第66回にごたん参加 盆提灯

盆提灯(現代ドラマ短編)

第66回にごたん参加

お題:【アニメーション】【走馬燈】【トリック・オア・トリート】<かぼちゃ>

イベント「トリックオアトリート!!お菓子をくれなきゃ…?」参加用




 居酒屋「樽昌たるまさ」の主人である昌次まさじ72歳は弱り果てていた。


「ったく、はろいん、だあ?」


 孫娘の美樹が曾孫の梨里杏リリアン芽亜里メアリを連れてくるのは嬉しい。とはいえ、店を「はろいん」で飾り付けてくれと言われても、一体全体、何をどうしてどうやったものか。妻の松子に聞いても、「いやだよ、わかんないよ、アタシも」と言われて終わりだ。


「でもさ、なんか、アレだよ、あれ、あの、ほら、なんだか、テレビでなんだか、仮装してどうこうとかね、アレさ、アレ」


「アレじゃわかんねえんだよ」


 俺もボケてるが松子も大概だ。


「なんかね、若い子が魔女? そうだよ、アレさ、悪い魔女の、ホラ、とんがり帽子の」


「魔女がどうしたんだい」


「その格好すんのさ、魔女の」


「なんで」


「アタシに聞かれても知らないよ」


「ああ、わあった、わあった。魔女な」


「そうだよ、魔女だよ」


「じゃあ、ほうきでも置いときゃいいのか?」


「なんで箒なのさ」


「魔女ったら箒だろ。おめえもこの前テレビで見ただろ、なんだ、あの、漫画で魔法使いの女の子がパン屋で働いて荷物運んで」


「ああ……、ああ。アレ。アレ……、でも、なんで箒さ」


「箒にまたがって飛んでただろうが、なに見てたんだ」


「ああ……、それで箒」


「もういいよ。それで、他にはなんだ、なに飾りゃいいんだ」


「魔女なら、トンガリ帽子なんてどうさ」


「そんなのどこにあんだよ」


「昔アタシが被ってたでっかい帽子があるよ」


「あれは麦わら帽子だろ」


「似たようなもんじゃない」


「……、まあ、しょうがない。じゃ、帽子はそれだ。で、あとは」


「なんかね、提灯を飾るんだよ、そういえば。テレビで見たよ」


「提灯ってどんな」


「アレさ、ほら、あの、ホラ、盆提灯みたいな」


「おお、盆提灯か、それならどっかにあっただろ」


「どこにしまったかねえ。ずいぶん長いこと出してないから」


「納戸だろ」


「あ、盆提灯じゃないよ、違う違う。なんかぐるぐる廻る……」


「走馬灯?」


「違うわ、回らない」


「回るのか回らないのかどっちなんだよ」


「くり抜くのさ」


「くり抜く?」


「そう、なんか顔みたいにね、くり抜いて、中にろうそく立てるのさ」


「くり抜くって何を?」


「なんだったかねえ。冬瓜とうがんじゃないし……」


「食いもんか?」


「おっきいのさ」


「大きい」


「そうそう、それをね、ぶら下げて、子どもたちが」


「仮装して?」


「そうそう、そうだよ、そう」


「魔女の格好で?」


「そうそう」


「……、なんだかよくわかんねえが、わかった。魔女で提灯だな」


「そんな感じだわあ」


「おう。で、くり抜くのはなんだ?」


「……、西瓜すいか?」


「この時期、西瓜はねえだろ」


「メロンとかどうだい」


「あんで俺に聞くんだよ、知らねえよ」


「魔女だけじゃないわ、骸骨がいこつだわ」


「急になんだよ。今度は骸骨だあ?」


「骸骨がね、喋るのよ」


「はあ?」


「お化けがね。そうそう、魔女だけじゃなくてお化けの格好して歩くのよ」


「……、魔女だかお化けだかの格好して提灯持って歩くんだな?」


「そうそう、お父さん、さすがだわあ」


「おいおい……、で、骸骨は?」


「この前、ラーメンスープ作るって買ってきた豚骨あったじゃない」


「おお、そりゃいいな。本物は喜ぶだろ」


「ラーメンスープはいつ作るのさ」


「……、そのうちだ。で、お化けはどうする?」


「白い布でもぶら下げておくかい?」


「しゃああんめえ。お化けはそれでいくか。おい、で、提灯はどうすんだ」


「店の提灯で勘弁してもらうかい?」


「なんかくり抜くんじゃなかったのかよ」


「そうだけどさ」


「もういい。……、いや、待てよ……。そうだ!」


 昌次の目がキラリと光った。



 ◇ ◇ ◇ 



「トリック・オア・トリート!」


 双子の梨里杏と芽亜里が、声を揃えながら樽昌の立て付けの悪い戸を開ける。ふたりの目の前に、目鼻口をくり抜いた瓢箪ひょうたんをぶら下げた昌次が満面の笑みを浮かべて立っていた。



終わり



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