第三十八章 決・着
二重螺旋の虹光(ひかり)
「時緒くんの精神波……限界値を突破。思念虹…発現しました……!」
モニターを睨みながらの芽依子の報告に、時緒の覚醒に喜ぶ者は、此処イナワシロ特防隊基地の会議室には誰一人として存在しなかった。
真理子は勿論、牧も、卦院も、嘉男も、キャスリンも。
無論、芽依子もーー。
強力だが、危険過ぎるからだ。
会議室の液晶大画面テレビに観測ドローンが捉えた映像が映る。
雨風荒れ狂う闇夜の中、虹色に輝くエクスレイガの姿があった。
「綺麗……」
時緒の予備パイロットスーツを修繕していた薫が、光に酔わされて呟く。
「 綺麗だけど……なんか…… 」
徐々に、エクスレイガの異様に形容し難い寒気を覚えた薫は、最初は夫の嘉男、次に芽依子、そして真理子と麻生に不安色の目を向けた。
「時緒君は大丈夫なんですか…?」
「大丈夫なもんか……」真理子は小さく唸った。
「だがよ…、これしか手が無ぇ…!」
自分達に出来るのは、この戦いを見守ることのみ。
いやーー。
「待ちましょう」
きっぱりと言い切って、真理子達の視線の中、芽依子は思い切り立ち上がる。
その琥珀色の瞳の中に不安を懸命に押し込んで、何処までも真っ直ぐな眼差しで。
「待ちましょう……待ちます!」
芽依子は大股で会議室のドアを開ける。
「何処行くんだ?」
真理子の問いに芽依子は強気に笑った。
「お台所です!時緒くんの好きな物作って待つんです!」
芽依子の答えに、真理子達は思わず苦笑ってしまう。
この娘は、お前が一番不安だろうに……。
それでも。それでも。己を押し殺し時緒を信じ切って見せるか。
「そうだな…!」真理子はぱちりと指を鳴らした。
「よっしゃ……作るか!肉じゃがに唐揚げにカルボナーラに麻婆豆腐!時緒の好きな奴全部よォ!! 」
大手を振る真理子に、芽依子は全力で頷いて見せる。
これが、自分の、時緒の為の、最大最良の使命なのだと信じてーー。
****
【バスターユニット
焼け付いて蒸気を放つ砲身と、空になったミサイルパックが、重い衝突音を伴って駐車場のアスファルトへと落ちた。
【 ルリアリウム・ブレード
身軽な
「…………」
『う……ぎゅ……』
キャンプ場一区画を隔てて、エクスレイガはヴィールツァンドと睨み合う。
互いに、その躯体を、人智を超えた虹の輝きを纏わせてーー。
『トキオ…!』
ガルズヴェードの掌がエクスレイガの肩に触れた。
シーヴァンの表層心理が、澄み切った時緒の中へと流れてくる。
ティセリアを思っている。
そして、時緒自身のことも心配してくれている。
時緒は、とても嬉しく思った。
「……シーヴァンさん達は、あの周りの浮遊砲台をお願いします……!」
『……!ああ…分かった…!』
そして。
エクスレイガもふわりと飛び立ち、ブレードを霞の型に構えると、ヴィールツァンドと目線を合わせる。
対するヴィールツァンドも、尾を総てユニット……〈プァルカム〉へと変形、自身の周囲へ待機させ、エクスレイガを睨め付けた。
ハロゥを背負って、二騎は空中で対峙する。
戦闘態勢のまま、微動だにしない。
時緒とティセリア、
………………。
…………。
……。
一瞬。
ほんの一瞬。
風雨が微かに和らいだ、その瞬間ーー。
輝く二騎の巨人の姿が消えーー
二条の閃光と化してぶつかり合った!
視認出来ない超音速の疾さで衝突した巨体と巨体!その衝撃波は周囲の気圧すら弾いて吹き飛ばし、戦場となっていた天神浜キャンプ場を一時的な無風状態にする!
克ち合うエクスレイガのブレードとヴィールツァンドの手刀!相反する二つのエネルギーが空気中で激しく衝突した!それらは相殺されることなくまざくり合い、虹色の稲妻となって双方の装甲を灼いた!
「威いいあああああああああっ!!」
『ぅぎいいいいいいいいいいいっ!!!! 』
二騎の剣戟は終わらない!
一旦距離を取り、再び激突!
距離を取り、激突!
激突!激突!激突!一撃!二撃!三撃!四!五!六!七、八、九、十!!
甲高い衝突音が連続し、共に放たれる虹色の稲妻が猪苗代の暗雲を、暴風に揺れる大地を照らし、震撼させる!
『ぎぃっ!』
刹那の隙を突いて、ヴィールツァンドがエクスレイガのブレードを蹴り上げた!
ブレードが
「なんのっ…!!」
手隙となったエクスレイガは……時緒は臆すること無く!瞬時に徒手空拳の戦闘スタイルへと切り替えて、ヴィールツァンドの懐へと鋼の拳を、鋼の脚を叩き込む!
パンチの連撃からの回し蹴り!更に疾く!もっと疾く!
やがて、蹴り上げられたブレードが落ちて来る。エクスレイガはブレードを逆手で掴み取り、これまでの攻撃に新たな斬撃を織り交ぜた!
鋼と鋼が克ち合い、エクスレイガとヴィールツァンドとの間に相殺されたルリアリウム・エネルギーが幾重ものリング状の稲光となって弾け飛ぶ!
『これが…
『総てを…超越している…ッ!?』
『シーヴァン!カウナ!余所見厳禁!!』
『『むっ!!』』
プァルカムが群れを成して襲い来る!その情け容赦の無い斬撃と砲撃の波状攻撃を斬り払いながら、シーヴァン、カウナ、ラヴィーはエクスレイガを見守った。
" ティセリア様を助けてほしい! "
ただ、その願いだけを胸の中に満たしてーー。
****
「よっしゃああ!肉じゃが上がりぃ!!」
基地の台所は、ガスコンロの熱と、真理子や芽依子達の熱気で蒸し風呂状態だった。
「おばさま!唐揚げ揚げます!?」
「まだだ!時緒達が帰って来てからで良い!揚げたてを食わせてやりたい!!」
「真理子さん!牧さんと卦院さんが耐えられなくて酒盛り始めちゃいました!」
「真理子先輩!整備班が摘み食いしてますよ!!」
「アイツらァ!!」
荒ぶりながらスモークサーモンをスライスする真理子の傍ら。
芽依子は山のようなカルボナーラパスタが煮立つフライパンを振る!
玉のような汗を流し。
芽依子は、時緒が……時緒達が帰って来ることを、必死に願い続けた。
****
「 くっそおおおあ!! 」
時緒の、己に対する悪態を迸らせて、エクスレイガは猪苗代の地へと着地する。
その装甲は、所々が灼け爛れ溶けていた。
『トキオ!?無事か!?』
いの先にエクスレイガに駆け付けたのはカウナの駆るゼールヴェイアだった。見れば、ゼールヴェイアはエクスレイガよりも損傷が激しく、右腕部はプァルカムの光刃によって完全に斬り落とされていた。
「大丈夫です!ただ…!」
『ただ…何だ!?』
「攻撃が届かない…!」
口惜しく眉を潜め、時緒は浮遊するヴィールツァンドを睨め上げる。
『うぎ…うぎ…えく…えくしゅ…えく…』
ヴィールツァンドも、躯体のあちこちにエクスレイガのブレードによる裂傷が見受けられる。
『思念虹の…超エネルギーを纏った…鉄壁のヴィールツァンドに傷を…!?』
時緒の偉業にカウナは驚愕した。
だが、当の時緒は虚しく首を振る。
「駄目だ…!真芯を抉るには…コクピットのティセリアちゃんを助けるには…まだ浅い!あと…あと一歩…!」
『そうであるのか!?我にはさっぱり……』
「早く…早く助けないと…ティセリアちゃんの精神力が…!僕も…!」
先程から重くなる頭痛を時緒は懸命に堪えた。視界が霞む。精神力が枯渇しかけている……!
『た…たお…えく…えくしゅ…れ…れ…』
ヴィールツァンドも様子がおかしい。
無理もない。
ティセリアは時緒よりも長くヴィールツァンドを動かしている。いつ精神力切れを起こしても不思議ではない!
「な、何か…何か手は…!?」
焦る気持ちを懸命に抑え、時緒は考える。
有効な、この状況を打破出来得る手段ーー!
「……あれ?」
その時。
コクピットディスプレイの下から、掌サイズのカードが滑り落ちた。
「これは……!」
そのカードを拾い、時緒は思い出す。
カードは何時ぞや、椎名邸から出て来た(追い出された)正体不明の大男から貰った物だ。
あの時は、母真理子が酷く御立腹だったので言い出すことが出来ず、エクスレイガのコクピットディスプレイ下の隙間にずっと隠していたのだが……。
(トキオ!ギリギリまで頑張って…ギリギリまで踏ん張って…それでもどうしようもない時…!その時はこのカードを使いなさい!)
あの大男は言っていた。
どうしようもない時。
それは……まさしく……今……!
「カード……セット!!」
大男の言葉を信じることにした時緒は、即座にディスプレイ横のスリットにカードを挿入した。
【接続システム起動 承認音声コードを入力して下さい】
ディスプレイに浮かぶメッセージに従い、時緒は叫ぶ。
残る力の限り、願いを込めてーー!
「招来……ッ!【ルリアリウム・カリバー】!!」
****
同時刻ーー。
地球、衛星軌道上の全ての監視衛星、ステーションが、月の裏から超高速で飛翔する謎の物体を映像として捕捉した。
地球に向けて翔ぶ物体の、その形状はーー。
鳳凰の羽のような金色の
全長およそ二十メートルの、巨大な
続く
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