第4話 千歳とチカゲ

 「千歳ちゃん、逃げて来ちゃったけどどうしよう……」

 瑞来ちゃんが浅い呼吸を繰り返しながら呟いた。彼女の顔には不安の色が色濃く滲んでいる。

 私たちは酒屋から少し離れた場所にある公園にいた。先程自動販売機前でカラキさんに話しかけられ、驚きと恥ずかしさから逃げて来てしまったが、カラキさんとのやり取りを改めて思い出すと後悔しかない。

 私は浅い呼吸を整えてから、

 「そんなこと言っても……。明日また会うかもしれないし、その時に謝ろう」

 「そうだね。カラキさん優しそうだったし」

 「うん。じゃあ、帰ろうか」

 「千歳ちゃん、ごめんね」

 申し訳なさそうに、俯く瑞来ちゃんに「大丈夫だから」と笑顔を向ける。公園を出て、先程走ってきた道をいったん戻り、普段あまり使うことのない通りを使った。そのままいつもの通学路を目指して歩いていると、瑞来ちゃんが「そういえば」と、何か思い出したように呟いた。

 「千歳とチカゲってなんか似てない?」

 突然瑞来ちゃんがそんなことを言い出したので、私は驚いて振り返った。

 驚きつつも笑顔を作り、

 「似てないよ。一文字しか合ってないじゃん」

 「そうかなぁ」

 言いながら瑞来ちゃんは笑っている。

 瑞来ちゃんに家の近くの通りに出たところで、彼女とは分かれた。

 家に向かって歩いている間、カラキさんに話しかけられた時のことを思い出す。少しだけだったが話すことが出来た嬉しさとは別に、彼が近付いて来た時、微かに甘い香りがしていたのを思い出した。

 (あの香り何だろう? 今まで嗅いだことのない香りだったけど……。瑞来ちゃんは気付いていたかな)

 そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか自分の住んでいるアパートを通り過ぎてしまったことに気付き、慌てて戻った。

 アパートの階段を上がって右側に進むと、扉が四つ間隔を開けて並んでいる。そのまま手前から数えて、三つ目の扉の前で立ち止まると鍵穴にカギを差し込み回した。

 (お姉ちゃんに今日あったことを話してみよう)

 ガチャという鍵の開いた音を確認すると、私はドアノブに手をかけた。

 

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