お題:飛び込んでみた先は

みけねこ

お題*飛び込んでみた先は、

「ねえ、麻希まき、やっぱり……やめない?」

 口をついて出たのは、我ながら情けない、臆病風に吹かれきった声だった。

「何いってんのよ、さき! きっちり約束だって入れてるんだし。証拠のメッセージ見せたでしょ?!」

 そう行ってスマホの画面を突きつけながら、私をここに連れてきた友人——間宮まみや麻希まきのよく通る——さすが声楽家の卵と感心もしつつも——いささか大きな声が、斜め後ろから飛んでくる。幼稚園からかれこれ干支一回りは付き合って、さすがに慣れたものの、うう、と肩がすぼんでしまう。

 今日は、麻希の通う音大に、(半ば強制されて)やってきていた。隠すように書いていた私の詩を、目ざとく見つけて、麻希は真っ先に、人に見せるべきだと主張した。もちろん、私が、自分の作ったものを衆目に晒すことを怖がっていると知っている彼女は——必ず一度は、「コンクールにでも出せばいいのに」と言うのだが——今回は、一度引き下がった後、「私の先輩に、信頼できる人に見せるだけなら、いい?」と半ば強引に私の承諾を取るや否や、それを彼女と同じ大学の作曲家の先輩——英一えいいち先輩というらしい——に見せたという。

 何がどうしてそうなったのかわからないのだが、先輩はその詩をいたく気に入ってくれたそうで、なんとそれに曲を書いてくれるという話になり——だったら会いに行こうよと麻希に引っ張り出され、私は今、ここにいる。

 だとしても、いざとなると、怖い自分は出てくるもので……。

「でも、でも……先輩、創作中なんでしょ? その、邪魔しちゃ悪いし、きっと私たちがいない方が……」

 ああもう! と響いた声が、彼女が痺れを切らした証だと、

 気付いた時にはもう遅かった。

「でももすもももあるかっ。ほら、思いついて行ってきなさいっ!」

「わわっ!?」

 もう目的の部屋の目の前だったらしい。

 勢いよく背中を押された私は、とと、と部屋に足を踏み入れてしまった。


「あ、いらっしゃい」

  飛び込んでみた先は、シンプルで、小さな部屋。天井は私の部屋よりも少しだけ高いかもしれない。中央に置かれた、一台のグランドピアノ。鍵盤に向き合って座っていた先輩は、振り向き、きちんと身体を向けなおして、ノックもしない不躾な訪問者を優しく迎え入れてくれた。


***(未完)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お題:飛び込んでみた先は みけねこ @raweshin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る