第12話 元の世界でのその後2
兄がいなくなって、もう一週間が経とうとしていた。あれ以来、我が家は暗く沈んでいた。警察からはいまだになんの情報も得られないという連絡しか来ず、父は自分の事を攻め続け、母も元気がない。
私は本格的に夏休みに入ったが、モデルの仕事に没頭していた。その方が現実を忘れられるからだ。
「ただいま」
「あら、お帰り。早かったのね」
私は仕事を終えて自宅に帰って来た。母は私の前でだけは笑顔でいてくれた。私に心配をかけまいとしての行為だろうが、私はわかっていた。誰も居ないところで母は一人で泣いていることを。
「お父さん、今日も遅くなるって」
「わかった。暑かったからお風呂入るね」
お風呂で汗を流し、湯船に浸かって体を落ち着かせる。この時が一番兄の事を考える時間だ。一週間も一体何をやっているのか、どこで何をしているのか。毎日のように考えるのは、生きているのかどうか。
「なに、マジになって家出してんのよ...」
二、三日もすればそのうちヒョッコリ戻ってくるだろう。そんな事だろうと、私は思っていた。でも、兄は戻ってこない。スマホに電話を掛けても繋がらないし、メールもSNSも応答がない。
幸いだったのは、今が夏休みだったために学校で噂になっていないことだ。兄の家出を知っているのは、兄の友人数名と家族、そして警察だけだ。事がまだ大事になってはいないが、時間の問題だろう。
「ほんとに....どこ行ったのよ....」
お風呂に浸かると、最近の私はいつも泣いていた。ここなら泣いていてもバレないから、ここなら思う存分泣けるから、私が隠れて泣けるのはここだけだから。
「....上がろう」
私は湯船から上がり、着替えを済ませて自分の部屋に戻った。もう日も沈みかけている、今日も兄は帰って来ない。
ベットに寝転がっていると、右手に持っていたスマホが振動した。スマホを見るとモデルの友達からの他愛ないメッセージだった。最近はスマホに連絡が入る度に兄からなんじゃないかとドキッとする。
「はぁ~」
ため息を吐きつつも、私は友人に返信を送り、スマホを置いた。自覚は無かったが、体は疲れているようで、ベットから立ち上がるのがだるくなってしまい、私はそのまま眠りについた。
夢を見ていた。兄が他の女性と一つ屋根の下で暮らしている夢だ。しかも巨乳で美人、見ていてすごくイライラする夢だった。
こっちがこんなに心配しているのに、デレデレ鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!
親し気にその女性に笑いかける兄の顔を見ると、胸が痛くなった。最近では、私にそんな顔してくれたことなんて一度もない。それも私の態度が悪いから当たり前なのだが、他の女性にそんな顔を向ける兄が、許せなかった。
「....夢...」
目が覚めると外は真っ暗だった。スマホの時間を見ると、もう20時を回っている。もう晩御飯の時間を過ぎていた。私は急いで階段を下りて、一階のリビングに向かう。
階段を下りている途中でリビングから、父と母の話し声が聞こえてきた。また、兄の事だろうと私は思い、少し聞き耳を立てていた。
「あなた、もう一週間よ。あの子大丈夫かしら....」
「大丈夫だ!きっと無事だよ。なんせあの子はあいつらの子なんだから」
「私、情けないわよ。あの二人が死ぬ間際に、あの子を私たちに託してきたのよ...。なのに、私たちはあの子を....」
「あぁ、そうだな....。もしかしたら、あの子はもう巻き込まれてるのかもしれないな....」
「まさか!あれ以来、あの国には私達だって行けないのよ!それに、もうあの二人が居ないんだから、行けるはずもないのよ....」
「だが、考えられない事じゃない。本来あの子の故郷はあの国なんだ」
「だけど!だとしたらあの世界に行く理由はただ一つよ!」
「あぁ、召還されたんだろう....」
なんの話をしているのか、私にはさっぱり理解できなかった。しかし、母と父は兄がどこに居るのか、見当がついているかのような口ぶりだった。
国?もう日本には居ないという事なの?
父と母の話は訳が分からない事が多かった。なぜ居場所に見当がついているのに、そこに行かないのだろう。その国が兄の本当の生まれ故郷だとしたら、なぜ日本人の顔をしているのだろう。
「でも、もうあの国は平和に....まさか!」
「あぁ、もしかしたら封印が解かれたのかもしれない。だとすれば、あっちの世界では儀式をするはずだ」
「なんで...あの二人が命まで掛けたのに....なんで....」
私は更に訳が分からなくなった。儀式?封印?私の両親は一体何を言っているのだろうか?兄が居なくなっておかしくなってしまったのだろうか?
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