第8話 異世界生活スタート4
「いや~、すごかったですね~」
「そう...だな...」
俺はクリミリアに連れられて、魔法道具の店を回っていたのだが、クリミリアの魔法に対する愛が強すぎて、色々と連れまわされてしまったのだ。
見たことも無い魔法道具を色々と紹介されたのだが、正直どれも生活に役立つものとは思えなかった。全身の毛穴という毛穴から油分だけを出すことが出来る魔法道具や毎日飲むことで身長を伸ばせるかもしれない液体など、正直どうでも良いものばかりだった。
...ていうか、最後に至っては魔法も関係ないんじゃないか?
俺は興奮気味のクリミリアの説明を聞くので疲れてしまい、今は少しグロッキーな状態である。でも、クリミリアはいつもの調子に戻った様子で安心した。
「さて、じゃあそろそろ行きましょうか!王宮に!」
「あぁ、そうだね。なんだか緊張するな...」
「昨日も入ったじゃないですか?」
「昨日は驚き過ぎて、それどころじゃなかったからね」
俺とクリミリアは王宮に向かって歩みを進めた。王宮は町から少し離れた場所にあり、周りを大きな城壁で囲われていた。外には見張りの兵士が常にいて、普通に入るのは困難なようだ。
「ご苦労様です!」
「はい、ご苦労様です~!」
しかし、クリミリアは顔パスで場内に入れるようだ。警備をしていた兵士が敬礼をして挨拶までしていた。もしかしたらクリミリアは王宮内では高い地位を持っているのかもしれない。
城壁内の庭は広く、手入れが行き届いている。綺麗に舗装された煉瓦の道を歩き、城内に入るための扉の前まできた。
「デカいな~。この扉ってこんなデカかったのか~」
「まぁ、お祭りやイベントの時しか開けないんですけどね、こっちですよ!」
俺たちは大きな扉の脇にある、普通サイズの扉から場内に入っていった。この大きな扉はデザイン的な意味でつけられているだけなのだろうか?
先頭をクリミリアが歩き、城の中の様々な部屋を紹介してもらいながら、俺たちは昨日も来た王の間に向かっていた。途中でトイレの場所を聞いて、トイレに向かったのだが。広すぎて落ち着かなった。
「ここは私の研究室です!まぁ、いまはそれほど使ってないんですけどね~」
クリミリアは意気揚々と扉に掛かっていた城を外し、扉を開けた。俺は本や魔法陣なんかが書かれた部屋を想像していたのだが、そんなものは何処にもなく、代わりにクリミリアの下着らしき衣服や、なんだかよくわからない生き物のぬいぐるみのようなもので溢れていた。
「こ...これは...」
「あ、あぁぁ!!ち...違うんです!違うんです!片付けが面倒とか!使わないから物置代わりにしてるとかじゃないんですぅ!!」
必死に自分の衣類を隠し、恥ずかしさで顔を真っ赤にするクリミリア。
...紫か...結構派手なの履いてんだなぁ...
「いま、エッチな事考えませんでした?」
「カンガエテナイヨ?」
「カタコトで言われても信じられません!ユウトさんはやらしいです!!」
「元々、クリミリアが開けたんじゃ...」
「やらしいです!」
...理不尽!そっちが片づけないのが悪いのに!!
とりあえず部屋を整理するからと、俺は部屋から追い出され、クリミリアは部屋の中を片付けている。料理といい掃除といい、クリミリアは仕事は出来ても家事は出来ないタイプなのかもしれない。
「片付きました...」
「う、うん」
「入ってください...」
さっきの事がよほど恥ずかしかったのか、クリミリアの顔はまだ赤い。俺は部屋の中に案内され、中に入った。中は大きな本棚にたくさんの本がは置かれ、メモ書きや付箋が色々なところに置いてある。ベットなんかの家具もあるところを見ると、ここがクリミリアの住居でもあるようだった。
「なんていうか...」
...汚い、ものすごく汚い。整理すると言っていたが、これで本当に整理したのだろうか?
顔を引きつらせながら、部屋の様子を見ているとクリミリアが、恥ずかしそうに言ってきた。
「あれです!昨日急にユウトさんと住むことになってて、急いで準備したので、散らかっていただけなんです!」
この子は魔法よりも一般生活を学ぶところから始めた方が良いのではないだろうか?そんな事を考えながら周りを見ていると、机の上に写真が飾られているのを発見した。
「この写真は...?」
「あぁ!だ、駄目です!!」
写真を見ていた俺の視界をクリミリアガ両手で覆い隠した。ちらっと見えた様子ではそこまで変な写真ではなかった気がする。幼い女の子とおじいさんが写った写真だったような?
「見ちゃまずいのか?別に変な写真ではなかった気がするけど?」
「駄目です!私の幼い時の写真なんですが、今とは全然違うので、見せたくないんです!」
何やら顔を赤らめながら必死に写真を守るクリミリア。
「いや、そんなに嫌なら無理には見ないけど...」
「やっぱりもう行きましょう!ここには取に来るものがあっただけなんです!」
「部屋に入れたのはクリミリアなんじゃ...」
「いきますよ!」
俺はクリミリアに押されて、部屋を後にした。
俺たちはそのまま国王の居る部屋に向かって歩き始めた。一体クリミリアは何を取りに来たのだろうか?
「相変わらず大きな扉だな~」
歩いて数分ほどで国王の居る『王の間』に到着した。昨日も訪れたはずなのだが、やはり大きな扉だ、なんのためにこんなに大きくしたのだろうか、無意味なような気もする。
俺たちは扉の脇に立っていた警備の兵士に国王と会う約束がある事を伝えると、快くドアを開けてくれた。
「君、色々と大変だと思うが頑張ってくれ」
「え?あ、はい?」
なぜか警備の兵士のおじさんから励まされてしまった。なにか俺はあの人にしただろうか?
兵士の言葉を気にしながら部屋の中に入ると、中には国王が椅子に座って何やら書類に目を通していた。
「おお、クリミリアにユウト君か、よく来たのぉ~」
「すいません、少し遅くなってしまいました」
「これくらい遅れた内に入らんよ、クリミリア。ユウト君も昨日はよく眠れたかな?」
「はい、おかげさまで」
「すまないな、急にクリミリアを一緒に住まわせる事にしてしまって、色々と....苦労したじゃろ?」
国王はクリミリアの方をちらっと見ながら、俺に小声で言ってきた。この人はどうやら、クリミリアの料理の腕や家事の出来なさを知っていて、俺と住まわせていたようだ。
「まぁ....少しは....」
「いや、違うんじゃよ!クリミリアが自分で責任を取りたいと申しての....。わしも別の者をと思ったんじゃが、ユウト君の事を知る者も少なくてのぉ~」
「あぁ、じゃあ扉の前の兵士さんが俺にがんばれと言ったのは....」
「彼も昨日の出来事を少し知っているのでの、口止めをしてもらっているのじゃ」
そういえばそうだ、昨日俺がクリミリアに連れられてここに来た時に、クリミリアが話していた兵士はあの人だった。あの人も最初は勇者の召還が成功したとクリミリアから聞かされていたから、当然俺の事も知っている。
きっと俺が間違えて召還された、ただの一般人だと聞かされたのだろう、だから俺にがんばれと一言言ったのだ。
「あの人もがっかりしたんだろうな...」
自分が勇者じゃなくてなんだか申し訳なくなってくるが、なんと言われようとも、俺には特殊な力もないし、高い戦闘能力もない、ただの家出中の高校生なのだ。
「がっかりもあるじゃろうが...。お目付け役がクリミリアということに同乗しておるんじゃろう」
「あぁ、じゃああの人も...」
「あの者はクッキーを貰っとったな...」
こんなところにも、あの料理の被害者がいたなんて!俺は驚くと同時に、なんだか同士と再会できたような、戦友と生きて再開できたような感覚があった。
国王とこそこそ話をしていると、何やら後ろの方では、ドス黒いオーラを放ちながらクリミリアが笑っていた。
「ユウトさん?国王も何を言っているんですか?」
「え!あ、クリミリアすまん!!」
「ち...違うんじゃ!別にクリミリアの料理を悪く言っている訳じゃないんじゃ!!」
怖い、変わらず笑顔なのに、なぜかその笑顔がすごく怖い。俺と億王はクリミリアにビビッてしまい、二人して後ずさりながら必死に謝る。
「随分仲が良くなったんですね~、でも少し言いすぎですよ~」
クリミリアは俺と国王の方に一歩ずつ歩みを進めて迫ってくる。
「ごめん!クリミリア本当にごめん!!言い過ぎた!!」
「クリミリア落ち着くんじゃ!話せばわかる!」
「昨日からなんですか~、人の事を好き放題言って~、爆破しちゃいますよ~」
魔法紙を取り出し、笑いながら魔法を発動させようとするクリミリア。発言から予想するに、クリミリアが持っている魔法紙は爆発系とかいう爆弾のような魔法を発動するものに違いない。
「おい!ここ国王の間だぞ!この国のトップの部屋だぞ!!早まるな!」
「わし国王じゃよ!国王爆破しちゃったら色々まずいじゃろ!!」
やばい!クリミリアの目が座っている。今にも魔法を発動させてこの部屋を爆破させそうな勢いだ!
「国王!何とかしてくださいよ!!」
「わしにもこうなってわ...」
「もう~ごちゃごちゃうるさいですよ~。さっさと爆発してくださ~い」
クリミリアは魔法紙を俺と国王に向けてかざし、念を込め始める。魔法陣が浮かび上がり、俺たちの方に魔法陣を向けてきた。
「まてぇぇぇ!!早まるなぁぁぁぁ!!」
クリミリアが俺と国王に向かって魔法を発動した....はずなのだが_
「あれ?」
「なんじゃ??」
何も起こらない、俺と国王は恐る恐るクリミリアの方を向いた。すると、見慣れない眼鏡を掛けた女性が、クリミリアの魔法を止めていた。
「まったく、何をしているかと思えば...」
女性は眼鏡をクイッと上げ、俺と国王の方を向き、睨みつけるような鋭い視線を向けてこういった。
「少しは静かにしてください」
「おぉ、レイティンか助かったよ...もうすぐであの世に行くとこじゃった...」
「それも良いんじゃないですか?」
女性はパンツルックのスタイルの良い長身の女性だった。国王と親し気なところを見ると、王宮で働いているようだ。歳は20代中盤といったところであろうか?髪を後ろで束ねてポニーテールにしている。いかにも仕事の出来る女性といった感じだ。
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