第3話

 日本の中心地から小一時間程度電車に揺られ、俺は今、群馬県に降り立つ。

 群馬県は言わずもがな、キュウリの生産量日本一を取った事があるキュウリ大国。

 生産者である下妻楓しもつまかえでという人物はどうやらこの地にいるらしい。

 しかし、腹が減った。

 そうだな。

 折角、群馬に来たんだ。

 群馬らしいものを食べたい。


「ちょっと~! そこのお兄さん! ハンカチ落とさなかった?」


 背後から片言の日本語が聞こえ、後ろを振り返るとこんがり焼けた肌に堀の深い顔があり、その女性のセクシーな胸元に俺は釘付けになった。


「あ、ああ。ありがとう」


「もう~! おっちょこちょいですね~。お兄さん。あまりこの辺じゃ見かけない服装だね」


「ん? ああ。俺、今、東京から来たばっか」


「東京!? 凄いね~。お金一杯ありそうだね~」


「お金はあまりないよ。学生だし」


「学生!? だったら、お姉さんが群馬名物を奢ってあげるよ! come on!」


「え? あ、ちょっと______」


 そして、俺は強引に片言の日本語を話すアジア系の外人に連行されてしまった。



 ◇ ◇ ◇



 ______フィリピンパブ______



 店内には豪華なシャンデリアが飾られ、セクシーなお姉さん達が周りにウヨウヨいた。

 俺は、奥の方の席に通され、先程、俺を連行した女性が横に付く。

 彼女の名前はシンディと言い、5年程前に来日し、ここで金を稼ぎ、実家に仕送りをしているらしい。

 笑顔が素敵で、とても明るい子だ。


「へぇ。じゃあ、一はお兄さんを探して群馬に来たのね~」


「そうなんだ。この下妻楓っていうキュウリ農家を探していてね」


 俺は、シンディにキュウリの袋を差し出す。


「キュウリ農家? 今、そこに来ている団体さん、キュウリ農家の組合の人達だよ~」


「え? マジ? じゃあさ、この下妻さん知ってるか聞いてくんない?」


「いいよ~。ちょっと待って」


 そう言うと、シンディは席を立ち、キュウリ農家の人達の方に歩いて行った。

 これは幸先が良い。

 まさか、こんな所でお目当てを見つけられたとは。

 俺は、出されたハイボールをグイっと飲み干した。


「ちょっと、兄ちゃん。下妻楓を探しているんだってな」


 キュウリ農家の団体から離れ、一際屈強な体躯をした男が俺に話しかけて来た。


「はい。下妻楓さんをご存知ですか?」


「知ってるさ。同じキュウリ農家だからよ」


「そうですか。僕、その人に用があるのでお会いしたいんですが住所や連絡先を教えてくれませんかね?」


「......下妻に会う? それだけは止めとけ。兄ちゃん」


 キュウリ農家のオッサンの顔色が少し曇ったのを俺は見逃さなかった。


「止めとけとは?」


「あいつは変わり者なんだよ。俺達の農業組合にも入らず、ネットでキュウリを売ったり、キュウリが好きな女の子だけを集めてキュウリアイドルグループを作ったりとやる事が変わってんだ。それに、あいつには良くねぇ噂があってな」


「良くない?」


「あぁ。どうやら、あいつは河童らしいんだ」


「ぷっ!」


 あまりの唐突な河童発言に俺は吹き出し、オッサンは気分を害したのかムッとした。


「失礼。あまりにも突飛な事を言われて」


「だろうよ。まぁ、それでも行くって言うんなら俺は止めねえ。これは下妻の家の地図だ。ここの大通りまでは外灯があるが、ここから先、2kmには外灯がねぇ。今晩は市内で過ごして、朝に出かける事をオススメするぜ」


 このおじさん。

 見てくれは怖いがかなり良い人だぞ。


「あ、ありがとうございます」


「それと、もし、下妻に会う事が出来たら伝えて欲しいんだが、地区の組合費の金額が年2回\3,000から年3回\2,500に変わったって伝えておいてくれ」


「えぇ。必ず伝えます」


 親切なオジサンから下妻楓の住所を聞きだした俺は、ビジネスホテルで一夜を過ごし、朝6時に朝食を取り、二度寝し、朝の10時頃にホテルを出た。


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