イベント「四〇〇字からの「人物描写」コンテスト」参加

さよなら世界(現代ドラマ短編)

 終電を待ちながらオレは考える。いいことなんてひとつもない。つまらない人生だ。早く終わりにした方がいい。


 テレビもネットも、もううんざりだ。どこかの誰かが楽しそうにメシを食ったり遊んだりしているのを見せつけられる。見なきゃいいのに、今も、指で画面を送り続けてしまう。


 部屋に帰ったところで、虚しさとともに、このまま目が覚めなければいいのにと願いながら浅い眠りに落ちるだけだ。夢は見ない。せめて空想の世界では幸せになりたいのに。


 明日、目が覚めてもクソッタレの世界は続いている。明日も仕事だ。仕事、やればやるほど不安になる。俺には無理だ。


 トンネルの暗闇から目玉のようなライトが近付いてくる。割れた声のアナウンスが聞こえる。まばらな人影がゆっくりと移動する。いつも見る光景。


 結局、世界はオレに何もできなかった。鼻で笑うしかない。世界はオレに対して無力だ。


 一方、このオレは、たった一歩踏み出すだけで世界を滅ぼすことができる。


 どう考えてもオレの勝ちだ。


 今、高まる全能感とともに。


 さよなら世界。



438文字

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