3rd refrain

 ゴールデンウィークに入ると、想像以上に課題が出されたため遊んでばかりもいられなかった。僕はクラスの友達数人と協力体制を取ることにし、その中の一人の田橋たはしくんの家に集まることになった。田橋くんは中学校から仲良くなった友達だった。

 朝から休憩を挟みつつ課題をこなし、夕方にはあらかた終わり解散することになった。

 その帰り道、少し歩いたところで僕だけが帰る方向がことなり一人になった。それも仕方のないことで僕だけが小学校が違い、住んでいる地域が違ったからだった。

 一人になった僕はぼんやりと信号待ちをしていると、

「あれ? 渡井くん?」

と、声を掛けられた。声の方に目をやると、驚いた表情のキミが犬を連れて歩いていた。僕はキミの連れているかわいらしいロングコートチワワよりも、初めて見るキミの私服姿に目が釘付くぎづけになった。

「えっと、持田さんって、家ここらへんなの?」

「うん。そうだよ。渡井くんはどうしてここに? 小学校違うし、住んでる地域も違ったよね?」

 キミが不思議そうな顔で僕を見つめる。

「うん。それはさ、朝からこの近くに住んでる田橋くんの家に集まって課題やってたからね」

「そうだったんだ」

「うん。持田さんは課題は終わった?」

「ちゃんとやったよ」

「そっかあ。前から思ってたけど、持田さんって頭いいよね?」

 僕の言葉にキミは一瞬言葉にまる。そして、

「そ、そんなことないよ。私はさ、本読むの好きだから、教科書とかもその感じで読んでるだけでね――」

と、少しうわずる声で話し始める。僕はそんなキミの話を聞きながら、足元にふと違和感というか妙な感覚を感じる。ふと足元に目を落とすと、僕のズボンのすそをキミの犬がベタベタになるほどめまくっていた。「えっ?」と、いう言葉を発しつつ、振り払うわけにもいかず僕は固まる。僕の突然の硬直こうちょくにキミも事態じたいを察し、

「あわわわ、ごめんなさい」

と、急いで犬を抱きかかえ、目に見えて焦りだす。僕はキミの焦る姿とこの状況がなんだかとても可笑しくて、笑うのをこらえれらなくなり声を出して笑い出してしまった。そんな僕を見てきょとんとするキミに、

「いいよ、いいよ。これくらい。帰ってから洗えばいいんだし」

と、声を掛ける。

「本当にごめんなさい」

 キミは犬を抱えたまま頭を下げる。

「この子、かなり人見知りで自分から家族以外の人に近づいたりしないのにどうして……」

と、キミは犬を抱きかかえたまま疑問をらす。僕は抱きかかえられたキミの犬と目線の高さを合わせ、

「お前、どうして俺は平気なんだ?」

と、頭をでながらわざとらしくキミの犬にたずねる。キミの犬は舌を出しながら尻尾しっぽをブンブン振る。その元気よく振られる尻尾の長さは15センチ――。

 そして、撫でる僕の手を舐めようとキミの腕の中でもがいて身を乗り出そうとする。

「この子、渡井くんのことが好きみたいだね」

 キミは声を出して笑う。僕も一緒になって笑った。

「ねえ、少しだけ散歩に付き合っていい?」

 僕のお願いをキミは笑顔で受け入れ、僕達は一匹を先頭にかたむく陽に一緒に影を伸ばした――。

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