097

「カモン! 来て来て! バトルの対戦相手……寿、三十郎くん!」


 俺はテレビ収録の観覧に来た観客のような気分になっていて、まさか自分が呼ばれているとは思わなかった。

 リンとリッコに両側から肘で突かれて「えっ、俺?」となっているところを突き出されてしまう。


 気が進まなかったが、これがハーレム同好会の開設に必要な勝負というのであればしょうがない。


 我ながら素人丸出しな及び腰でステージにあがり、DJに近づいていく。

 外から観ているときには気が付かなかったが、ライトがかなり強くてまぶしい。


 フクオの隣に座ろうとしたが、


「あっ、こっちじゃないよ、三十郎くんは左のソファに座って。

 座ったら、シートベルトをしてね」


「あっ、そ、そっすか……す、すいません……」


 手のひらで空いているほうのソファに促され、俺は頭を下げながら移動した。

 気まずい思いイッパイでソファに腰かける。……なんでこんなにヘコヘコしてんだ。


 そういえばシートベルトをするように言われてたな、と探してみると、自動車の後部座席のシートベルトみたいなのがあったので腰に回す。

 バックルを止めていると、足元に小さな液晶モニターがあるのに気づいた。


 自分がどう映っているか、確認するためのもののようだ。

 モニターの中には見慣れた『チュブチュブ動画』のウインドウがあって、俺とDJフクちゃんがそれぞれ映っている。


 画面上を横断するコメントもリアルタイムのようで、


『8888888』


『三十郎キター!』


『三十郎www 時代劇かよwww』


『ぶっさwww』


『なんか昆虫とか好きそう』


『お、おう……』


 などと、好き勝手な言い草がつらつらと流れている。

 俺の姿が、今まさにネットで晒されてるのか……!


 会ったこともないヤツにあーだーこーだ言われて、ちょっとムカついたが、相手が世界規模だと思うと急に緊張した。

 自然と脚を揃えた座り方になってしまった俺を、クスッと笑うフクオ。


「ふふっ、三十郎くんはお上がり様のようだね! これは楽勝かな?

 勝負はリスナーのみんなの投票によって決まるよ!

 これからDJフクちゃんと三十郎くんの配信を見て、どっちかに投票してね!

 先に1万票入ったほうが勝ち!

 勝負が決まった瞬間、敗者のソファーが外に射出されて、プールにドッポンする様が見れるよ!」


 モニターの動画ウインドウの隅に、現在の投票数が表示されていた。

 俺はゼロ票だが、フクオにはすでに200票ほど入っている。


「配信はなにをやってもいいけど、相手に触れるのだけはナシ! その時点で反則負けになっちゃうよ!

 あ、それと……制限時間があって、4時間のうちに勝負がつかないと、引き分け!

 今から4時間たったらソファはふたつとも自動的に射出されちゃうから、ふたりともプールにドッポンってわけ!

 だから、夕方までに1万票をとらなくちゃいけないってことだね!」


 俺はモニターにある時計を確認した。いまちょうど午後2時だ。

 ってことは……タイムリミットは午後6時までってことか。長いな。


「けっこう長丁場になるかもしれないから、リスナーのみんなにお願いがあるんだ!

 最後まで観てほしいとは思うんだけど、途中で視聴をやめたくなったら、投票してからやめるようにしてね!

 投票してくれたリスナーには、いつもの恵比寿家具のデスクチェアを抽選でプレゼントするよ!

 ちなみにDJフクちゃんに投票しないと無効だから、注意してね!」


 ……流されるまま勝負のテーブルに着いちまったが、なんかこの勝負、始まる前から俺のほうが圧倒的不利じゃねぇか?


 生配信バトルはいいけど、客はぜんぶコイツのリスナーだ。

 投票したらプレゼントやるとか言ってるし。

 それを証拠に、始まる前にもう200票も差がついてやがる。


「じゃあ三十郎くん、準備はいいかい? 恐怖の生配信バトル、スタートだっ!」


 しかも、俺が考えてる間に勝手にスタートしやがった……!


 俺はどうしていいかわからず、ひとまず敵の出方を見ることにした。

 DJなんて名乗ってるから、サウンドプレイでもやるのかと思ったが……1本のゲームソフトを取り出している。


「今日取り上げるのはなんとなんと!

 『ファイナルメンテナンス・イン・マッピルアリーナ』!

 来週発売の最新ゲームソフトです! 今日のためにフラゲしてきちゃいました!」


 俺はシートベルトに縛られた身体を、なにっ!? と乗り出させる。


 『ファイナルメンテナンス・イン・マッピルアリーナ』は、『ファイナルメンテナンス』のキャラが総登場する3D対戦格闘ゲームだ。

 初回特典で、スペシャルコスチュームが使えるアイテムコードが入っている。


 特典のコスチュームが超セクシーで、ネトゲ版でも使えるんだ。

 そうなると、俺が欲しがらないわけがない。


 発売日に絶対にゲットしようと、ネット通販で予約済み……!

 でも、なんでコイツは、発売の1週間前に持ってるんだ……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る