第4話 異世界生活スタート1
「ここが、ユウトさんの家になります」
「結構広い部屋なんだね」
国王との話の後、俺は国賓待遇でこの国に滞在する事になった。勝手に連れてこられたとはいえ、臨んだ勇者出なかったことは申し訳なかったが、俺に戦う力なんてないのだ。
今はクリミリアに連れられて、俺がこの世界で済む住居に案内をしてくれていた。城下町の一角にある小さな家だが、一人で住むには申し分ない広さだ。
「あの、ユウトさん...」
「はい?どうかしましたか?」
クリミリアが元気のなさそうな表情で俺に言ってきた。
「本当にごめんなさい!私が、私が召還を失敗したせいで、あなたをこんな世界に...」
これで謝られたのは二回目だった。彼女は本当に申し訳ないと思っているのであろう、態度を見ればそんな事はわかる。
あの後、俺が召還された人間であることは隠されることになった。召還まで失敗したと民衆に広まれば、不安が高まり暴動も起きかねないと国王が判断したからだ。
元の世界に戻る方法が見つかるまでの間、俺はクリミリアと行動を共にする事になり、この世界の生活を学ぶことになった。
「大丈夫ですよ。もう気にしてませんから...」
「でも!家族や友人と私はあなたを引き離してしまったんですよ!」
...家族か――。果たして家族とはどんなものだったのだろうかと、俺は元いた世界での出来事を思い出していた。
俺はクリミリアがこれ以上不安にならないようにと、明るく返答をするよう心掛けた。
「大丈夫ですよ!観光に来たと思えば、貴重な体験だし!魔法も色々見せてほしいし!」
俺の大げさな身振り手振りに、クリミリアは少し笑みをこぼした。これからこの世界で一番長く一緒にいる人なのに、俺の顔を見るたびに謝って来たのでは、こちらもきまづくなってしまう。
「ありがとうございます。それじゃあ、色々と教えなきゃですね」
「うん、よろしくお願いします」
「はい、今日はもう遅いですし、街に出るのは明日にしましょう。それと...」
クリミリアは、突然俺の顔を下から覗き込むように見てきた。俺は突然の事に驚き、身をそらす。
「そのかしこまった話し方はやめてください。私はユウトさんとそこまで歳は離れてないと思いますし」
...突然何を言い出すかと思えばそんな事か...
考えて見れば、クリミリアは一体いくつなのだろう。背丈や容姿から推測するに、同い年か年上かだろうとは思っていたが、やはり少し気になってしまう。
「分かったよクリミリア。俺の事もユウトで大丈夫だぜ。それとクリミリアっていくつなんだ?」
「私は16歳です。ユウトはおいくつですか?」
「なんだ一緒なんだな。まぁ、色々あったかもしれないけど、これからしばらくよろしく」
「ハイ!よろしくお願いします」
俺はクリミリアと握手を交わした。俺にはかしこまって話すなといったくせに、クリミリアはいまだに敬語のままだ。彼女はそういうキャラなのだろうか?
「それじゃあ、私は自分の部屋に荷物を置いてきますね」
「あぁ、わかった。俺はここで待ってるよ」
お互いに手を放し、クリミリアは家の二階に上っていった。
...異世界か、ちゃんと生活できるのだろうか...
一人でそんな事を考えていると、ある疑問が頭をよぎった。そういえば、なんで俺が一人で住むはずの家の二階に荷物を置きに行ったんだろうと。
「クリミリアさぁぁぁぁぁぁん!!??」
俺は事の重大さに気が付き、ダッシュで家の階段を駆け上がり、二階に一つだけ存在する部屋の扉を開けた。
「なんでこの家に...。荷物...を?」
「え!ユウトさん?!」
扉を開けた先に待っていたのは、今まさに着替えをしようと服を脱ぎ、半裸になっていたクリミリアの姿だった。今までは、フード付きのローブのようなものを着ていて、わからなかったが、とある部分の発育がすごくよかった。
...あ、やばい――
「きゃぁぁぁあぁあぁぁ!!」
「え?どわぁぁ!!」
クリミリアは、叫びながら、俺の方に手の平を向ける。すると、手のひらから大量の土が飛び出し、俺を部屋の外へと追いやった。俺は、魔法ってすごいなーと思いながら、階段の真ん中あたりまで押し戻されてしまった。
「き、着替え中なんです!!」
「すいませんでした...」
バタンとドアが閉まり、クリミリアの姿は見えなくなってしまった。
...うん、これは俺が悪いな。
ノックをして入るべきだったと後悔しながら、俺は一人砂山から脱出し、砂の後片付けをしていた。
「レディーの部屋にノックもなしで入るのはこの世界ではやっては駄目です!」
「大丈夫です。あっちの世界でもそうでした...」
着替えを終えたクリミリアが真っ赤な顔で俺に注意してくる。今は一階の広い部屋に置いてあったテーブルに向かい合って座っていた。
「そんな事より、なんで俺の家に荷物を運んでるんだよ!」
「そんなの一緒に住むからに決まってるからじゃないですか!ユウトはまだ、この世界に慣れていない上に、自分の正体を隠さなければならないんですよ!そんな人を一人で住まわせると思いますか!?」
確かにクリミリアの言う通りだ、俺はこの世界に数時間前に来たばかりなうえに、まだ買い物すらできない。現実的に考えればクリミリアの言っている事が正しいのはよくわかる。しかし、問題が一つある。
「えーと、この世界では恋愛感情に無い男女が一つ屋根の下で生活を共にするのは、普通なんでしょうか?」
「普通なわけありません!そんなのやらしいです!!」
今現在そのやらしい人になっている人から言われても説得力がない。
「じゃあ、今のこの状況はやらしくないのでしょうか?」
「何を言ってるんですか、やらしいに決まってます!」
この子は自分の発言を理解しているのだろうか?思わずそう思ってしまうような発言の数々に俺は頭を悩ませていた。
「じゃあ、流石に一緒に住むのはまずいので、出てってもらっていいですか?」
話の流れ的に、この話は筋が通っているだろう。というか、あんなことがあった後で顔もろくに見れていないし、同棲なんて絶対に無理だ。
「それは駄目ですよ!私がいなかったらユウトは食事すらろくに食べれないですよ!しかも正体がバレたらどうするんですか?!」
「まぁ...それもそうだけど、流石に一緒に住むのは...通ってくれた方がお互いに良いんじゃないかな?」
「そんなの面倒ですし、逆に怪しまれますよ!私はこれでもこの国では顔が広いんですから」
エッヘンという効果音が聞こえてきそうなくらいに胸を張って答えるクリミリア。確かにクリミリアの言うこともわかるし、クリミリアの言う通りに生活をしていれば、一人で生活するよりは安全だろう。しかし、俺も健全な男の子だ、同じ屋根の下にこんないやらしい体付きの女の子がいたら、俺よりもクリミリアの方が危ない。
「それに、これは私が招いたことですし、ユウトさんが元の世界に戻れるまでは、責任をもってサポートしていきたいんです!」
悲し気な表情で必死に訴えるクリミリア。きっと彼女なりに決めたケジメなのであろう、必死さが伝わってきた。俺は少し考え、ルールを決めて同棲する事を了承した。
「じゃあ、まずは寝る部屋ですが、私が二階のさっきの部屋で、ユウトはそこの部屋を使ってください」
クリミリアは階段下付近にあるドアを指さした。一体どんなん感じの部屋なのかが気になり、俺はドアの元まで歩みより、ドアを開けて部屋の中を覗き込んだ。
「結構きれいなんだ....」
広さは元い自分の部屋よりも少し大きいくらいで、ベットと机が置かれていた。
「この家は、国が管理している家の一つで、他国の王様なんかがお忍びでいらっしゃったときに使われるので、定期的に掃除されているんです」
後ろからクリミリアが説明をする。ここなら普通に生活をするのには丁度いいし、プライバシーが守られるのはありがたい。
「じゃあ部屋も見たところで、魔法道具の説明をしますね!」
「魔法道具?」
また知らない単語が出てきたと思いながら、俺とクリミリアは向かい合って元のテーブルに向かい合って座った。
「これが魔法道具です。ユウトさんの前でも何回か使いましたよね?」
クリミリアが取り出したのは、城に一瞬で移動した際に持っていた紙切れだった。
「これは、魔法紙だっけ?」
「はい、そうです。これは物質を別空間に保存しておく魔法が掛けられた魔法紙です。お城でユウトさんの荷物を出したのがこの魔法紙です。この魔法紙には色々な種類があって、任意の好きな魔法陣にテレポート出来る魔法紙や離れたところに居る人に念を送る事の出来る魔法紙など、種類は様々です」
「へー、こんな紙切れがね~」
俺は物珍しく、その魔法紙を手に取って観察する。俺にはただ字の書かれた紙切れにしか見れないのに、そんなに色々と出来てしまうのだから、やはり魔法は存在するようだ。
「ただし、この魔法紙には回数制限があって、回数分を使い切ってしまうとただの紙切れになってしまうので、注意してください」
「あぁ、わかった。つまりこれがあれば、大抵の日常生活には問題ないって事なんだね」
「はい、魔法紙は市場でも買えますし、私も材料さえあれば作ることが出来ます」
「え?作れちゃうの?この紙?」
クリミリアの言葉に俺は耳を疑った。こんなすごい紙を作る事が出来るのならば、一生生活には困らないんじゃないだろうし、売ればかなりの収益が見込めるのではないだろうか?
「はい、私は一応魔導士ですから、でもこの魔法紙を一枚生成するのに七日はかかってしまいます」
「一枚で七日も!!」
「はい、なので大切使ってくださいね。回数は魔法の種類にもよりますが、大体20回から40回前後ですので」
「分かった、大切に使うよ」
俺はクリミリアから、水をお湯に出来る魔法紙と火を起こす魔法紙、それから瞬間移動が出来る魔法紙と周りを照らす事の出来る魔法紙をもらった。一体買ったら幾らぐらいするんだろうか?そんな事を考えていた俺はある重大な事に気が付いた。
「あ!そういえば、この国通貨ってどうなってる?」
そうお金だ、どんな世界でも金はそれなりに大切だし、生活の基盤にもなってくるだろう。しかもここは異世界、お金の価値や計算方法が異なるかもしれない。
「通貨は、これです!全部で四種類ですね」
クリミリアはジャラジャラとコイン状の通貨を机の上に並べ始めた。金、銀、銅の丸いコインと細長い虹色のコインが順番に並べられた。
「通貨はこの順番で高額になっていきます。わかりやすく言うと、価値が高くなるにつれて光り方が強くなります」
クリミリアの言った通り、銅、銀、金、虹色の順番で光が強くなっている事に気が付いた。
...なんだか本当にRPGのような世界だな。
その後も俺は、クリミリアからこの世界の日常的な生活について教えてもらった。買い物は何処でするのか、お金は何処に預ければいいのかなど覚える事は色々あった。
「はぁ~、俺本当に大丈夫かなぁ...」
「大丈夫ですよ!私もいますし。ラルド陛下もユウトさんの味方ですから!」
すべての説明が終わり、今はクリミリアが料理を作ってくれていた。俺も手伝うといったのだが、クリミリアは「この世界に来たばかりで、何が食べれるものなのかわかるんですか?」と最もな事を言い、俺は大人しく待っている事にした。しかし――
「あれ?これって入れて良いんだっけ?いいや全部入れちゃえ」
...あれ?クリミリア大丈夫なの?いま絶対あれっ?って言ったよね。大丈夫なの!全部入れて!
こんな感じで俺は半信半疑でクリミリアの料理をまっていた。何やら鍋から黒い煙が出ている気がするが、気にするのはやめておこう。
「はーい出来ましたよ~!」
「う...うん」
出てきた料理は、料理と呼んでいいのだろうかと不思議になるようなものばかりだった。真っ黒に焦げ付いたのではなく、もともと真っ黒だったかのような魚料理や黒い煙が出ているスープ?のようなもの。辛うじて食べれそうなものと言えば、クリミリアが戸棚から取り出しただけのパンだけだ。
「クリミリアって料理したことある?」
「ないです!でもこんなの魔法の研究よりも簡単ですよ!」
一応聞いてみたのだが、わかりきった答えが返ってきた。俺は苦笑いをしながら、再度クリミリアの作った料理?を見る。
...なんかスープから甘い匂いがすんだけど...
「さぁさぁ!遠慮せずにどうぞ!」
満面の笑顔で俺に言うクリミリア。善意で作ってくれただけに、見た目で判断するのは失礼だし、それにもしかしたら、この世界での庶民の料理はこんな感じなのかもしれない。
俺はスープをスプーンですくい、顔の前までもって来る。クリミリアは笑顔でジッと俺の事を見ている。
「い...いただきます!うっ!!」
俺は掛け声と共にスープを口に含んだ。その瞬間、体中に電撃が走ったかのような衝撃が全身を駆け巡り、俺はそのまま気絶した。
「ユウトさん!ユウトさん!!」
薄れゆく意識の中で、クリミリアの声が聞こえた。
...あ~、今度からは俺が料理をしよう。
薄れゆく意識の中で俺は決意した。
またこの場所だ、俺はまたしても何もない平原にいた、しばらくぼーっとしていると声が聞こえた。
『え!なんでこんなに早く!?こっちに来るのは早すぎるわよ!!早く戻って!!』
なぜかこの前とは違い、焦った様子の声が頭の中に響いた。この声は何を焦っているのだろう?
やがて、俺の前に光の扉のようなものが現れた。
『洒落にならないから、早く戻って!ほんとに!この扉の向こうに行けば戻れるから!!』
俺はなぜか焦っている声の主の通りに、その扉を開けて向こう側に出た。
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