第2話 カラキ チカゲ

 学校にはぎりぎりホームルームに間に合い、担任教師もまだ教室内にはいなかった。二人でほっと息を吐く。姉は間違いなく遅刻だろう。今頃生活指導の先生の注意を受けているかもしれない。

 クラス内には先程会った男の人の話題で盛り上がる女子生徒たちの声が聞こえた。


 給食を済ませると、私たちは教室の自分の席周辺で友達と集まり会話を始める。いつも通りの昼休みの過ごし方。

 「そういえば、今朝カラキさんに会ったよ」

 瑞来ちゃんが今朝見た男の人のことを話すと、一緒にいた沙織と直美が興味深々の表情に変わった。

 「二人ともカラキさんに会ったの? ねえ、何か話した?」

 「ううん、話は出来なかった。沙織のお姉さんと一緒だったし」

 「え? うちのお姉ちゃんと?」

 「うん、仲良さそうだったよ。楽しそうに話していたから。カラキさんて?」

 「千歳と瑞来が会った男の人、カラキさんて言うの。カラキ チカゲさん」

 あの人はカラキさんて言うのか、と一人で考えていると隣にいた瑞来ちゃんがいきなり、

 「ねえ沙織。お姉さんさ、カラキさんの写真持ってないかな?」

 聞かれた沙織は少し考えながら、

 「え~、どうだろう? 姉ちゃんからカラキさんと仲良いなんて話聞いたことないんだよなぁ。写真持ってるかな。一応聞いてみるけど」

 「ありがとう。よろしくね」

 瑞来ちゃんが礼を言った後、今度は一緒に話を聞いていた直美が、

 「二人とも良いなあ。私も見てみたかった。カラキさん、どんな感じの人だった? 噂だとかっこいいってよく聞くけど」

 皆の言う通りかかっこいい人で、穏やかそうに見えたと伝えた。

 「一度話してみたいんだけど、なかなか話しかけるきっかけがないんだよね。いつも誰かと話してるし」

 「え、そうなの?」

 「うん。今朝見た沙織のお姉さんとか近所の奥さんとか」

 その時、午後の授業を知らせるチャイムが鳴った。その音とともに教室にいたクラスメイトたちが慌ただしく自分の席に戻っていく。

 「私たちも戻るね」と言うと、沙織と直美も自分の蹟へと移動し、瑞来ちゃんも私の後ろにある自分の席に着いた。

 チャイムが鳴り終わり、少ししてから社会科の担当教師が教室に入って来た。

 「続きは部活でね」

 瑞来ちゃんの囁く声に頷くと、私は前に向き直った。

 

 

 

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