絵をかく少女

天満

絵をかく少女

ある小さな町に、美しい少女がいました。

少女は絵をかくことがとてもとても好きでした。


ある日のことです。不思議なことがおこりました。

少女がカンバスにかいたことりが、絵から飛び出して空へ逃げてしまったのです。

この話はすぐに町じゅうに広まりました。


「話はほんとうなのだろうか」

町中の人が少女の家の前に集ってきました。

「ほんとうだ」「うそだ」「ほんとうだ」「うそにきまっている」

声はだんだん大きくなり、けんかがはじまってしまいました。


少女はとても悲しくなりました。

「どうすれば、けんかをとめられるのかしら」

考えて、考えて、そして。

町中の人の前で、少女は一枚の絵をかきました。

それは、七色にかがやく、とてもきれいな花でした。

花はカンバスの中で次から次へと咲き、やがてカンバスから溢れ出しました。


けんかをしていた人たちは、いつのまにかけんかをやめていました。

花がほんとうにほんとうにきれいだったからです。

小さな町はあっというまに花でいっぱいになりました。

そして、笑顔でいっぱいになりました。


「もっともっと、みんなを笑顔にできないかしら」

少女はかんがえました。

「おなかをへらしている人には、やわらかいパンを。

さむくてふるえている人には、あたたかい服を」

少女は、貧しい人のために絵をかくようになりました。

お金のある人は、少女のために絵をかく道具をもってくるようになりました。

お金のない人は、少女のほどこしに元気をもらい、がんばれるようになりました。



話は広まり、ついに王様の耳にとどきました。

ほしいものはなんでもほしがる王様です。

みんなが大好きな少女のところへ、みんなが大嫌いな王様がやってきました。

きらきらしたふくをきた王様は、ふんぞりかえって少女に言いました。

「宝石をたくさんかけ」

「できません」

「黄金をたくさんかけ」

「できません」

「なぜできないのだ」

「わたしは、貧しい人のためにしか、絵をかきません」

王様はひどくおこりました。

「わしの言うことがきけないのか。

その娘をつれていけ」

町中の人が王様をとめようとしました。

王様はけらいに命令しました。

「わしにさからうやつは、みんなつかまえろ。」


笑顔でいっぱいだった町の人たちが、王様につかまるなんて。少女は王様にたのみました。

「わたしは王様についていきます。だから、町の人をつかまえるのはやめてください」

少女がついてくるとわかって、王様は嬉しくなりました。

町の人のことなどすっかりわすれて、王様は少女をつれて町からさっていきました。


お城に帰った王様は、城の中の高い塔に少女をとじこめました。

「さあ、わしのために絵をかくのだ。

そうだな、まずは宝石がいい」

「わかりました」

少女は王様の前で絵をかきはじめました。

大きな大きな、山の絵です。山は、水晶でできていました。

「おお、これはすごい。いつできあがるのだ」

わくわくしながら、王様がききました。少女はこたえました。

「王様、絵の具があればもっとはやくできあがります。たくさんの絵の具をもってきてくれませんか」

「よし、わかった」

はやく水晶の山をてにいれたい王様は、けらいに絵の具をもってくるよう命令しました。

けらいはすぐに、たくさんの絵の具をもってきました。

「王様、まだたりません」

「どのくらいあればいいのだ」

「もっとたくさんです」

王様は、またけらいに命令しました。けらいはすぐに、もっとたくさんの絵の具をもってきました。

「王様、まだたりません」

「どのくらいあればいいのだ」

「もっともっとたくさんです」

「よし、わかった。わしも絵の具をとりにいこう」

まちきれない王様は、ついにけらいといっしょに、もっともっとたくさんの絵の具をとりにいくことにしました。


高い塔から王様と王様のけらいがいなくなると、少女はかいていた水晶の山の絵をいそいでかきあげました。そして、窓から下へえいっとなげました。

水晶の山はすぐにほんものの山になりました。山はどんどん大きくなり、少女のいる高い塔のまわりは谷になりました。高い塔からみえていた王様のすがたが、どんどん遠くなっていきます。あっというまに、高い塔のまわりは、だれもはいってこられないような山奥になりました。


山奥にとりのこされてしまった王様は、もう少女に絵をかかせるどころではありませんでした。つまづいて、ころんで、ぼろぼろになりながら、やっとのことで山から出ることができました。

こうして、少女は王様をこらしめることができたのでした。

けれども、冷たい水晶にかこまれた、山奥の高い塔の中で、少女はひとりぼっちになってしまいました。


「わたしが絵をかかなければ、こんなことにはならなかったのに」

少女はすわりこんで、しくしくとなき出してしまいました。

涙は石の床までながれ、小さなみずたまりをつくりました。


と、とつぜん、キィキィというこえがきこえてきました。

「あんたのせいじゃないさ。あんたはいままで、たくさんのひとをたすけてきたじゃないか」

びっくりして、少女はききかえしました。

「あなたは、だれ?」

「ねずみさ」

なんと、ねずみのかたちをしたみずたまりが、床からとび出したのでした。

「かんたんさ。あんたがいままでしてきたように、じぶんでじぶんをたすけたらいい」

たかいとうにはたくさんの絵の具がありました。

「そうとも。たいせつなのは、つかいかたをまちがえないことさ。あんたはよくわかっているだろう」

なみだがかわいて、ねずみはきえていきました。

「ありがとう、ねずみさん」

ほほにのこっていた涙をふいて、少女はたちあがりました。


「ちいさなだんろを、ひとつだけ。」

だんろの絵がかきあがると、くらくてじめじめしていた塔の中が、ぱっとあかるく、あたたかくなりました。


だんろのあかりの中、少女はもういちまい、絵をかきはじめました。

剣と盾をもった、騎士の絵でした。

「みんなをまもってくれる、騎士といっしょに、町へかえるのよ」

高い塔にはたくさんの絵の具がありました。

「大きな、強そうな剣がいいわ。それと、炎にもまけない盾」



絵がかきあがったとき、騎士は少女を高い塔から助けだしてくれることでしょう。

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絵をかく少女 天満 @10asahi

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