異世界?(『千の星』の3、現代ドラマ短編)
我が目を疑うという言葉がある。いくらなんでも大げさだろうと思っていた。真顔でそんなことを言うやつを見たことがない。もしいたとしたら、そんなはずあるわけないよね、と半笑いで言える自信がある。いや、あった。この瞬間までは。
まず最初に気がついたのはPVが四桁になるとカンマで区切られるということだ。見たことがなかったので知らなかった。
星は、問題の星は、爆発的に増えていた。
「なんじゃこりゃあ」
ひとりごとはなるべく言わないようにしている。部屋で気軽にひとりごとを言ってると会社でもしゃべってしまいそうだから。
にも関わらず、けっこうでかい声が出た。
「こ、これは」
何がどうなっているのかまったくわからない。
震える手で星をクリック。おすすめレビューを確認する。
なんだこれ。絶賛の嵐。どういうことだ。完結したやつはともかく連載中のものにもついてる。
いわく、「二十一世紀最高の傑作」「カクヨムはこの作品を生み出しただけで歴史に残る」「感動の涙で画面が見えない」「全米が泣いた」「村上○樹殺し」等々、中にはよくわからないものがあるが、おおむね絶賛だ。
しかも、画面をリロードする度にレビューと星は増えていく。それもゴンゴンと。
自分の見ている画面が信じられなかった。
本当だ。どうしても信じられない。ひょっとして自分は異世界に転生してしまったのではないか。昨夜、酔っ払って帰る途中でトラックにはねられたのかもしれない。
そうだ、きっとそうだ。
オレは頭を触ってみた。どこも痛くない。身体も痛くない。ただ、相変わらず二日酔いで気持ち悪い。
そうか、酔っ払いすぎて夢を見ているんだ。そうだ、これは夢だ。
昨夜、駅のホームで終電を見送った、気がする。違ったか。違うな。ちゃんと終電に乗った。乗ったよ、オレ。
ということは、これは本当の本当で、オレの書いた小説が爆発的に読まれて絶賛されてレビューが書かれて星がドカドカついているという、まぎれもない現実の出来事なのだ。
オレは泣いていたかもしれない。少なくとも震えてはいた。理由はわからない。オレはただ震えていた。
そして、体温計で測ると三十八度もあるではないか。これはいかん。身体が震えているのは感動ではなく間違いなくこのせいだ。気持ちが悪いのも二日酔いじゃなくてこれだ。風邪? もしかしてインフルエンザ?
オレはドライヤーで髪の毛を乾かした。寒気がする。悪寒も。吐き気がひどくなってきた。腹も痛い。
病院に行くべきか迷いながらオレはとりあえず布団に潜り込んだ。
そうそう、PCの画面は開いたままだ。もう少し落ち着いたらまた星の数を確認して今度こそちゃんと喜ぼう。自分で自分を褒めてやろう。
ただ、その前に寝ないとダメだ。
オレはめまいとともに寝た。
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