第3話 幼馴染だからこそ

こはるー、と名前を呼ばれた気がして、心晴は辺りを見渡した。

しかし、自室には誰がいるはずもなく、気のせいか、と肩をすくめる。

人恋しくなってきたのだろうか。


「こはる!!」


今度ははっきり聞こえた。

再びぐるっと一回転すると、目に入ったもの。

隣の家の窓から、男の子が顔を出している。


「__理久りく


こちらも窓を開け放つと、幼馴染の少年は叫んだ。


「あのさぁー、いつまで来ないつもりなんだよ!?」

「こ、声が大きいっ!!」


慌てて喚き、手招きする。

理久は少し拗ねたように顔を背けたものの、すぐにベランダ伝いでこちらのベランダに降り立った。

隣同士というのは、なにかと便利だ。

だがしかし、今は最悪だ。


「うー、さむっ・・・」


「そんなかっこしてるからだよ。もっとあったかい服着ないと、風邪ひいちゃうよ?」


「はいはい」


心晴の言葉を適当に流し、理久は無遠慮に部屋を見渡す。


「なんか、殺風景な部屋になったなぁ。昔はもっときらきらして女の子っぽかったのに」


「余計なお せ わ よ!」


そう言いながら、心晴も客観的に、そうだよなぁと思った。

『女の子っぽい』とか、そういう単語が、どんどん自分は似合わなくなっていったので、そうするしかなかったのだ。

すると、理久が珍しく遠慮がちに訊ねてきた。


「__なあ心晴、学校、来る気ないのか?」


「・・・あんたまでそれ?・・・クラスに、あたしの話題は出てるわけ?」


「・・・・・」


「んもう、そこは嘘でも肯定してよね!・・・いいよ、いてもいなくても変わんないんだし、あたしなんて」

「でも、俺は心配だよッ!」


理久がかみつくようにそう言い、瞬間的に頬を赤らめる。

心晴は曖昧に笑った。


「ありがと。・・・でも、別に行ったったって何にもならないし・・・」


理久が心配そうに目を伏せる。

心晴は、自分と家族の関係を、理久にも話していない。

いくら幼馴染とはいえ、なんとなく言いづらかった。

本当のことを言ってしまったら。


理久まで、あたしから離れて行ってしまうかもしれない。


その恐怖を拭いきれず、心晴は何も言えないのだ。



***



その次の日も、結局心晴は学校を休んでしまった。

だが、いつものように心は沈んでいなかった。


「__よし」


心晴は気合いを入れる。

自然に笑顔が滲む。

なんとなく、予感がするのだ。

___きっと、返事が返ってきている。




心晴は、見た。

前の木の根元に、ノートが立てかけてある。

心臓がどきんと高鳴る。

いや、もしかしたら自分が置いた時のままなのかもしれない。

そう思いながらページをめくると。



##


ええと、励ましありがとうございマス。笑

見られちゃったか・・・屈辱。

どこまで見られたのかはわかりませんが、、これ以上は恥ずかしいんで見ないでくださいね?笑

あなたは、学生さんですか?


##



「__!!」


___あたしへの、返信だ。

自然と頬が緩む。

返信を書こうとして、心晴は思い出した。

今日の天気予報。

_____時雨となりそうです。お出かけの際には、傘をお持ちください。

心晴はノートを片手で掴むと、早々だが家路をたどることにした。

ノートは、明日また置きに来ればいい。


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