6th refrain

 その日、晴れて僕とキミは恋人同士になった。

 お互いに変に意識してしまい、ソワソワと落ち着かない一日を過ごした。そんな僕とキミの態度の変化はあからさまで、クラスの面々からは「とうとうくっついたかー」と、からかわれるでなく納得というような感想を言われる始末しまつで――僕とキミは付き合いだした初日にクラスの公認カップルという地位を手に入れた。


 そして、放課後。クラスの視線を集めながら送り出されるように僕とキミは連れ立って教室を後にした。

 並んで歩き出したはいいものの、恋人になったからといえ、どうしていいか分からない僕とキミはあの雨の日のようにただだまって歩いた。そんな上の空でり所を求める僕とキミの手の距離は15センチ――。

 僕はこれではダメだと思い、前に夕焼けを見た場所に行こうと誘った。

 しかし、あの日のような夕焼けが見られない夕暮れの空を同じ場所で眺め、僕達は何をしてるんだろうと顔を見合わせて笑った。

「持田さんが好きです。こんな俺でよかったら付き合ってください」

 僕はキミに二度目の告白をする。今度はちゃんと口に出して伝える。キミは今度は涙を浮かべず、頬を少し染め「はい」と、僕の目を見て返事をする。

「ねえ、よかったら下の名前で呼び合いませんか?」

「うん。それはいいけど、なんて呼ぼうか? 彩加あやか? アヤ?」

 僕が悩む横でキミは小さく笑い、長い髪の毛が揺れる。

「なに笑ってるの?」

「いや、いつも持田さんだったから、私の下の名前ちゃんと知っててくれたのが嬉しくって」

 キミの笑顔に僕は顔が熱くなる。キミはさらに続けて、

「私のことはアヤでいいよ。じゃあ、私は……祐希ゆうきくんだから、ユウくんって呼んでいい?」

と、僕を見上げるように言う。親族以外の女性から下の名前で呼ばれて、僕は嬉しさ以上に照れがこみ上げてくる。

「なんか慣れてないからかもしれないけど、照れくさいね、アヤ」

「ほ、ほんとにね。ユウくん」

 僕達は顔を見合わせて笑った。

 そして、僕達はそのまま色んなことを話した。最近、僕が避けられていた理由を尋ねると、

「ユウくんのことを意識しすぎちゃって、何を話していいか分からなくなっちゃってね……あと、私なんかと噂になるの嫌なのかなと思って……」

と言われ、僕はキミと話せなくてへこんでいたと伝えると、キミは頬と耳を赤く染めながら、「ごめんね」と笑顔で謝っていた。

 今度はキミが僕に尋ねる。

「ユウくんは誕生日って、いつですか?」

「俺は1月7日だよ。アヤは?」

「私は6月1日」

「もうすぐじゃん! でも、よかった。今年の誕生日ちゃんと祝えるね」

 僕は驚きの声を上げつつ、同時にほっとする。そして、キミの誕生日はもう少ししたら始まる中間試験の最終日で――。

「じゃあ、試験終わった後にアヤの誕生日のために何かしないとだね」

「ありがとう。でも、あんまり日にちもないし無理しなくていいよ」

 キミは嬉しそうに笑い、それだけで僕は胸が一杯だった。


 僕はキミの方に手を差し出し、キミは何も言わずに手をつなぐ。そして、僕達はまた歩き出す。少し前まであんなに遠かった15センチは縮まり、今度はあの雨の日の相合傘の下と同じ肩の距離が15センチになる――。

 あの時と違い、肩が触れても気にせず僕達は笑顔で話しながら歩いた――。

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