麗魔(れいま)
野沢 響
第1話 出会い
「
私が通学路を歩いていると、後ろから瑞来ちゃんが追いかけて来た。
「
私たちは普段通りの挨拶を交わす。
瑞来ちゃんとは幼稚園からの頃からの仲で、中学生となった今でも一番の仲の良い友達だ。
一緒に登校するようになったのも、どちらが言い出したわけではなく、自然な流れで一緒に登校するようになった。
「ねえ、朝のニュース見た?」
瑞来ちゃんにいきなり訊ねられ、
「うん、見たよ。隣町で猪が畑のトウモロコシ畑を荒らしたんでしょ?」
私は朝、見たニュースの仲で印象に残っていたものを答えたのだが、瑞来ちゃんは少し困った顔をしていた。自分が予想していた答えと違っていたらしく、首を横に振って言った。
「違うよ。そのニュースじゃなくて、女子大生が行方不明になっているニュースだよ。なんか、目撃情報がないみたいで操作が進んでないらしいよ。最近多くない? この前も、女子高校生いなくなったってやってたよね」
「行方不明? そんなのニュースでやってたっけ?
私は少しの間考える。今朝見たニュースをもう一度思い出してみたが、彼女が口にした事件は報道していなかったように思う。
そのまま考え続けていると、今度は瑞来ちゃんとは別の声が私の名前を呼んだ。低音のややハスキーな声。その声のした方を振り返ると、姉がこちらに向かって自転車を漕いでいる姿が見えた。
「お姉ちゃん、この時間に家出て来て学校間に合うの?」
呆れたように尋ねる私を無視して、瑞来ちゃんに向かって「おはよう」と満面の笑みで挨拶をする。
姉と私は三つ違いで、姉は高校二年生、私(と瑞来ちゃん)は中学二年生。住んでいるアパートを出たのが、七時五十五分。私たちが通う中学校は徒歩十五分程度のの距離にあるので、この時間に歩いていてもまだ間に合うのだが、姉の通う高校は自転車を走らせても更に二十分はかかる場所にある。
「急げば間に合うだろ」と姉は言うけれど、急がないと間に合わない。もしくは遅刻だ。
(一昨日は遅刻してたような……)
そんなことを思い出していると、いきなり瑞来ちゃんが声をあげた。
「千歳ちゃん、あの人だよ! この前話した人」
興奮気味にそう話す瑞来ちゃんの視線の先には、若い男の人の姿があった。背の高い綺麗な顔立ちの男の人だった。その人は、大学生らしい女の人と話しており、時々笑いあっている。
肌が白く、はっきりとした目鼻立ちをしている。黒い髪が笑う度に揺れる。横顔しか見えなかったが、それでも十分整った顔をしているのが分かる。
男の人は一緒にいる女の人の話を笑顔で聞いては言葉を返し、二人で笑いあっている。理想的な関係に見えた。自分もあんな風に男の人との関係を持てたら、と思わせるような、そんな理想的な男女の付き合い方だ。
距離があったため、会話までは聞き取れなかった。男の人の様子を見ていたけれど、とても穏やかで、優しそうな好青年の印象を受けた。
私が黙って見惚れていると、瑞来ちゃんが、
「一カ月くらい前に引っ越して来たんだって。近所で有名みたいだよ。モデルさんみたいだって。実際話したことのある人は愛想の良い明るい人だって言ってた」
それはそうだろうな、と私は思う。感じの良さそうな人柄も遠くから見ても分かる。それにモデルと言われれば、そのまま信じてしまいそうだ。
学生か社会人なのかは分からないけれど。
「隣の女の人、沙織のお姉さんだよね? じゃあ、あの人も大学生なのかな」
瑞来ちゃんが呟いた後、ふいに姉が思い出したように声をあげた。
「ああ、沙耶が言ってたのってあの人のことか」
「高校でも有名なの?」
「沙耶とクラスの女子が話してたの聞いた」
姉はまるで興味がないとでもいうようにぶっきらぼうに答えた。ちなみに、沙耶さんというのは姉の高校の友人だ。クラスも同じだという。
「ねえ、沙織のお姉さんとあの人って付き合ってったりするのかな?」
そう疑問を口にした瑞来ちゃんの顔は不安げだ。
「それは本人に聞かないと何とも……」
「ただの友達同士だろ。あっ、まずい! あたし、行くわ。瑞来ちゃん、千歳、またね」
軽く手を挙げると、自転車を猛スピードで走らせて行ってしまった。
「瑞来ちゃん、私たちも行こう」
私がそう声をかけると、
「うん。そうだね」
返事は返ってきたが、瑞来ちゃんはどこか上の空だった。
二人で走り出す。すれ違う際、男の人に目をやると、思わず視線が合ってしまった。通り過ぎる寸前、その人がこちらに向かって微笑むのが視界に入った。
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