第13話異世界生活スタート8
儀式に必要なものを一通り集め終わり、洞窟の前に今回の儀式の関係者が集まっていた。デュオニスが集めたという魔導士の一団もいた。フードにマント姿で、姿はクリミリア達と似てはいたのだが、雰囲気が違っていた。一言で言うと不気味だ、同じ人間のはずなのに、化け物が隣にいるような感覚がした。
正直言うと怖い。息が詰まりそうになる。
「では、これより儀式を始める。中に入るのは私と国王、そして魔導士の方々のみとする! それ以外は外で待機だ!」
デュオニスが前で宣言をする。俺やレイティンさんは外で待機の様だ。脇の方では魔術研究院のみんながいそいそと準備をして、洞窟の中に入っていく。
「じゃあ、行ってきますね!」
「おう、がんばれ!」
「クリミリア、万一の時は国王を頼みます」
「はい! 任せてください!」
レイティンさんがクリミリアに言うと、クリミリアと国王も中に入って行った。残ったのは、俺とレイティンさん、一緒に来た兵士の人達。そして、デュオニスの執事らしきおじいさんとデュオニスの奴隷とその見張り役。
互いに会話はほとんど無く、レイティンさんはデュオニスの所の見張り役を睨みつけている。
「レイティンさん、召喚ってどれくらい時間がかかるんですか?」
「ざっと一時間ほどですね」
「一時間! そんなに掛かるんですか!?」
「異世界の人間を呼び出す魔法ですからね。時間も掛かるし、難しいんですよ」
「じゃあ、俺たちは一時間待機ですか......」
思ったよりも長い待ち時間に、何をして待とうか考えるが、何も思いつかない。レイティンさんはジッと洞窟の入り口を見つめている。話しかけられる雰囲気じゃない。
立ちつかれてしまったのもあり、俺は近くの岩に腰を下ろし、クリミリア達を待つことにした。周りの様子を見てみると、一緒にきた兵士の人たちは雑談をしており、デュオニスの方の奴隷と見張りは馬車の中で休んでいるようだ。
「失礼、お隣、よろしいでしょうですかな?」
「え?ああ、どうぞ……」
声を掛けてきたのは、デュオニスの後ろに付いて来ていた
「はい?あ、どうぞ……」
隣に座ったのは、デュオニスの所にいた初老の執事だった。なぜ俺の隣に座ったのだろうか、俺は不思議で仕方なかった。
「国王陛下様からお聞きしました。貴方は異国よりいらした旅の方だと」
「あ、まぁハイ、あなたは……」
「すみません。申し遅れました、わたくしデュオニス様の執事をしております。ルーガスと申します。以後お見知りおきを」
「よ、よろしくお願いします」
デュオニスの執事が一体何の用なのだろう?俺はこのルーガスという執事が何を考えているのかわからなかった。
「突然申し訳ありません。私はあの者達とどうも馬が合わないようで、儀式の間、話し相手になっていただけませんでしょうか?」
「はぁ……良いですけど」
ルーガスはデュオニスの方の馬車に居る、奴隷の見張り役の男を見ながら俺に行ってくる。
「あの人達と仲が悪いんですか?」
「仲が悪いと申し上げますか……どうにも彼らのやる事が好きになれないのです」
ルーガスさんは、奴隷たちの姿を悲し気な視線で見つめている。
「私は、どうにも奴隷というものが好きになれないものなんです……」
「誰だってそうじゃないですかね?」
俺は皮肉っぽくルーガスさんに言った。
奴隷が嫌いなら、そんな男の下でなぜ働き続けているんだ? 結局はこの人だって、奴隷に頼って仕事をしているってことじゃないか……
「それもそうですね。貴方は先ほどうちの奴隷を助けていましたよね?」
「俺の居た国では、労働者にあんな事をしたら社会的に罰を受けますから。この国では知りませんが、俺にはあの光景が異常に見えたので……」
「そうですか、あなたの国は良い国なのでしょうな」
ルーガスさんは常に笑みを浮かべて話をしていた。しかし、その笑みがどこか寂しそうで、どこか遠くを見ているような感じだった。
「実は私、この仕事を辞めるんです」
「え、なにかあったんですか?」
「言ってしまえば、ついていけなくなったんです。デュオニス様に……」
「ついていけなくなった?」
「はい、私はセルシス家にお仕えしてもう30年になります。デュオニス様の事はお生まれになった頃から知っています。お優しいお方で、旦那様と奥様から愛されていました。しかし、旦那様と奥様が亡くなられてからは人が変わってしまいました」
「変わった?」
「はい、没落しかけていたセルシス家を立て直すためにデュオニス様は必至でした。しかし、いつからか人を愛する事を忘れてしまい、使えないものを容赦なく切り捨てるようになりました。結果的にセルシス家は立ちなしましたが、今のデュオニス様は位を上げる事にばかり躍起になり、あのようなおかしな連中まで雇ってくる始末です」
ルーガスアは、奴隷を見張っている男たちを見ながら不機嫌そうに言った。男たちを見る目はどこか怖かった、憎んでいるような、怒っているような、とにかく怒りを表していた。
「なんでそんな事を俺に話すんですか? 俺は今さっき会ったばかりの他人ですよ」
「他人だからかもしれないですね。ただ愚痴を聞いていただきたかったのです」
ルーガスはそういうと立ち上がり、デュオニスの馬車の方に歩き始めた。
「老人の愚痴に付き合ってくださってありがとうございます。私はこれで失礼します」
振り返り礼を言ってくるルーガス。表情は穏やかな笑顔だったが、なぜだろうか、俺にはその表情が悲しそうに見えた。
「そういえば、まだ終わらないのか?」
俺は何かの役に立つかと思って持ってきていたスマートフォンを取り出した。どうやら時間の概念は元の世界と同じ様で時計の代わりに使用している。しかし、電池の残り残量も少ないので基本的には電源を切っている。
時間を見ると、クリミリア達が洞窟に入ってからもうすぐ30分が経とうとしていた。いまだに洞窟の中から誰かが出てくる様子はない。
「こんなところで何をしているんですか?」
声をかけてきたのはレイティンさんだった。流石にあのまま待っているつもりではなかったらしく、こちらに近づいてきた。
「少し疲れてしまって、休憩してたんですよ」
「そう、警備と言ってもこれと言ってやることも無くて困っちゃうわ…」
「そうですね、今頃あの洞窟の中ではみんな頑張ってるのに、俺たちはこん事してていいんですかね?」
「万が一って可能性があるからね。失敗はほぼ確定だし、何が起こるか分からないから、いざって時に私たちが動けないと大変よ」
レイティンさんは、そう言いながらさり気なく俺の隣に座った。さっき座っていたのはルーガスさんで男だったからあまり気にはならなかったが、この距離はいささか近すぎる。
あと数センチで肩と肩が触れてしまいそうな距離だった。レイティンさんも口調は厳しいが、綺麗でスタイルも良い。綺麗なお姉さんという感じの人だから、なんだか緊張してしまう。
「そ、そういえばレイティンさんは魔導士なんじゃないんですか?」
「私ですか? 私は魔術師ですよ」
「ま、魔術?」
「あぁ、すいません。ユウトさんは知らないんでしたね。この世界には魔導士と魔術師という、魔法を使う事の出来る職が二種類あります」
「何が違うんですか?」
「魔道士は魔法陣を用いて魔法を使う人たちの事です。魔術師は呪文を詠唱して魔法を使う人の事を言うんです」
「はぁ......とりあえずどっちも魔法使うんですよね?」
「似て非なるものと考えてください。細かく言えば使える魔法も変わってきますけど」
この世界に来てからというもの魔法というものには振り回されて来た。どこに行っても魔法があって、俺の良く知っている機械や電子機器といったものは皆無だ。
いつまでこの世界に居るかもわからないが、俺にも魔法は使えるのだろうか?もしこのままずっと帰れなかったら、俺もこの世界で生きていくために魔法の勉強とかをしなければならないのだろうか……。
「俺にもなれるものなんですか?」
「興味があるんですか?」
「まぁ、元の世界には無かったものですからね。興味も湧きますよ」
「確かに、珍しいものには好奇心が湧くものです。簡単なものならお教えしましょうか?」
「え? 本当ですか?」
レイティンさんの提案にはすごく興味をそそられた。魔法という、空想上のものでしかなった力を手に出来るかもしれない。教えてもらえるなら簡単なものでも是非教えて欲しい。
「本当ですよ。前から考えていましたから、色々と便利ですし。でも、条件があります」
「条件?」
「はい、私もタダ働きというものは嫌いなので、大丈夫です。簡単な事ですので」
一体条件とは何なのだろうか? 簡単な事とは言っているが、気になってしまう。
「えっと...俺は何をすれば?」
俺は気になり、レイティンさんに尋ねる。レイティンさんは相変わらず表情を一つ変えづ、俺に条件を言ってきた。
「私の雑用を手伝ってください」
「は?」
以外にも条件は普通だった。いや、普通じゃなければ困るのだが、なんだか拍子抜けしてしまう。
「いや、全然良いんですけど、そんな事で良いんですか?」
「はい、色々と私は仕事が多いんです。仕事の合間に魔法は教えられますし、魔法を覚えて頂ければ、貴方に頼める仕事も多くなって一石二鳥です」
「それなら、わかりました。よろしくお願いします」
「それでは、明日から手伝ってもらいます」
この世界で実際何をやればいいのわからなかったので、雑用にせよ何にせよ、やることがあるのはありがたい。何もしないで過ごすよりはましだ。
「そういえばもうそろそろ終わる頃ではないでしょうか?」
「そうですね。じゃあ、洞窟の前で待ちますか」
俺とレイティンさんは、座っていた岩から立ち上がり、洞窟の前までやってきた。そろそろクリミリア達が洞窟に入っていってから一時間ほどが経過する。今のところは何も変わった様子はないが、本当に大丈夫なのだろうか?
「出てきませんね」
「そのうち出てくるでしょう。ほら、噂をすれば」
レイティンさんが言ったのとほぼ同時に、洞窟のドアが開き、中からクリミリア達が出てきた。なぜだかわからないが、驚いたような悲しような、複雑な顔付きで出てきた。
「ご苦労様、どうかしたの?」
「大変なんです……」
「え?」
「成功してしまったんです……」
「成功?! それはどういう事ですか!」
レイティンさんが声を荒げてクリミリアに詰めよる。後から出てきた国王がそれをなだめる。国王の後からは、あの不気味な集団とデュオニス。そして、入った時には居なかった銀髪の青年が一人出てきた。
「誰……なんだ?」
「勇者様よ……」
「え!?」
レベッカさんが銀髪の青年を見ながらそういった。
勇者? あり得ない、もう俺がこの世界に来ているのに……。伝承では勇者はこの世界に一人きりしか居ないはずだ。それなのに、あいつは誰なんだ。
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