第3話 勇者?召還
夢を見ていた、見渡す限りの平原に俺は一人で立っていた。周りを見渡しても何もない、何となく周りを見渡しながら、周りを歩く。どこまで行っても見える景色は変わらない、ただ平原が広がっているだけだった。
『ここだ、私は...』
どこからともなく声が聞こえる。再度周りを見渡すが、人の姿なんてやっぱりなかった。
「誰なんだ!出てきてくれ!」
声を上げて、声の主を探すがどこにもそれらしい人影は見えない。
『ここだ、私は...』
また声が聞こえる、しかし声は耳から聞こえているものでは無い事に新たに気が付いた。声は頭の中に直接流れ込んでくるようにして聞こえてくる。
「誰だ!ここはどこなんだ!教えてくれ!」
『ここだ、私は...』
同じ言葉が頭の中に流れてくる。声はどんどん遠く薄くなっていくのを感じた。
「待ってくれ!一体何が起こってるんだ!」
『探せ、私を。私はここだ...』
その言葉を最後に、声は消えてしまった。どこまで続く、果てしない平原の世界。またしても突然の眠気を俺が襲う。俺はまたしても、眠りの中に落ちて行った。
⋇
「おい!来るぞ!!」
「成功か?この光は...」
声が聞こえる、知らない声だ。俺は目を閉じたままだった。体は浮いているような感覚があって、すごい疲労感があるのがわかった。
落ちている感覚だった、しかも普通に落下しているのではない、フワフワとゆっくり、優しく落ちていく感覚なんだと気が付いた。
「まだよ!気を抜かないで!全員集中したまま、魔力を送り続けて!」
女の子の声が聞こえた。その声の後に、激しい光が体を包むのを感じた。暖かくて、どこか優しい光だった。
俺は激しい光の中で、瞳を開けた。何やら薄暗い部屋で、フードを被った人たちが、俺を見ていた。体はまだ浮いたままだったが、意外と地面とは近く、もうすぐで足がついてしまいそうな距離だった。
「目を開けたぞ!!」
「この方が、この国の救世主!」
何やらフードを被った人たちは俺を見ながら喜んでいる。まだ完全に目が覚めていない俺は、状況が把握できなかった。やがて光は収まり、俺は横たわった状態で地面へ静かに落ちて行った。
俺は体を起こして、周りを見る。円形の薄暗い部屋には10名ほどのフードを被った人たちがいて、俺の方を見ていた。
「ここは...いてっ!!」
頭を動かした瞬間に後頭部に激痛が走った。俺は思わず痛みがあった場所を抑えるが、不思議と痛みはすぐに消えた。そんな事をしていると、目の前にいたフードの人が一歩前に進み近づいてきた。
「ここはファリネオス王国です。勇者様」
声の主は、膝をついて、俺に手を差し伸べてくる。声とフードから少しのぞき見える顔立ちから女の子であることがわかった。
「ファリネオス王国?」
「この国の名前です。異界より現れた貴方様ならば、知るはずがありません」
「さっきから何を言ってんだ?異界とか勇者とか、それに一体ここは....」
「混乱するのも無理はありません。これからご説明をしますので、まずはこの部屋から出ましょう」
そういうとフードの女の子は、フードを取って素顔をあらわにした。栗色の綺麗な髪に、瞳は金色の綺麗な瞳で、整った綺麗な顔立ちをしていた。ロングヘアーであろう長い髪をフードの外に出し、再び俺の方を向いて笑顔を向けてきた。
「私はクリミリア・ヒース・ラリエ。貴方様の事はなんとおよびすれば?」
思わず見とれてしまった。綺麗な瞳も、長いロングヘア~にも、整った顔立ちにも、間違いなくこの子は美少女だった。俺は彼女に見とれて言葉を忘れ見入ってしまっていた。
「あ...あの~」
いつまでたっても返答の無い俺に、彼女は困った顔で再度訪ねてきた。
「あ!えっと...俺は、渡世勇徒」
「ワタセユウト?よろしくお願いします!ユウトさん」
彼女は同時に俺の手を取り、またしても笑顔を俺に向けた。ここは何処なのかとか、いったいこの人たちは何者なのかと、聞きたいことが色々あったはずなのだが、なぜだろう。この子の笑顔を見ていると、不思議と心が落ち着いた。
「ユウトさん!先ほども申し上げましたが、話さなければならない事がたくさんあります。とりあえず場所を移したいので、立ち上がってもらって構いませんか?」
「あ、はい」
俺は言われるがままに立ち上がろうと、少女の手を掴みそのまま立ち上がった。するとそれまでは、離れた場所に居たフードを被った人たちが、フードを外し笑顔で俺の方に近寄ってきた。
「お会いできて、光栄です!勇者様!」
「これで、この国は安泰だ!」
「やっと安心して過ごせるのね!」
何やら訳の分からな事を言っているが、歓迎されているのは確かなようだ。なぜかその場にいた俺以外は皆嬉しそうで、泣き出す人までいた。握手を求めてくる人や拝みだす人までいて、俺は更に訳が分からなくなってしまった。
「あの、なんなんですか、これは...」
「すいません。皆うれしいんです、ようやく成功したから...」
「え、ちょっと!あなたまで泣かないでくださいよ」
俺が尋ねると、クリミリアと名乗った少女も泣き出してしまった。俺の心は混乱する一方で、早く説明をしてほしいと願っていた。
ようやく、場が落ち着き、場所を移動し始めた。どうやらここは地下だったようで、部屋のドアのすぐ目の前には地上に続く階段があった。
「なんだ...ここは...」
階段を上り終えて、外に出た瞬間に俺は目を疑った。目の前には大きなお城に、そこを中心として、城下町のような町が広がっており、その町一つを大きな城壁で囲われていた。空には大きな岩や島が浮いていて、明らかに自分がいた世界とは異なっていた。
「ユウトさん。これからあの城に向かいます」
クリミリアは目の前に見える、大きな城を指さした。ここからでもかなりの距離がある。車なんてある訳は無いので、おそらく歩きであろう。ここから歩けば一時間は余裕でかかってしまいそうな距離に俺は少し気が滅入ってしまった。
「結構遠いですね...」
「そんな事ありませんよ?さ、私の手を握ってください。移動魔法陣を使います」
「移動?魔法陣??」
俺は聞きなれない言葉に困惑しながら、クリミリアの方を見る。彼女は懐から文字の羅列が書かれた正方形の紙切れを取り出した。周りにいた人たちも同じような紙を出し始める。
「では、私の手を握ってもらえますか?」
「え?あぁ、うん...」
俺は困惑しながら、クリミリアの手を握った。女の子の手を握るのは久しぶりで、緊張してしまった。手汗をかいていないかとか、クリミリアの手がすごく柔らかくて心地よいとか、そんな事を考えてしまった。
「じゃあ、皆さん!転移先は城の転移陣でお願いします!」
「分かったわ!」
「早く言って、王様に報告しなきゃなんねーしな!」
クリミリアの掛け声に、皆は嬉しそうに反応する。
王様?転移陣?何が何だか、俺はさっぱりわからない。
「では、行きます」
クリミリアはそういうと、取り出した紙切れを持ち、何かを祈るかのように顔の前にもってきて目を閉じた。すると紙切れは突如光を放ち、あっという間に俺とクリミリアを包み込んだ。
「な!なんだぁ!!」
「ご安心ください。すぐにつきますよ!」
「いや!そういう事じゃなくて!」
眩い光は、やがて収まり、目を開くとそこは先ほどまでいた野山ではなくなっていた。周りは煉瓦造りで、何やら下の方からは騒がしい声が聞こえてくる。
「つきましたよ!ここが、ファリネオス城です!」
周りを見渡すと、そこは先ほどまで遠目に見ていたお城だと気が付いた。大きな城のテラスのような場所に一瞬で移動しており、先ほどまで俺たちがいた野原が遠くに見えた。
「こんな遠くに、一瞬で来たのか....」
「はい!歩いては流石に遠いので、それでは行きましょう!」
「え?行くってどこに?」
「国王の所にです!」
「は?」
クリミリアは俺の腕をとって、ズンズンと城なのかを進んで行った。後ろからあのフードの人たちもゾロゾロとついてきていた。
やがて、大きな扉の前にたどりついた。この部屋だけ扉の作りが違っていて、扉の両脇には、鎧を身にまとった屈強な男が槍を持って立っていた。いかにも扉を開けたら王様が大きな椅子に踏ん反りかえって座っていそうな感じがした。
「これより先は国王陛下の間!謁見の許可無き者は通すことはできない!!」
「クリミリアが勇者の召還に成功したとお伝えください。なるべく急ぎでお願いします」
「まさか...成功したのか!そこでお待ちください!」
そういうと、兵士の一人は扉の向こうに消えて行った。しかし、すぐに扉を開けて戻ってきた。
「失礼いたしました!国王との謁見が許可されました!お通りください!!」
兵士は、大きな扉を開け俺たちを部屋の中に案内した。部屋の中は大きな広間のようになっていて、入り口の向こう側には想像通り、大きな椅子が置いてあった。しかし、その椅子には誰も座っていなかった。その代りに、窓のそばに、外を眺める老人が一人立っていた。
「陛下、また椅子から立ち上がって!国王らしくそこで堂々としていてください!」
「クリミリアか、どうにもジッとしておれんのだ。やはり一日この部屋に閉じこもっているのはわしには合わんのだ」
クリミリアは老人に対して、注意をした。国王って言っていたし、この老人が国王である事は間違いなさそうなのだが、国王に対してその口の利き方は大丈夫なのだろうか?
「む?そのものが、召還された、勇者か?」
国王は俺の方を見ながらクリミリアに尋ねた。クリミリアは、俺の手を取って、国王の下に向かい、嬉しそうに報告した
「はい!ついにやりました!やっぱり伝承は本当だったんです!!」
「ほ~そなたが...」
国王は俺の事をじろじろと見始めた。先ほどから出てくる勇者という単語に違和感を覚えながら、俺はようやく口を開いた。
「あの!そっちで盛り上がってるさなか悪いんですけど!こっちも色々とお聞きしたいんですが、いいですか?」
「おお、すまんすまん。突然の事で驚いたであろう。クリミリアの事だ、ろくに説明もしないで連れてきたのであろう。私から答えられることは答えよう。とその前にじゃ...」
国王は優しい表情でそういうと、俺たち共にきたフードを被った集団のところまで歩いていった。フードを被っていた人たちは皆、膝をつき頭を下げていた。
「皆、ご苦労であった。これからが大変な時ではあるが、君たちの功績は大きい。礼を言わせてもらおう」
国王は頭を下げ、フードを被っていた集団に礼を言った。フードの集団は、国王の言動に感激していた。
「陛下、我らにそのような言葉はもったいありません」
「お顔をお上げください!我々は自分の為にやったようなものなのです!」
国王に頭を上げるように促すが、国王は一向に顔を上げようとしなかった。やっと顔を上げたと思ったら、今度は扉の方で待機していた兵士を呼んだ。
「この者たちに褒美の用意をせよ。あと、暖かい食事を頼む」
「は!」
そういうと、兵士はフードの集団を連れてどこかに消えて行った。やがて国王は俺とクリミリアの元に戻ってきて、場所を移す事を提案した。
俺とクリミリアは隣の部屋の中に案内され、言われるがままにその部屋に入った。中には大きな名がテーブルと椅子がたくさん置いてあり、それぞれドアの脇にはメイドさんが立っていた。
「腹も減っているだろう。君!」
「はい、なんでございましょう?」
「クリミリアとこの者に食事を頼む。わしにはお茶を」
「かしこまりました」
メイドを呼びつけ、食事を頼む国王の姿に、本当に王様なんだと、やっと実感を持つことが出来た。
聞きたいことは山ほどあった。ここがどこなのか、勇者とは何のことなのか、どうすれば帰れるのか...
「さてと、まずは何が聞きたいかな?」
国王は一番近い席に座り、俺とクリミリアはその席の向かいに座らされた。
「ここは、どこなんですか?おれ...自分がいた場所とは風景も何もかもが違いすぎます」
現実離れしたお城に、宙に浮いた島や岩。明らかに自分のいた世界では無い事は察していた。
「ここは、ファリネオス王国。わし、第9国王ラルド・ファリネオスが収める国じゃ。君の事はなんと呼べばいいかな?」
「自分は、渡瀬勇徒です」
「ユウトと申すのか?君の国はどのような国なのだ?先ほどは何もかもが違うと申しておったが」
俺は自分の国の事を事細かに説明し始めた。日本と言う国の話や人々の生活について、とにかく色々な事を二人に話した。こちらの世界ではあり得ない話も多かったらしく、長い時間、自分の国の事を聞かれた。途中で食事が運ばれてきて、一旦は話は中断された。
「口に合うと良いんだがのぉ。君は人間であっているかな?」
「はぁ、まぁ見た目通りの人間ですが?」
質問の意味が分からず、俺は戸惑いながら、当たり前の事を答える。それを察したのか。クリミリアが、口を開いて説明を始めた。
「こっちの世界には、人間以外にも知能を持った人間に近い生物が生活を共にしているんです」
「あぁ、なるほど。それってエルフとかドワーフとか言う生き物ですか?」
俺は自分が知る限りのファンタジーの世界に出てきそうな、人間に近い生物の名前を上げて、尋ねる。しかし、聞き覚えが無い様子で、国王とクリミリアは首を傾げていた。
「エルフ?ドワーフ??聞いたことがないのぉ~。君の世界、日本にはそのような生き物がおるのか?」
「いえ、こっちの世界では空想上の生き物として存在しているだけです。もしかしたらこっちの世界に居るのが、その生物なのかと思って」
「なるほどのぅ~。そちらの世界の話はどれも興味深いのぉ~。おっとすまんすまん、冷めぬうちに食べてくれ、うちの料理人は良い腕をしておるからのぉ」
「はい、いただきます...」
目の前に出されたのは、ステーキのような料理だった。おしゃれなお皿にステーキのような料理と、添え物に何やら白い野菜のような物体が添えられていた。失礼だとは思ったが、ちゃんと食べれるものなのか心配になり、俺は肉をナイフで一口分切り、匂いを嗅いだ。
「やはり、心配だったかの?」
「あ、すいません。自分もまだ不安で...」
国王は俺に気を使って、心配そうに俺の様子を見ていた。やはり異世界の食べ物だ、もしかしたら俺の体に合わないかもしれない、確かにおいしそうではあったが、正直口に運ぶのは怖かった。
「えっと...。食べ方わかりますか!?こうですよ!こう!」
クリミリアも俺に気を使ってか、食べ方を見せてくる。正直少し話しただけだが、この二人の事は信用してもよさそうだと思い始めていた。
俺は覚悟を決めて、肉を口に運ぶ。
「ん...!」
「どうじゃ?」
「おいしい...ですか?」
口に含んだ肉は、牛肉のように柔らかく、ソースは今までに食べたことが無い、飛び切りおいしいものだった。高級料理店にでも来たかのような料理に、俺は思わずガッついてしまった。
「おいしいです!めちゃくちゃうまい!」
「ほう、それは良かった...」
「うふふ、やっと笑いましたね」
クリミリアの言う通り、俺はこっちの世界に来てから初めて笑顔になった。それくらいおいしい食事に俺は感激していたのだ。やがてお皿にあった食事はなくなり、話の続きが始まった。
「なるほどのぉ~。遠くに居ても誰とでも連絡をとれるスマホなるものがあるのか...」
「はい、自分くらいの年の人はほとんど持っています。あ!これです」
俺はポケットに入れっぱなしにしていたスマホを取り出し、国王とクリミリアに見せた。二人は興味津々な様子で、スマホを凝視していた。
「これで、連絡がとれるんですか?」
「信じられん、こんなにどんな魔力が?」
そこで俺は、家を出た際にもっていたバックを思い出した。もしかしたら一緒にこっちの世界に来ているかもしれない。そうすれば、着替えは何とかなるだろう。
「そいえば、自分がこっちの世界に来た時に、バック...袋のようなものも一緒にありませんでしたか?」
「あ、大丈夫です!ユウトさんのお荷物はここに...」
クリミリアに尋ねると、クリミアは、先ほどの瞬間移動の時のように、正方形の紙切れを取り出し、顔の前にもっていった。紙切れは光を放ち一瞬でその光は収まった、するとクリミリアの目の前には俺が持っていたボストンバックが出てきた。
「はい!どうぞ」
「あ、あぁ。ありがとう。便利な紙切れだね」
「紙切れじゃありませんよ。これは魔法紙です!」
「魔法紙?」
先ほどから度々、魔法という言葉が出てきて、気にはなっていたが、もしかしたらこの世界には魔法があるのか?
「はい!これは魔法陣をミレスの大木と呼ばれる樹木から作った用紙に書いて、すぐに魔法を発動できるようにしておくものなんです!すごいですよね?!」
「そうなんだ?一つ聞いても良いかな?」
「はい、なんでもどうぞ!」
「魔法って、あの魔法?」
「あの?とは?」
質問を質問で返されてしまった。それもそうだ。何があの魔法だ、そんな事を言ってもクリミリアに伝わるはずがない。
「うむ、話を聞く限りじゃが、君の世界に魔法というものは存在しないのかね?」
国王が俺を見かねてか尋ねてきた。俺は、魔法はお話や伝承などの空想の産物であり、この世には存在しないものだということを二人に説明した。二人は今までで一番驚いた顔でこちらを見ていた。
「バカな...それではどうやって生活を送るのだ?」
「先ほども言った通り、電気やガスといったものがあれば、火を起こすことも乗り物を動かすこともできてしまうのです。自分にとっては、魔法があることに驚きました」
国王とクリミリアは、いまだに信じられないといった様子で、俺の言葉を聞いていた。この世界は魔法が生活の基盤になっているのであろうということは、二人の態度を見れば一目で理解できた。
「それでは、どうやって魔物と戦うのじゃ?」
「魔物もいるんですか...」
ここまでくると、本当にファンタジーな世界に来てしまったのだと、だんだん理解が追い付いてきた。
「魔物は自分の世界には存在しません。戦う力は存在しますが、一般の人間に戦いは無縁なんです」
「そ、それじゃあ!ユウトさんはどうやって戦うんですか?!」
なぜか隣にいたクリミリアが血相変えて、俺に尋ねてきた。一体どうしたのだろうかと驚いてしまった。
「いや、俺は戦う知識は一切ないよ。ケンカだってしたことが無いんだ」
「そ、それじゃあ困るんです!」
「え?」
クリミリアは、俺の言葉を聞いたとたんに焦った様子で、俺に尋ねてくる。しかし、そんなクリミリアを国王がなだめる。
「すまんの、この話を一番最初にするべきじゃった」
「どういう意味ですか?」
「いまこの国は、いや世界は危機に陥っておる。突如現れた謎の敵の攻撃により、大陸は割れ、魔物も狂暴化しておる。我々の力ではその脅威に対抗はできなかった」
「はい...」
ここまでで俺は何となく察しがついてしまった。先ほどから度々勇者と呼ばれていたことや、あの感激のしようなどからおおよその予想はついていた。
「君は、そんなこの世界を救うために、クリミリアが召還した勇者なのじゃよ」
俺の予想は見事に的中してしまった。国王はこの世界の現状や勇者の伝承について教えてくれた。
この世界は、数年前から謎の黒い騎士団の攻撃を受けている事、その騎士団にはこの世界のいかなる者も勝てなかった事、そしてその脅威がこの国にも迫っているという事。
「そこで、わしはクリミリアに命じたのじゃ、勇者召還の伝承を再現する事を」
「その伝承とは、どんなものなんですか?」
「うむ、召還儀式には大量の魔力と特殊な魔法陣を用いて、異界の戦士を召還する、召還された戦士は圧倒的な力で、世界の脅威を一掃しこの世界に平穏をもたらすだろうと」
国王が話をしている間、クリミリアは、下を向いて悲し気な表情を浮かべていた。国王は話終えると、俺の方をみて尋ねてきた。
「君は、戦士ではないのか?」
「はい...すいませんが、俺の世界は基本的に平和で、戦う必要なんてないので...」
一気に空気が気まずくなってしまった。クリミリアはさっきまであんなに元気だったのに、今は黙ったままだ。
「すまない、わしの安易な指示で、君を危険な世界に招いてしまったのかもしれん」
国王は俺に向かって頭を深々と下げた。俺はそんな国王になんて言えばわからないでいると。突然クリミリアが立ち上がり、俺の方を向いて頭を下げた。
「違います!私が、私が召還を間違ってしまったから!ユウトさん、本当にごめんなさい!」
二人に頭を下げられ、俺は困ってしまった。それと同時に、ここでも俺は必要とされず、どこに行っても居場所のない自分が悲しくなってしまった。
「あの、頭を上げてください。もしかしたらすぐに戻れるかもしれませんし...」
「しかし、君の平和だった日常をわしらの勝手な都合で奪ってしまったのだぞ」
「いいですよ、どうせ帰るところなんて無いですし...」
つい数時間前に自宅であった出来事を思い出す。どうせ家には帰りたくないし、ここが異世界なのならば警察に発見される恐れもない、もしかしたらちょうどよかったのかもしれないと思ってしまう自分がいた。
「あの、じゃあ帰る方法が見つかるまで、どこか寝泊り出来る場所をお借りできないでしょうか?」
「それはもちろんじゃ、君は若いし親御さんも心配なさるじゃろう。なるべく早く帰る方法を見つけよう!」
「大丈夫です!私が責任をもってユウトさんを元の世界に返して見せます!」
良かった、住む場所は何とかなりそうだ。勇者として期待をしていたのであろう二人には申し訳ないが、俺はただの高校生だ。突然魔物や世界の脅威と戦ってくださいと言っても無理な話だ。
ここは異世界、当たり前だがここも俺の居場所ではないのだ。
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