第7話 異世界生活スタート3
食事を終えて、俺とクリミリアは家に帰って来ていた。明日は町や王宮の中を案内してくれるらしく、明日の朝は早朝から忙しいらしく、早く寝ようということになった。
「じゃあ、お先に湯浴びをどうぞ」
「湯浴び?」
「えっと...そちらの世界ではお風呂というんでしたっけ?お湯につかったり、体を洗い流す事です」
「あぁ、風呂か!わかったありがとう。丁度汗を流したかったんだ」
こっちの世界に来てからというもの、色々な事がありすぎてどっと疲れてしまった。風呂に浸かって汗を流しながら、リラックスしようと、俺は「湯あみ場」と書かれたドアの扉を開けた。中は、元の世界の風呂と酷似していて使い方も問題なさそうだった。
「あ~温まる~」
誰もいない浴槽で全身を伸ばしてリラックスをする。こういう時は、本当に異世界に来たのか疑問に思ってしまうが、先ほど食べた異世界の料理の味や目の前で見た魔法の数々は本物だった。
「これからどうなんのかな~」
ベットに入って目が覚めれば、もしかしたら全部夢で、いつも通りの日常が帰って来るかもしれない。そんな事を考えながら、俺は湯に浸かり20分ほどで湯から上がった。
「次はクリミリア入ってきていいよ」
風呂から上がると、クリミリアは何やら熱心に分厚い本を読んでいた。そのわきにはメモ書き用の用紙とペンが置かれている。
「あ、わかりました。それでは、私も入ってきますね」
クリミリアは立ち上がり、湯あみ場の方に向かって歩いていった。
「一応言っておきますが、湯あみ場を覗くのもこの世界ではだめですからね...」
「覗くか!!」
立ち止まり、ジト目で忠告してきたクリミリア。まだ先ほどの部屋に入った事を気にしているようだ。
俺は、元の世界から一緒に持ってきた寝巻に着替え、リビングでくつろいでいた。しかし、何もすることが無い、当然テレビも無いし、ネットも繋がらない。もう先に寝ていようかと考えていた瞬間、クリミリアが先ほどまで熱心に読んでいた本が目に入った。
「何を一生懸命読んでたんだ?」
俺は先ほどまでクリミリアが熱心に読んでいた本を見てみた。知らない文字のはずなのに、なぜかその文字の意味が俺にはわかった。
「勇者の起源?」
どうやら本には、勇者についての伝承やその記録を記してあるようだった。クリミリアはおそらく、俺を元の世界に返すための方法を探っていたのであろう、脇に置いてあったメモ用の用紙にはびっちりとメモが書き記してあった。
「頑張ってくれてんだな...」
俺は本を元の位置に戻した。もしも、すぐに帰る方法が見つかったとして、俺は本当に帰りたいのだろうか。もう俺の居場所の存在しないあの家に帰って、俺は何をすればいいのだろうか。
「......」
考えるのはやめよう。まだ帰れると決まった訳じゃない、明日も早いしもう寝てしまおう。俺は自室に戻り、ベットの上に寝転んだ。つかれていたせいもあり、すぐに眠りに落ちていった。
また夢を見た。昔の夢だった、俺はまだ小さくて未来も幼い、二人で公園で遊んでいた。親父と御袋がその様子を微笑みながら見ている。
...あぁ、こんな時期もあったけな...
昔の未来は俺の後ろをいつもついてきていた。どこに行くのも、俺の後ろをついてきていた。そんな未来が急に冷たくなったのは、いつのことだったろう?
俺は、帰りたいんだろうか...
翌朝、俺は目を覚まし辺りを見渡すことから始めた。やはり、自分の部屋ではなかった。もしかしたら全部夢で目を覚ましたら全部元通りになっているかと思ったが、どうやら現実らしい。
「おはよ」
「あ、おはようございます!勇徒さん!」
起きてリビングに行くと、クリミリアがもうすでに起きてきていた。
「顔洗ってくるね」
「はい、着替えたらすぐに出発するので、着替えも済ませておいてくださいね!」
「わかったよ」
洗面所に向かい、昨日クリミリアに言われた通りの方法でノズルに手をかざして、水を出す。水は魔法によってノズルから出るようになっていて、手をかざすとノズルから水が出る仕組みになっていた。昨日は蛇口がないことに焦ったが、こっちのほうが楽で良い。
顔を洗い、着替えを済ませようと部屋に戻ると、ベットの上に見慣れない革製の服が置いてあった。
「なんだこれ?」
なんとかクエストに出てくる、村人Aが着ていそうな服を持ち上げると、メモ書きが落ちた。メモ書きには「目立たないように、服はこれを着てください」そう書かれていた。
クリミリアが用意したのであろう、確かに俺の私服とこちらの服は全くデザインが違う。昨日のように人通りの少なくなった時間なら目立つこともないのだろうが、日中は確かに目立ってしまう。
「はぁ~、しかたないか」
俺は大人しく用意してもらった服に着替えて、リビングにもどった。
「あ!似合うじゃないですか!これで街を歩くのに問題はなくなりましたね!」
なんだかコスプレをしている気分だった。いつも着ている服とは随分と着心地持ちが違っては居たが、これはこれで着心地が良かった。
「じゃあ、行きましょうか。まずは食堂に行ってご飯を食べましょう」
俺とクリミリアは、家を出て街の中心地に向かって歩き始めた。クリミリアは、またしてもフードが付いたローブを羽織っていたが、今日のローブは少し短めで太ももの辺りまでの長さしかない。
「昨日のローブと違って、今日のは短いんだな」
「気が付きました!?これは外出用のローブなんです!かわいいでしょう~!」
体をくるりと回転させて、俺にローブを見せてくるクリミリア。
気になって聞いてみたが、正直昨日のローブとの違いが、大きさと色以外わからない。これはかわいいんだろうか?
「あぁ、良いんじゃないか?」
「ですよね!これ高かったんですよ~」
嬉しそうに語るクリミリア。やはりどんな世界でも女の子はオシャレが好きらしい。他愛もない話をしながら俺たちは、露店の立ち並ぶ街の中央通りまでやってきた。
途中、露店で朝食を食べ、俺たちはそのまま露店を見て回った。
「なんだか祭りみたいだな...」
「ここはいつもこうですよ、ここで生活に必要な物は大抵手に入れることができます」
噴水を中心にしてその周りに露店や飯屋などが立ち並んでいる。まだ、朝早いというのに、たくさんの人で賑わっている。
「あ!ユウトさん!面白いものがありますよ!」
クリミリアはそういうと、露店の一つを指さした。何やらアクセサリーのようなものが売っている店らしく、少しうさん臭さを感じる。
「ここは、魔法を施したアクセサリーが売っているんですよ。でも、特殊な石を使っていたりして、結構高額なんですけどね」
「そうなんだ、普通のアクセサリーにしか見えないけど...」
「お兄ちゃんどうだい?買っていくかい?」
興味深く品物を見ていると、店主のおじさんが話しかけてきた。
「あ、いや。どんなものが置いてあるのかと思って...」
「これなんかオススメだよ。契りの腕輪だ!これをつけていれば、もう片方を付けた相手が今どこにいるかが、一発でわかる優れものだ!お兄ちゃんたちみたいなカップルに大人気の品物だよ!」
「いや、カップルとかじゃないんで」
店主は銀色の腕輪を俺に進めてくる。店主の言葉にクリミリアは笑顔で否定するが、時事でもそんなキッパリ言われると少しショックだ――。
「ありゃ?そうなのかい?でも、お姉ちゃんは見たところ魔導士だろ?どうだいこの腕輪!魔法研究の材料になるんじゃないかい?」
キッパリ断ってその場を立ち去ろうとした俺たちに、再度店主が話をかけてくる。クリミリアは店主の言葉に反応し、腕輪を再度確認する。
店主はクリミリアの反応を見て、更に営業トークを続ける。
「この腕輪の効力の謎はいまだに解明されてないんだ、でもなんでか離れている相手の場所がわかっちまう!!不思議だろ~」
「た...確かに...」
「この腕輪に使われている石がその効力を持っていると言われているが、解明されれば石が無くても相手の居場所がわかる魔法なんてのが生まれるかもしんねーぞ~」
「......ごくり」
クリミリアから、生唾を飲み込む音が聞こえてくる。あー、これはクリミリアの興味にドストライクだったみたいだな...。
「いや、でも...」
自分の所持金を見てためらうクリミリア。店主は最後の追い打ちとばかりに、最後の営業トークを仕掛ける。
「なんだい、お姉ちゃん買わないのかい?残念だな~。これはもう最後の一セットだったのにな~」
「最後!う~~」
「今なら金貨5枚のところを金貨3枚で良いんだけどな~」
「買った!!!」
店主の押しに負けて、クリミリアは腕輪を買ってしまった。あんなに自分の所持金を凝視していたのに、大丈夫なのだろうか?
俺たちは店主から品物を受け取り、そのまま次の場所まで歩き始めた。
「はぁ~、ここに来るとつい無駄遣いをしてしまいます...」
なんだろう、後悔しているのか、うれしいのか、よくわからない表情でクリミリアは、購入した腕輪を見ていた。
「やっぱり、魔法の研究とかにつかうの?」
「それもありますね、今世界にはまだまだ解明されていない魔法が数多く存在しますから...」
楽しそうに話すクリミリア。きっとこの子にとって魔法は興味の尽きない対象であり、域外なのだろう。
「まぁ、でも直ぐに使うわけじゃないので、はい!ユウトさんの分です」
「え?俺もつけるの?」
「当然です。ユウトさんが迷子になるかもしれないと思って買っておいたのが半分です!」
あんなに悩んでいたのはそういう事か...
俺のせいでいらない金を使わせてしまったみたいで、少し気が引けてしまう。
「悪いね、なんだか俺のせいで...」
「大丈夫です!国王に半分出してもらいますから!」
...だから買ったのか。ちゃっかり後で自分のものにしようとしてるし...
なんともちゃっかりした子だな~、と思いながら俺は腕輪を右手の手首につけた。
「これで、もしはぐれてしまっても大丈夫です。さ!王宮に向かいましょう!」
俺たちは町の中央から、王宮までの道のりを再び歩き始めた。そういえば、クリミリアは随分と国王と仲が良いが、どんな関係なんだろう?
最初にあった時も、他の人たちは国王に対してそれらしい態度だったが、クリミリアはなぜか親しげだった。
「そういえば、クリミリアって国王と仲が良いみたいだけど、どんな関係なの?」
「関係ですか?そうですね...命の恩人でしょうか?」
「命の恩人??」
「はい、実は私、昔親に捨てられてしまって。行く当てもなくて、森をさまよっていたんです」
何やらマズイ話を聞いてしまったようだ。クリミリアにそんな過去があるなんて意外だった。どこに行っても明るくて、どこにでもいるような女の子なのに、そんな過去があるなんて...。
「そんな時に、私を拾って王宮で育ててくれたのが、国王だったんです」
「そうだったんだ...。なんかごめん」
「大丈夫です!今は友達も一緒に働く仲間もいますから!」
「そっか」
クリミリアも自分の居場所を無くした事がある。それでも今は新しい居場所を見つけて、こうして元気に毎日を送っている。俺は初めてこのクリミリアという女の子が強い子なんだと思った。
俺はもし元の世界に戻ったとして、クリミリアのように新しい居場所を見つけられるだろうか...。
「だから、国王の為に何か恩返しがしたくて、魔導士になったんです。でも、失敗ばっかりで...」
「そうだったんだ。だから、クリミリアが勇者の召還を?」
「はい、勇者の召還は数ある文献や資料を読み漁ったのですが、結局失敗しちゃって...」
...あ、やばい!
俺はまたしてもいらない事を聞いてしまったと思った。さっきからクリミリアにつらい質問ばかりさしている。何とか話題をそらそうと俺は何かないかと探す。
「そ、そういえば!あそこはなんなんだ?!」
俺は遠くに見える高い塔のようなものを指さしてクリミリアに尋ねる。おそらくこの町で一番高いであろうその塔を俺は何か不自然さを感じた。
別に明りが灯っていて、周りを照らしたりしているわけでもなく、時計のような時刻を示すものもない。
「あ、あれは祈りの塔です」
「祈り?」
「はい、あそこで祈りを捧げることによって、女神の加護が得られるとか、信仰者の間では聖地とも呼ばれています」
要するに宗教みたいなものの聖地らしく、建物は女神を崇める人達が作ったものらしい、確かによく見ると、塔の周りに女性の石像が彫られているのがわかった。
「その女神って、なんの神様なんだ?」
「女神の名前はアシュティンと言って、この世界に魔法をもたらしたとされています」
「じゃあ、祈りを捧げると、魔法が使えるようになるの?」
「いえ、そういうわけでは無いのですが、魔法学ぶ者にとっては、その根幹ともなっている神ですから、信仰者は多いです」
「じゃあクリミリアも?」
考えて見れば、クリミリアも魔法を使うし、きっとどこかで魔法を学んだのであろう。そう考えれば、クリミリアが信仰者でも可笑しくないのだが...
なぜだか、クリミリアは寂し気な表情を向ける。
「私は違います」
「え!?」
「大事な話をしていませんでしたね。アシュテインを信仰している人々は、魔法を使える自分たちこそが、神に選ばれた人類であり、上位の存在であると主張しているんです。なので、魔法を使えない者たちをさげすんでいます。魔法は、みんなの為にあるのに...」
またしても地雷を踏んでしまったらしい。しかし、それは穏やかではなさそうだ、これまで見てきた町の人々は、魔法道具は使っていたが、魔法を使っている人間は一人もいなかった。もしかしたら、魔法を使える人間はこの世界では珍しいのかもしれない。
「そんな奴らの聖地が、なんでこの国に?」
「元々は、この国の所有する建物でした。しかし、数年前に信仰者達と国家の間に亀裂が入り、信仰者達は数多くの人々を殺しました。それに怒りを覚えた国王は信仰者達をこの国から追放したんです。後にはあの塔だけが残ってしまって...」
「そうなのか...」
魔法を使える奴の中にも色々居るようだ。クリミリアのように誰かの為に魔法を使う人間ばかりではないらしい。
しかし、まずい事になった。さっきから地雷を踏みすぎて、クリミリアの表情は硬いままだ。どうにか、いつものニコニコした表情に戻さなくては...
「な...なぁ、クリミリア」
「どうかしましたか?」
「まだ時間も少し早いし、もう少し町を見て行ってもいいか?」
「大丈夫ですが?どこか見たい場所でもありますか?」
「いや、まだこの国に何があるのかも良く分かんないし!クリミリアが良くいく店とかもっと教えてくれよ!」
「私の良く行くお店ですか?魔術関係のお店が大半ですが...」
「大丈夫!俺の世界には魔法なんてものは空想上の産物だったから、すごい興味があるんだ!よかったら色々見せてくれよ!!」
俺の興味津々ともいった態度に。クリミリアは子供を見るようにクスリと笑う。何とか、さっきまでのクリミリアに戻せそうだ。
「しょうがないですね!じゃあ、魔法道具の有名な店から行きましょう!」
クリミリアは元気よくそういうと、俺の手を引いて、町を走り出した。やっぱりこっちのクリミリアの方が、俺は親しみやすくて好きだった。
まぁ、そんなこっぱずかしい事は言えないので、俺の心の中にしまっておくとしよう。
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