第15話勇者とそうでない者1
国王の部屋には既に何人かの人がいた。この国の大臣や一部の貴族、そして昨日の召喚に来ていた人たちなどだ。その中にはクリミリアの姿もあり、俺達よりも早くにこの部屋に来ているようだった。
「皆揃ったようじゃの、では始めよう」
「待ってください。まだデュオニスが来ておりませんが?」
レベッカさんの言う通り、デュオニスの姿はない。俺たちがここに呼ばれた理由のおおもとの原因はデュオニスだ。なのにその本人が居ないまま話が進むのはおかしいとレベッカさんもそう思ったのだろう。
「奴には今回席を外してもらっておる」
「なぜですか? 今回の一件は元をたどればデュオニスが原因とも思われるのですが?」
「この話し合いに私情を持ち込まれては困るからじゃ、時間も無いし始めさせてもらうぞ」
国王はそういうと、レベッカから視線を移し、みんなの方を向いて話を始めた。
「昨日の勇者召還で、召還された者についてなのじゃが、あの後わしはそのものと話をした。この国の状況や勇者の召喚についてはもちろんの事、あの者に関する話もじゃ」
「それで何かお分かりになったのですか?」
「それは、わしよりも本人に直接聞いた方が良いじゃろ。おーい、入ってきなさい」
国王がそういうと、奥のドアから昨日の銀髪の青年が出てきた。パッと見た感じは大人しそうなイケメン青年という感じで、背も高く足も長い。どこからどう見てもイケメンだ。
やっぱり本物はスペック高いなぁ~。
などと思っていると、青年が皆の前で話をし始めた。
「自分はカリウスと申します。大体の説明は国王から聞きました。それで私は何をすれば良いのでしょうか?」
爽やかな笑顔を向けながら訪ねてくるカリウスに、みんな困ってしまう。「そんなのこっちが聞きたいわ!」とレベッカさんが隣で不機嫌そうにつぶやいていた。
「わしから提案があるのじゃが、良いかの?」
皆が頭を悩ませている中で、国王は何か考えがあるようだ。いつもの間の抜けた表情では無く、今日の国王はどこか国王らしく堂々としていた。こういう時の国王はやっぱり一国の王なんだなと再確認する。
「この者の力を試してみようと思う。そこで、この者の力がどれほどのものなのかを試してから、前線に繰り出そうかと思う」
国王の意見は最もなものだ。おそらくカリウスが、戦える何か能力を持っているのだろう。だからこそ、国王はまずは力を試してみる事にしたのだろう。
「まぁ、妥当なところね」
「でもさー、あいつ戦えんの? 見るからに弱そうなんだけど」
「リウ、失礼ですよ」
国王の案に皆賛成の様だ。魔術研究院のメンバーも異論はないようだ。
「それで、どうやって試すんですか? 闘技場で騎士と戦わせてみるんですか? それとも魔物でも倒させますか?」
「それについてなんじゃが、そちらにお願いしたいと思っている」
「は? 私たちにですか?」
国王はレベッカをはじめとした魔術研究院の面々に向かって言い放つ。レベッカは国王の言葉に驚き国王に聞き返す。
「そうじゃ、カリウスと戦い。その力量を見せてもらう。頼めるか?」
「良いですけど、誰と戦わせても良いんですか? 一応こっちにはこの国一番の魔導士クリミリア・ヒース・ラリエがいるんですよ?」
レベッカは自慢げに胸を張る。その様子を見たクリミリアは、複雑そうな顔をしていた。
「誰が一人といった?」
「え?」
「全員じゃ、魔術研究院の全魔導士がカリウスと戦い、その力量を見る」
国王が言った言葉にその場に居た全員が、驚き固まってしまった。俺は状況が良くわからず、その場できょろきょろしてしまう。
「国王! それはいくら何でも無謀では!?」
「大臣の言う通りです! 彼らは魔法戦では負けなしの我が国最強の魔術研究集団、結果は見えています!」
「クリミリア一人でも相手になるかわからんですぞ! 彼女はこの周辺一帯の国の中でも一目置かれた魔導士、彼女一人で魔物の群れを一瞬にして殲滅したのは記憶に新しいはず、国王もご存じのはずです!」
今まで聞く側だった大臣達や貴族が騒ぎ出した。そんなにクリミリア達は強いのだろうか? 酒飲んで二日酔いになっている姿しか見た事の無い俺にとっては信じられない話だ。
「大丈夫です。勝てます」
「へー、言ってくれるじゃん」
答えたのは国王ではない、カリウスだ。自信満々といった様子で、カリウスは言った。その言葉に反応したのはレベッカさんだ。明らかに不機嫌そうな顔で、静かにカリウスに向かって言い放つ。
「はい、勝てますから」
カリウスは笑顔で答える。その態度が気に食わなかったのかレベッカさんはカリウスを睨みつける。レベッカさんだけではない、気が付けばミーシャさんとマルノスさんもカリウスを睨んでいる。クリミリアは困った様子で、アタフタしている。
「試合の日取りは三日後、闘技場で行う。その間は準備期間とする」
国王の話はここで終了し、その場はお開きとなった。国王の提案によりカリウスと戦う事になってしまった魔術研究院のメンバー。さっきからレベッカさんとミーシャさんは凄く機嫌が悪い。
「なんなの? マジで何なの?!」
「むかつくぅー!! ボコボコにしてやるっての!」
「お二人さん、あんまり頭に血を上らせてると勝てるものも勝てなくなるよ」
「うっさいわね! 今私はイケメンってものが大嫌いになりそうなのよ! ユーカス! あんたは私に当分顔見せないで!」
なだめようとしたユーカスさんにもレベッカさんはキツクあたる。相当頭にきた様子で無茶苦茶な事を言っている。
今居るのは、王宮の空き部屋の一つで、部屋の中には俺と魔術研究院のメンバーしかいない。国王が俺たちにだけ、まだ話があるらしく、この部屋に呼ばれたのだが、まだ国王は来ていない。
「それにしてもびっくりしましたよ。まさかそんなに皆が強かったなんて......」
「まぁ、最近はそういう実践的な事はやってないからなぁ~。それにこのメンツを見る限り、そんな雰囲気感じないだろうし」
「あぁ、ただの酔っぱらい集団かと思ってた……」
「頼むからその認識はやめてくれ、それは今騒いでるあの二人とマルノスだけだから……」
メンバーの半分は酔っぱらいである事を認めているんだから、もう酔っぱらい集団で良いんじゃないだろうか? そんな事を考えていると、俺とリウの話を聞いていたのか、ミーシャさんとレベッカさんが物凄い形相で俺とリウのところにやってきた。
「あんたら、今なんか言ったわよね?」
「リウ? 正直に言いなさい。ユウトもよ?」
元々イライラしていたところに、俺とリウによる追い打ちで、二人の怒りは頂点まで達する勢いだったのだろう。掴まれている右方がミーシャさんの握力で痛い。
「えっと、すいません、謝るので話してもらえないでしょうか、ミーシャさん」
「最初に酔っぱらいって言ったのはユウトだろ! 俺は関係ない!」
「あ! お前だけ逃げるつもりか! お前も認めてたじゃねーかよ!」
「元はお前が言った事だろ! ちょっと待てレベッカ! なんか魔法使おうとしてない? やめて! 謝るから勘弁して!」
ミーシャさんとレベッカさんは二人して懐から、魔法紙を出し俺とリウに向かってその魔法紙を使おうとしてくる。
「「誰が酔っぱらいだって!!」」
二人が同時に叫び魔法紙が光りだした。その瞬間、魔法紙から光る玉が飛び出し俺とリウめがけて飛んでくる。当然俺とリウは避ける事など出来るはずもなく、お互いの腹部に玉は勢いよく飛んできた。
「うぇ!」
「ぐぅはっ!」
そのまま俺とリウは腹部を抑えてうずくまる。この二人は絶対に怒らせてはいけないと実感した瞬間だった。
「まったく、なんでも良いけど、国王はまだ来ないの?」
「もう10分経つけど、何時までまたせるのかしらね」
「まぁ、今回の事で色々と忙しいじゃないかな? 一応国王なんだし」
俺たちに八つ当たり気味に憂さを晴らしたのが良かったのか、レベッカさんとミーシャさんは少し機嫌が戻っていた。
それから少しして、国王とレイティンさんがやってきた。
「すまんすまん、遅くなってしまった。そこの二人はどうかしたのか?」
「大丈夫です。ただの自業自得ですから」
「? まぁ、良いのじゃが……」
国王はうずくまる俺とリウを見て尋ねる。まだ腹部に痛みが残っており、立ち上がることが出来ない。
本当に今度からは気を付けよう……。
「それで話って何なんですか? さっきもいきなりあんな事言うし」
「君たちをいきなり対戦相手に選んでしまったのはすまなかった。しかし、並みの相手に勝っただけでは勇者と認めるわけにはいかないのでの、それなりの相手が必要じゃったんじゃ」
「まぁ、それはそうですけど……。じゃあ私たちをここに呼んだ本題は何なんですか?」
「うむ、カリウスの事なのじゃが……」
国王は何か悩むように話し出した。昨日召喚され、さっきは皆を前にあれだけの事を言った青年。ここに呼ばれた時点で、俺はカリウスの事じゃないかと予想はしていた。そしてなぜ、さっきの話し合いの場にデュオニスを呼ばなかったのか、それも気になっていた。
「あの者と昨日話をしたのじゃが、不可解な事が多いのじゃ」
「どういう事ですか?」
「わしの勝手な感覚の話になるのじゃが、どうも人間と話している感覚がしないのじゃ」
「どういう意味ですか?」
国王の言葉に、俺は共感を覚えた。あのデュオニスが連れてきた黒フードの魔導士の集団から、俺は国王と同じ感覚を覚えたからだ。
「化け物と話している感覚、じゃなかったですか?」
「! ユウト君、君も感じたのか?」
俺は自分が昨日黒いフードの集団に感じた感覚と同じ感覚ではないか、国王に尋ねた。国王は目を見開いて、質問を返してきた。
「カリウスからじゃないですけど、気のうデュオニスが連れてきた魔導士に同じ感覚を覚えました。自分とは違う生き物、そんな物と会話をしているような……」
「そうか、他に感じたものはいないか?」
国王はその場の全員に尋ねるが、皆何も感じなかったようで、首を傾げている。
「勇者だから、そういう独特の雰囲気を持っているのでは?」
クリミリアが国王に尋ねる。今まで口を開かず、今日はどこか元気のないクリミリアだったが、何かあったのだろうか? やはり昨日の事だろうか?
俺がそんな事を考えている間に、国王は口を開き話し始める。
「おそらく違う。何か黒いものを感じるのじゃ。それに勇者独特のものであれば、ユウト君が感じたあの魔導士たちはどうなる?」
「私らはなんも感じなかったけど? まぁ、確かにムカつきはしたけどね」
「そうですね、私もイラっといたしました」
ミーシャさんとマルノスさんは先ほどの事をまだ根に持っているようだ。
「わしも気のせいかと思ったのじゃが、ユウト君も同じような事を感じていたのだとわかった今、気のせいでもないのやもしれん」
俺も気のせいだと思っていた。でも国王と同じように、同じような感覚を感じていた人がいて、デュオニスと王宮で話をしている時に後ろの魔導士から感じた昨日と同じ感覚。この二つがあの感覚が嘘じゃなかった事を証明している感じがした。
「その事を言うために、私たちを呼んだんですか?」
「いや、まだじゃ。デュオニスの事でもう一つあるのじゃ」
「あー、また嫌な奴の名前が出てきた」
またしてもミーシャさんは嫌な顔をさせる。よほどデュオニスの事が嫌いなのだろう、その様子は表情を見れば明らかだった。
「で、勇者召還に成功して調子に乗ってる彼がどうかしたんですか?」
「奴が、魔術研究院の事を探っているという話を耳にしての、その事を伝えたかったのじゃ」
「あたしらの事を? なんであいつが?」
「それはわからんが、注意するに越したことはない。万が一にもユウト君の正体がバレてしまえば、色々と面倒な事になってしまうからの」
国王の言う通りだ、もし俺の正体がデュオニスにバレてしまえば、国王や魔術研究院のみんなの立場が危うくなってしまう。しかも、今のデュオニスは勇者召還に成功した国唯一の魔導士と、俺の正体を知らない大臣や貴族は思っている。
「まぁ、あいつがどんだけ背伸びしてもあたしらには勝てないし。それにカリウスとか言うやつもまだ勇者だと決まったわけじゃないんだから」
「だと…良いんじゃがの……」
国王は眉間にシワを寄せて考え込むように答える。後ろに居るレイティンさんもどこか不安そうだ。
「そういえば、デュオニスはなんで今日の話し合いに参加させなかったんです?」
「あぁ、それは奴がカリウスの力量を示す事に異議を唱えないようにじゃ。奴は以前より、勇者召還に執着心を抱いていた。だからこそ、ようやく召還したカリウスを勇者と認めさせるために、何か策をこうじてくる。わしはそう思い、カリウスが勇者と認められるまでの間、デュオニスにカリウスとの接触を禁じたのじゃ」
「なるほど、確かに彼ならやりそうですね」
「まぁ、召還させろってうるさかったしね」
ユーカスさんとレベッカさんが国王の説明に納得し、他のみんなも続いて納得したようだ。確かに、せっかく召還したのに勇者じゃなかったら困るもんな……俺みたいに。
「話は終わりじゃ、わしは今からまだやることがあるので、失礼するぞ」
そういうと国王は一人で部屋を出て行ってしまった。
「じゃあ私たちも帰りましょうか、三日後に久しぶりに対人戦しなきゃいけなくなっちゃったし」
「そうですね。息を合わせておきたいですしね」
レベッカの言葉にクリミリアが乗っかり、魔術研究院のメンバーは今から特訓をするようだ。
「じゃあ、行きましょうか? って、なんでユウト君来ないのよ?」
「あ、いや俺はこの後用事が……」
みんなして部屋を後にしようとしていたさなか、俺だけは部屋から出ようとしなかった。そんな様子を見ていたレベッカさんが不思議そうに尋ねる。
「用事~? 何よ~私らとちょっと離れた間に、良い女でも引っかけてきたわけ~?」
新しいおもちゃを見つけた子供のように、目を輝かせながら、いたずらっぽく聞いてくるレベッカさん。
まぁ、女性との約束に違いはないのだが……
「レベッカ、彼は今から私と用事があるのよ」
「え! 相手ってレイティン? 趣味悪~」
「どういう意味よ!!」
レベッカさんの言葉に青筋を立てて怒り出すレイティンさん。俺はこれ以上口論にならないように、間に割って入る。
「いや、昨日レイティンさんから簡単な魔法を教えてもらうって約束をしてたんですよ!」
「なんで私たちじゃなくて、レイティンなのよ~?」
「私の雑用を手伝ってもらう代わりに、魔法を教えるという約束なんです」
「あ、そうなんだ。でも、言ってくれれば私らも教えたのに、ねーミリア~?」
レベッカさんが後ろにいたクリミリアに話を振る。昨日の帰り道から、クリミリアとはなんだか気まずい。あまり話を振って欲しくなかったのだが……
「私は……」
「いや、なんかみんな忙しそうだったし、それに昨日突然そんな話になったから…」
「ふーん、じゃあ私らは行くね。夜はいつも通り食堂で待ってるから~」
暗い表情のクリミリアに事情を説明するが、クリミリアの表情は暗いままだ。何かを察したのか、レベッカさんはクリミリアの肩を抱いて部屋を後にしていった。
「何かありました?」
「まぁ、ちょっと…」
レイティンさんも俺とクリミリアの様子の違いに気が付いていたようだ。
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