1話 始まり
初恋の頃から5年経った中学3年の夏休み。
俺は両親と北海道にいた。
進路相談の3者面談で進学はせず就職を希望した俺は担任の先生に自分の考えを話した。
「馬と生活ができる仕事に就きたい。夏休み中はリュック1つで北海道行って、牧場巡りしてきます!職場体験させてくれる所探しながらウロウロして、夏なら凍死の心配もないやろうから適当に野宿とかしながら!」
「さ、さすがにそれは許可できないなぁ未成年なんだよ?お母さんはどう思ってますか?」
困り顔で頭をかく先生は母に視線を向けた。
「主人も交えて家族でも話したんです。でもね先生、この子ほんとに頑固で!全く誰に似たのか」
母は先生にそういうとハハハと笑い、次に少し真面目な顔をした。
「ただ、私はこの子が自分で決めたなら、やらない後悔より一度やってみれば良いと思っています。主人はせめて高校くらいきちんと行っておいて悪い事はないんじゃないかって言うんですけどね」
大人を説得出来るような材料も話術もない俺は少し俯いて黙り込み、ぐるぐると頭の中で自分の言いたい事を考えていた。
家族で話した時、確かに父にはそう言われた。でも自分なりに色々考えて、少しでも早く馬の仕事の世界に飛び込みたいと思ったのだ。小学5年の時には人生で初めて自分から習い事に行かせて欲しい、とも頼んだ。
大阪で馬に触れられる機会は乗馬を習うか、専門学校や馬術部があるような学校に行くしかなく、他人と競う競技馬術に興味が無かった俺は、出世払いの約束で月謝の安くはない乗馬を習い始めた。
「じゃぁ父さん達は子供が3人くらいおるつもりで目一杯働く。お前はその時その時で自分ができる精一杯の事をしなさい。常に自分で精一杯を考えて行動しなさい」
いつになく真剣な話をした俺にしばらく考えた父はそう言ってくれた。
翌日から俺はランニングや筋トレを始め基礎体力の向上に努めた。
「んーーー、、」
先生は顎ヒゲをさすりながら少しうなっていた。担任は美術を担当するとても生徒思いな先生だがちょっと変わった人で、そんな先生を俺は妙に気に入っていた。年がら年中裸足でスリッパをはき、服にはいつもどこかに絵の具がついている様な大人だったからだと思う。
「先生、、?」
「よし!!北海道を放浪するのはナシ!古い友人が北海道で高校の教師をしてる。たしか馬術部の顧問をしていたはずだから僕が連絡をしてみよう。どんな結果になるかはわからないから期待はしない様に!何度も言うけど放浪はナシだからね!」
念を押されて2週間後、先生の友人から返事があり、そこからは奇跡のような怒涛の展開だった。期待するなと言われつつもなんらかの良い結果を待っている自分がいた。待ってはいたが、突然降って湧いた様な話に急流へでも放り込まれたような速度で物事が進んでいったのだ。
端的に言うと、中学生で競走馬に興味を持ち、就職希望前提で職場体験をしたがっている子供がいる事を面白がって、引き受けようと言ってくれた牧場があるという話だった。
そして、あれよあれよという間に担任、その友人、そして両親の間でも話がまとまり、気づけば夏休みに家族で北海道に行く事になっていたのだった。
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