んで。その噂って」
「今、生徒会雑務とドンパチやっているらしい」
「はぁ?なにそのナウい情報。信用もなにもないだろそれ」
心配して損した。
達也はほっと息を吐きながら、胸を下ろす。
「信じてないな~。ほれみろ」
そうしてまつりが携帯取り出し、情報源となるであろうメール画面を見せてきた。そこにはにらみ合う生徒雑務と巴の姿が。
がたっ!
「どこ行くのたつや~ん」
達也は椅子を蹴飛ばすと廊下を走っていた。
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