第二章 名前

「何にしましょう?」

席に着くなりそう聞かれた。

「んーじゃあセイントジェームズお願いします。」甘めのものの方が好きだが今日は辛めのものを飲みたい気分だ。

「ストレートで?」

「はい」

そういうとマスターは慣れた手つきで入れてすぐに出してくれた。

出されたグラスの足を掴み口に運び一口飲んだ。

少し喉が焼かれる感覚と口の中に広がる強めの香りを楽しんでるとふいに

「いきなりストレートなんてお強いんですね」と言われた。

返事を待たずして彼女はグラスに残っていたものを飲み干し「ごちそうさま」と言い席を立った。

彼女がドアの取っ手に手をかけたとき

誰かが「お名前聞いていいですか!」と叫んだ。

僕だった。

彼女はさっきまで飲んでいたグラスをチラッとみて「キャロルです」と答えて店を後にした。

「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」

マスターは今のやりとりを見て今にも吹き出しそうになっていた。

「違う違う、キャロルってさっきの女性が飲んでたカクテルの名前だよ」

そう言ったマスターは耐えきれなくなったのか腹を抱えて笑い始めた。

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