092
お……終わったか!? と思ったが、リンは素早いヘッドスプリングで起き上がった。
「……ま……まだまだっ……!」
歯をくいしばり、なおも構えをとる。
しかしダメージは甚大だったようで、フラフラだ。
真っ白だったブラウスは、文字どおり暴行を受けた後のように汚れている。
「そうこなくてはな……まだ肉料理が残っている」
リッコは屈伸をするよに、しゃがみから立ち上がると、軽やかなステップを踏む。
「あんなクズ肉とは違う……最高級の肉がな……!」
「あんなクズ肉」のところで一瞥され、俺は総毛立つ思いがした。
だ……ダメだ! このまま戦わせるわけにはいかねぇ!
立っているものやっとのリンと、ノーダメージのリッコ。
もう勝負は決まったようなもんじゃねぇか……!
俺はまだいい。
何をされたところでスクールカースト最下位だから、扱いの悪いさはたいして変わらねぇ。
でもリンは……アイツは違う。勇気を振り絞って女になったんだ。
今はうまいことやってるようだが、危ういバランスの上に成り立っているのは間違いねぇ。
アイツはいつも元気いっぱいで、へこたれないように見えるけど……本当は繊細なんだ。
ガキの頃からの付き合いで、知ってる……!
俺みたいに惨めな思いに耐えられるヤツじゃねぇっ……!
「お、おい、リン! もうやめろ!
コイツはとんでもねぇサディストだ! 何されるかわからねぇ!
俺なんて、フルチンにされちまったんだぞ! 取り返しがつかなくなる前に逃げろ!」
しかし、リンは俺の言葉を振り払うかのように、頭をブンブンと左右に振った。
「ぼ……ボクは……絶対に逃げない!
小学生のころ、ボクがピンチのとき……いつも三十郎が駆けつけてくれて、助けてくれたよね……だから今度はボクが、三十郎を助けるんだっ!」
いじめっ子に反旗を翻したような面持ちのリン。自分を鼓舞するように叫ぶ。
「引っ込み思案だったボクのことを、相棒だって言って一緒に遊んでくれたよね……。
手を引っ張って、遊びの輪に入れてくれたよね……。
強引だったけど、それがボク、すっごく嬉しかった……。
だからボクは、強くなって……本当の意味で、三十郎を助ける相棒になりたかったんだ!」
俺は絶句した。リンがそんな想いでいただなんて……!
こうなったら、フルチン姿を全校生徒に見られようが、世界配信されようが、構わねえ……!
リンを助太刀するぞ……どんな汚ねぇ手を使ってでも……アイツをブッ倒す……!!
俺は不死鳥のように立ち上がろうとしたが……バッ、と手で止められちまった。
「三十郎は手を出さないで!
これは、ボクの戦い……! ボクがひとりでやらなくちゃ、意味がないんだ!
さあこいっ! ボクは負けないぞぉ!
ボクの願いを叶えてくれた三十郎の願いを、今度はボクが叶えるんだっ!
三十郎のハーレムを、作る……! 絶対にハーレムを作るんだっ!」
……俺の頭には、テュリスの言葉がこだましていた。
『ホンモノの恋愛っちゅうのはな、相手と一緒になにかを成し遂げて、相手と一緒に歩いて行くということなんや』
これが……これが……もしかして……恋……愛……!?
ひたすら燃え上がるリン。恋愛の片鱗を垣間見た俺。
リッコはため息とともに、呆れたように肩を上下させていた。
「ああ……やれやれ……華一はかなりの重症のようだな……!
三十郎というクズ肉のハーレムの妄想に、等しく取り憑かれている……!
ならん! ならんぞぉ! ボクっ子は、性に臆病でならなくてはならぬ……!
『ボク、男の子だよ? それでもいいの?』の精神を、失ってはならぬのだ……!」
……コイツ、何言うてんの? せっかくいいところだったのに、台無しやん……!
つい、テュリスのマネをしちまった。
「もはや、物理的に去勢してやるしかなさそうだ……!
リー先生直伝の踏みつけで、股間を踏み抜いてやる……!
名実ともに、女子部へようこそ……!」
気丈に構えていたリンだったが、これにはさすがに身体をブルッと震わせていた。
しかし……二度の戦いを通じて、だいぶ敵のことが理解できたような気がする。
間違いなく言えるのは……ヤツはかなり、入り組んだ性癖をしているということ……!
女装男子であるリンに入れ込んでいるうえに、俺を脱がしたときの女みたいな反応に喜んだ……!
とんでもない変態……! とんでもないどS……!
そして……女みたいな男好き……!?
俺は、萎縮してしまったリンを勇気づけるために声をかける。
戦いのなかで俺が見出した、一発逆転の秘策を伝えるために……!
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