第5話 異世界生活スタート2
「...さん!ユウトさん!!」
「う...う~ん。お...俺は?」
目を覚ますと、顔を真っ青にしたクリミリアの顔が目の前にあった。どうやら俺は気絶していたようだ。しかし、本当に気絶していたのだろうか?あの世界が俗に言う天国ではなかったのだろうか?
「よかった...私の料理を食べた後、泡を吹いて倒れたので、心配したんですよ...」
そうだ、俺はクリミリアの料理?を食べて気絶してしまったのだ。あまりのまずさに、体が拒否反応を起こしたのがわかるくらいに、体はクリミリアの料理を受け付けなかった。
「すいません...私また...」
しょんぼりとしてしまうクリミリア。あの料理の出来はともかく、善意でやってくれたことに変わりはない。
「ありがとうクリミリア。お世辞にも美味しいとは言えなかったけど、気持ちはうれしかったよ」
俺はしょんぼりとするクリミリアに、お礼を言う。しかし、晩飯はどうしたものだろう。もう家には料理の材料らしきものは存在しないし、正直余計腹も減ってしまった。
「すいません...私、ドジばっかりで...」
...あの料理をドジで済ませられたら、警察なんていらないな。
「飯、どうしよっか。結構時間遅いけど、お店とかってやってるのかな?」
「もう全部閉まっちゃてます...。はぁ~これも私のせいで...」
またしても元気をなくしてしまうクリミリア。そういえば、この子にとって今日は災難な一日なのだろうな、召還は失敗するは、俺みたいな得体のしれない人間と一緒に暮らすことになったり。
「あ!そうだ!食べに行きましょうか!ごはん!」
「食べにって...一体どこに?」
「そんなの食堂に決まってますよ!私の知り合いがやってる店に行きましょう!あそこのランポポブタのソテーが絶品なんです!」
話の流れからすると、クリミリアの言う食堂とは、俺達の世界の飲食店の事だろう。てか、こっちの世界にもブタとかって居るんだな...
俺はクリミリアに言われるままに外に出て、その食堂に向かった。外の露店などが並んでいた通りは、すっかり静かになっていた。しかし、所々にある大きな建物から光が漏れ出し、にぎやかな声が聞こえてきていた。俺とクリミリアはその大きな建物の一つに入っていった。
看板には『シャングス』と書かれていた。
「いらっしゃーい!お好きな席にどうぞ~」
建物の中は大変な賑わい用で、みんな食事や酒盛りをしていた。俺たちは開いていたカウンター席に座った。
「あれ?ミリアじゃん!どうしたの?あんたが男連れてるなんて...」
カウンターの向こう側にいた店員がクリミリアに話しかけてきた。店員はショートカットの女の子で、ショートパンツに肩が露出しているTシャツという、なんとも露出度の高い格好で接客をしていた。おまけにTシャツは脇で縛り、へそが丸出しになっている。
一瞬如何わしい店ではないのかと、疑ってしまったが、店の中には家族連れのような団体もいたので、その心配はなさそうだ。
「この人はユウトさん。この国の外からきた国賓のお客様なの。で、ユウトさん。この子はリティー、私のお友達でこのお店で働いているんです」
「リティ―・シャングスよ。よろしくね!国賓ってことは、どっかの貴族!?にしてはオーラが無いって言うか、冴えない顔ね...」
...おい!初対面の人間にその言い方はなんだ、しつれいだろ!
リティ―は俺の顔をじーっと観察していた。
「あぁ、ごめんごめん。初対面で失礼だったよね。お詫びに一杯奢るからさ!」
俺の表情から察したのか、リティーは軽いノリで謝ってくる。まぁ悪い子ではないようだ。俺はそういう印象を受けながら、メニュー票を受け取り、メニューを見た。
「このクレレの塩和えって何?」
「えっと、クレレって言うのはこういう生物の脇腹のお肉の事です。柔らかくて美味しいですよ~」
クリミリアが、先ほど教えてもらった魔法道具の記録保管機を使って、俺に説明をしてくれた。この記憶保管機は四角い小さい本になっていて、本を開かなくても念じるだけでその本に記憶された映像や細かい説明が宙に浮かび上がるという優れものだ。
しかし、映し出された生物は、牛とヤギを合体させたような見たことも無い生物だった。俺はこの生物の肉は食べても大丈夫なのか不安になりつつも、王様に出してもらったあの料理を思い出し、クレレの塩和えを注文する事にした。
「でも、国賓様がなんでうちみたいな汚い店で食事を?普通は王宮で王様とお食事とかじゃないの?」
「え?いや、まぁ...色々とあってね...」
確かにリティーの言う通りだ、普通ならば国賓などという身分ならば、こんな普通の庶民が来る店で食事はしないだろう。どう言えばいいのだろう?
「色々って??気になるなぁ~」
悪い笑みを浮かべながら、リティーは俺に迫って問い詰めようとする。しかし、その間にクリミリアが割って入った。
「あぁぁ!あのね!私がユウトに食事を用意したんだけど!」
「はぁ!!ミリア!料理したの?!」
「え...う、うん...」
クリミリアの発言に驚き、大声を出すリティー。クリミリアは、リティーから目をそらして、気まずそうにうなずく。
...まぁ、確かにあの腕ならな...
「はぁ~。いったでしょ!あんたは当分料理は禁止だって!あんたも良く生きてたわね...」
「その口ぶりは、リティーさんもあれを?」
「リティーで良いわ。えぇ...食べたわ。今思い出すだけでも、背筋がぞっとするわよ...」
...ここにも被害者がいたか...
俺はリティーに何か同じ苦しみに耐えた仲間のような、親近感を覚え、無言でリティーと握手を交わしていた。
「よく生還したわね...もう一杯奢るわ」
「話の分かる人で良かった、じゃあ遠慮無く」
「なんで、私の料理の話でそんなに仲良くなるんですか~!!」
その後、俺たちは運ばれてきた料理を食べた。クレレの塩和えは、豚肉のように柔らかくジューシーでおいしかった。クリミリアは、サラダと何かのソテーを食べていた。
食事が終わり、今は仕事終わりのリティーも交えて談笑をしている。
「でね、この子ったら見た通り、エロい体してるでしょ~。よく男共から迫られてんのよ~」
「迫られてなんていません!ただ、食事に誘われたり、プレゼントをもらうだけです!」
「それを迫られてるって言うのよ~。このエロ娘!私がその体、弄んじゃうんだから~」
「や、やめてよリティー!」
リティーはいやらしい手つきで、クリミリアに向かって迫っていく。確かに、クリミリアの体付きはエロい。わかりやすく言えば、出るところは出てるし、引き締まるところはきちんと引き締まった居る。
一方のリティーはというと、背丈はクリミリアと変わらないし、スレンダーな体つきなのだが、胸までスレンダーなのは、男としては残念だ。
「おい、いま私の胸をバカにしたな...」
「え!なんでバレたし...」
「本当にバカにしてたなんて!最低!」
「あ!引っかけたな!汚いぞ!!」
先ほどまで、クリミリアに向いていたはずのリティーの敵意は俺の方に向いていた。よほど胸の事がコンプレックスだったのであろう、リティーは本気で怒っている様子だった。
「やっぱり胸か!!男は胸が良いんか!!」
自分の胸を押さえながら俺に訴えかけるリティー。俺は貧乳派ではないが、そんなリティーの姿を少しエロく感じてしまった。
「いや、まだ発展途上って可能性も...」
「私が発展途上だったら、何年発展しないのよ!もう望みゼロよ!」
「落ち着けって!」
ワーワーと騒いでいると、店の奥から大柄の男が出てきた。服を着ていてもわかるくらいにものすごい筋肉で、俺からリティーを引きはがした。
「うるさいぞリティー。他のお客さんに迷惑だろう」
「なんだよ親父。親父こそ仕事中だろ?」
...え?親父!この筋肉モリモリでダンディーなおっさんが!
俺は驚きを隠せなかった。リティーもクリミリアと並ぶくらいに美少女だ、貧乳だけど。そんなリティーの親父さんにしてはどこぞのボディービルダーのような立派な筋肉をお持ちだったから、なお信じられなかった。
「親父じゃない。パパと呼べって言ってるだろう」
「意味は同じでしょ?今更変えるのも面倒だし」
「はぁ...。すまない君、見た通りに強情な娘でな、クリミリアちゃんもすまないね」
「いえいえ、大丈夫ですよ!おじさん!」
常識がある人の様で安心した。初対面の相手にいきなり失礼な事を言ってくる娘の父親だ、不安にもなってしまうが、そんな心配はいらなかったらしい。
「リティー、もっと女の子らしくしたらどうなんだ?お前は昔っから...」
「あー!!もう!またその話!?女らしくって言われてもこうなっちゃったんだから仕方ないでしょ?諦めて!」
「じゃあせめてパパって呼んでくれ!初めて言葉を覚えた時から、親父、親父って、なんで一度もパパと呼んでくれないんだ!!」
「え、なんかきもいじゃん」
リティーの一言に親父さんは凍り付いてしまった。娘にキモイと言われた事がよほどショックだったのだろう。顔が真っ青になっていた。
「ぬぁぁぁぁぁっぁぁ!!なんで!なんでこうなってしまったんだ!!本当なら今頃、この店の看板娘になっているはずだったのに!!こんな男と見分けがつかない体つきに!!」
「体は関係ないだろ!!」
「ぶわっ!!!」
泣き崩れる親父さんに、リティーは容赦のない膝蹴りを食らわせる。親父さんは床に倒れ込み。蹴られたお腹を押さえてうずくまってしまった。
「あの、大丈夫ですか...?」
「リティー!やりすぎよ!」
「だってさぁ~!」
俺は親父さんの元に駆け寄って、立ち上がる手伝いをする。なんだかこの人も苦労の絶えない人のようだ。
「う...ぅう!娘が生まれた時から、そんなふしだらな格好ではなく、もっとフリフリのこんな服を着て接客をさせるつもりだったのに!」
親父さんは何処からともなく、メイド服のようなひらひらとした衣装を取り出し、リティーに見せる。
...いや、娘にそんな服着せたがる親父さんも親父さんだろ...
「そんな服着れないわよ!大体、胸のサイズがなんでそんなにあってないのよ!!」
「お前が生まれる前に作ったからな...大変だったんだぞ~」
...え!親父さんの手作り!?
なんだか、この親父さんも相当変な人なんじゃないかと思いながら、俺は二人の親子喧嘩を見ていた。二人がギャーギャーと騒がしくしている中、クリミリアが俺の方によってきた。
「すいません。いつもこんな感じなんです...」
耳元でささやいてくる、クリミリア。まぁ、見ていればあまり親子中がよろしくなさそうなことはわかる。しかし、どうしたものか、二人の言い争いが終わる気配がない。
そんな事を考えていると、またしても店の奥から誰かが出てきた、今度は女の人だった、髪を後ろで束ねていて、リティーやクリミリアよりも少し上くらいの年齢に感じた。
「あんた!仕事さぼって何やってんの!!」
「ぎゃっ!!」
女の人は右手にもっていたフライパンで親父さんの後頭部を思いっきり叩いた。親父さんは大丈夫なのだろうか...。
「お母さん!」
リティーがそう叫ぶ。
...え?お母さん!?
どう見ても一時の母には見えないくらいに若々しい女の人が、あの親父さんの奥さんだなんて、俺はどうしても信じられなかった。
「まったく!仕事さぼって何してんの!オーダー溜まってんだから、さっさと厨房に戻りな!!バイトにばっか仕事させんじゃないよ!」
「ナリア、しかしだな...」
「い・い・わ・ね?」
「はい!!」
奥さんの気迫に圧倒され、親父さんは店の奥に走っていった。しかし、いまだに信じられない、どっからどう見てもまだまだ20代後半で通用しそうな女性が、あの筋肉モリモリの親父さんの奥さんだなんて。
「ごめんなさいね。うちのは娘に変な願望抱いちゃってて、あんな感じで娘とは言い争いばっかなのよ」
「いえ、大丈夫ですけど、一つ聞いても良いですか?」
「何かしら?」
「お母様はおいくつなんでしょうか??」
俺は気になってしまい、思わず口に出して、聞いてしまった。考えて見れば大変失礼な行為だ、初対面のしかも女性に年齢を聞くなんて。
「アハハ!そうだよね、みんな同じ事を聞いてくるよ」
「やっぱりですか...」
「もう慣れちまったよ、そんな質問。そんなに若く見えるのかね?」
自覚が無いんだろうか、自分がものすごく美人で若々しい事に。あの親父さんとはいったいどこで知り合ったのだろう?疑問はどんどん増えていく。
「私はこれでも36だよ。もう良いおばさんだよ~」
「え!36??」
俺はぶっちゃけ、この人は親父さんの二回目の奥さんで、リティーの本当の母親ではない。なんてことを想像してしまったのだが、年齢的にそれはなさそうだ。
「クリミリアちゃんもごめんね、うちの娘と夫がやかましくて」
「いえいえ、大丈夫ですよ!もう慣れました!」
「そういえば自己紹介がまだだったね。私はナリア・シャングス。この店の店長夫人だよ」
「あ、ユウトと申します。先ほどは失礼しました」
俺とナリアさんは互いに自己紹介をして、握手を交わした。やっぱり若い、顔にしわなんて一切ないし、ハキハキとした口調に姉御肌を感じた。
「それにしても、リティー!あんたはまたお客さんに失礼なことを!」
「痛い!いたいって!!」
ナリアさんはリティーの耳を引っ張り、お仕置きをしていた。リティーもナリアさんには頭が上がらないらしい、お仕置きが終わった後も静かになっていた。
「ユウト君はなんだい、クリミリアちゃんの男かい?」
「だから違いますって!!この人は一応国賓なんですから」
「え!国賓!?このちんちくりんが??」
...あぁ。この人はリティーの母親だ。
発言を聞いていて、俺はひそかにそう思っていた、しかし、俺の顔ってそんなに冴えなかったり、ちんちくりんだったりするのだろうか?
考えていたら涙が出そうになってきた。
「へー、まぁなんにしてもリティーと仲良くなったんだ。悪い奴じゃなさそうだね。あの子は人を見る目だけはあるからね」
「あ、ありがとうございます...」
「ユウトはミリアの料理を食べて生還したのよ」
「なんだって!!!」
リティーの言葉にナリアさんはすごく驚いていた。するとナリアさんは俺の体をベタベタと触り始めた。
「大丈夫かい!どこかに変な出来物とか出来てないかい!」
「だ、大丈夫です!」
俺はナリアさんから逃れる。あのまま触られ続けたら色々とマズイ。まさかナリアさんまで、クリミリアの料理を知っているなんて、そうとうな事があったんだろうな...
「ナリアさんまで...」
自分の料理が目の前でさんざんな言われようだったのが、相当堪えたらしく、クリミリアは一人でちびちびと飲み物を飲んでいた。
「まぁ、ゆっくりしてっておくれよ。リティーももう騒がしくすんじゃないよ!」
「分かってるわよ!」
ナリアさんは、そう言い残すとお店の奥へと姿を消した。なんだかんだ、言っていたがリティーの家族はみんな仲が良いのだろうなと思いながら、俺は水を飲んでいた。
俺の家族は今となっては、仲が良かったのかも怪しくなってくるほど、バラバラになってしまった。
そういえば今頃心配しているだろうか、親父とおふくろはどうしているだろう。未来は、心配してくれているのだろうか...。
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