ルリアリウム・カリバー




義父オヤジッ!?第七格納宮が勝手に開いて……!ナンカ勝手に飛んでったけど!?』



 立体映像として投影された義娘むすめのスァーレに、ゴルドーは己の肉球に美肌オイルを塗り、丁寧に手入れをしながら半ば投げやりな口調で応答した。



「良い……、知っている」

『知ってる!?』

「ああ、問題無い。だからお前はニアル・ヴィールの修復作業を急げ」



 納得がいかない、といった顔をしながらも、スァーレは『了解レーゲン……』と返事して、映像は消えた。


 月の裏側、第一皇女メイアリア専用航宙城塞【 ニアル・スファル 】内に在る書斎にて、ゴルドーはふんすと鼻を鳴らす。



「……どいつもこいつも、戦争を何だと思っているのだ……親バカな弟子どもめ」



 惑星キーヅ産の高級煙草に火を付け、美味そうに紫煙をくゆらせながら、ゴルドーは独り愚痴る。


 しかし、その口元は、僅かながら笑みの形に歪んでいた。



「あの小童が……カリバーを持つとは……」



 全長五十センチメートルの直立した齧歯類めいたプリティーな外見ながら、ダンディズム溢れる渋い声色で、ゴルドーはしみじみと独語する……。



「上手く戦ってみせろよ……マリィの倅……!」





 ****





 まるで、神話の具現だーー。



 明鏡の如く澄み切った思考の中、時緒はまるで他人事のようにそう思いながら、コクピットスクリーンに映る天を仰いだ。



 眩い光が……。


 こんな、台風の夜に有り得ない筈の強烈な光が、時緒の視界を眩ませた。



 猪苗代を覆う低気圧の塊を割り裂いて舞い降りる、金色の十字架が一つ。


 剣だった。


 エクスレイガの全長よりも一回り大きなーー巨大なーー両刃の実体剣だった。


 不死鳥の羽根めいた装飾を鍔に持つその剣は、エクスレイガの目前にまで降下すると、空中で浮遊したまま静止する。


 淀みの無い刀身が、己の発する粒子光に燦然と煌めいていた……。



「これが……?」



 ルリアリウム・カリバー……?


 この剣は一体?エクスレイガと同様に真理子が作ったものなのか?ならば何故空から降りて来たのか。


 分からないが、今の時緒には……臨駆士リアゼイターとして覚醒した時緒には、確かに感じた。


 このカリバーから……大きくて優しくて暖かい……真理子と似ているようで違う、精神力の残滓が伝わってくる。



「……考えるよりも行動だね……!」



 この剣を使ってティセリアを助ける!


 時緒はエクスレイガを操作し、そのマニピュレータでカリバーの束を握り締めた!



 「あっ!?」



 途端、カリバーの束中央に飾られた六角形の宝玉が、時緒のルリアリウムと同じ輝きをーー虹色の輝きを放つ。



「これが……!?」



 輝きだけではない。


 その明滅も、時緒のルリアリウムと、いや、時緒そのものの鼓動と、完全に同調している。



「……!!」



 時緒はルリアリウムを通じて感じた。


 ルリアリウム・カリバーが持つ、凄まじい性能パワー


 エクスレイガはカリバーを両手で握り直し、勢いのままにその巨剣を振り回した。


 まるで使い古した木刀のようにカリバーはエクスレイガに、時緒に馴染んでいた。


 その上、カリバーはその巨体にも関わらず、持っていることも忘れる程に軽い。


 大雑把にも見える巨大な刃が、鮮やかに空気を斬断し、粒子光がその美麗な軌跡を描く!


 時緒の気迫が光となって、猪苗代を照らす!



「もう一回……征くぞ!ティセリアちゃん!!」

『うぎ……ぎ……ぎ……!?』



 エクスレイガはカリバーの切っ先をヴィールツァンドに向ける。


 カリバーの輝きに当てられたヴィールツァンドが、狼狽えたように空中を後ずさった。


 ガルズヴェード達に攻撃を掛けていた欠片プァルカムを呼び戻し、自身を守護するように、周囲に円陣を形成する。



『え……えくしゅれいがああああ!!』



 次の瞬間、全ての欠片プァルカムが一斉に、エクスレイガ目掛けて粒子ビームを放った。


 強襲する光の槍雨!



 しかし。


 エクスレイガは回避行動へは移らず……ゆっくりと翳したカリバーの煌めく刀身でーー


 ビームを、反射ぎ払った!



『ぅぎっ!?』



 反射されたビームは其々別の放物線を描いて次々にヴィールツァンドへと降り注ぎ、その装甲を灼いていく。



『うぎいぃっ!?』



 自身の攻撃をそのまま受けて、ヴィールツァンドは大きく仰け反る。砕けた装甲の一部が猪苗代の荒れ狂う空に火花となって溶けた。



「今だっ!」



 カリバーの刀身で大地を叩き、その反動でエクスレイガは天高く跳躍する!



『トキオ…ッ!頼む…!』

「 お任せを! 」



 プァルカムの粒子ビームで全身穴だらけになったガルズヴェードの……シーヴァンの声に応えながら、時緒はーーエクスレイガは暗黒の空を虹に染めて飛び跳ねた。


 十二基の欠片プァルカム全てがエクスレイガを追随し、粒子光の残像を描いて四方八方オールレンジから斬り掛かる!



「邪魔だな…っ!」



 しかし、時緒は焦らない。エクスレイガのその相貌カメラは真っ直ぐに、ヴィールツァンドだけを睨んでいた。


 エクスレイガは空中を、物理法則を無視してジグザグに飛行しながら欠片プァルカムを次々と回避。すれ違いざまにバルカンで四基、カリバーの一薙ぎで六基の欠片プァルカムを斬り砕いて葬り去る。



『征くのだっ!トキオ!!』

『頑張れトキオーーッ!!』



 カウナとラヴィーの声援が、時緒の精神エネルギーを鼓舞する。



 暖かい、強敵達ともだちの声!


 自分は、こんなにも優しい世界に居る!



 この世界に、早くティセリアを連れ戻してあげたいーー!




 時緒は、固く決意した!


 強く、真っ直ぐな、虹色の眼光で標的ヴィールツァンド見据えるロック


 当たって砕けても良いーー!もう、どうにでもなってしまえーー!


 何が何でも、ティセリアと一緒に遊ぶのだ!


 猪苗代ここで!




「カリバァァッ!!」


【 ルリアリウム・カリバー 突撃形態アタック・モード



 エクスレイガの背から光の翼が顕現する。


 エクスレイガの手を離れ、自律飛行に入ったルリアリウム・カリバーも束の装飾を変形、刀身を展開、露出したバーニアから、エクスレイガと同様の光の翼を生やす。


 エクスレイガは変形したカリバーの刀身上に乗り立つと、まるで大波を迎えたサーファーのように天空を舞い駆けた!


 猪苗代の空は未だ台風に荒れ狂っていたが、そんな気象モノ、今のエクスレイガには小々波と同義だ!



「 いっっけええええええええっ!! 」



 エクスレイガとルリアリウム・カリバーは虹色の粒子光を全身に纏ってーー一気に加速、加速、更に加速!


 音速の白い壁を、いとも容易く突破する!


 巨人と聖剣のシルエットは虹色の精神力ひかりに混ざくり合い、一つの超巨大な光の剣となって、ヴィールツァンドを目掛け突貫ーー!



『うぎぃあああああああああああッッ!!!!』



 迎え撃つヴィールツァンドはティセリアの声で咆哮し、残りの欠片プァルカムで苦し紛れの攻撃、攻撃、攻撃!


 幾重もの渾身のビームが光の暴力となってエクスレイガに牙を剥いた!


 

 しかし、欠片プァルカムのビームは、超速で天翔ける光剣エクスレイガの奔流に掻き消されていく!


 ルリアリウム・エネルギーの泡沫が幾つも弾け飛ぶ!その中を突き抜けるエクスレイガは……?


 エクスレイガは……健在!



「帰って来い!ティセリアちゃん!一緒に遊ぼう!!」

『うぎっ!?ぎいいいいいい!?』




 助ける!絶対助ける!時緒はその思いを込めて……喉が張り裂けんばかりに叫ぶ!




「絶対必勝ッ!【カリバー・ダイブ・エンド】オオオオオオオオオオ!!」



 煌斬ザンッッ!!!!



 眩く輝く虹の大剣……その切っ先がヴィールツァンドの腹を貫き……光の中へ呑み込んだ……!


 抗おうとのたうち回るヴィールツァンドの腕が、エクスレイガのパワーに徐々に風化して、砂へと変わる!



『ぎいいいいいいいいいいいいいああああああああああああ!?!?!?』



 空を慄わす、ティセリア……否、ヴィールツァンドの断末魔……!



『『『トキオォォォォッ!!』』』



 シーヴァン、カウナ、ラヴィー。誇り高さルーリアの三騎士達。


 そしてーー



(時緒くん……!)



 芽依子、仲間達の意思に支えられた時緒の澄んだ気迫がーー。



 輝けるエクスレイガの、その拡張されたこころがーー。




 ヴィールツァンドの躯体を、その驚異の超エネルギーで……装甲、フレームの一片まで……ルリアリウムの粒子光へと変換させた……!






 ****






(ティセリアちゃん……お待たせ……!約束通り迎えに来たよ!!)



 五感を支配する、夢か現かも分からない光の中で、時緒は……。


 確かに……確かに感じ取った。



(トキオ〜!まってたうゅ〜〜〜〜ん!!)



 ヴィールツァンドの軛から解放されたティセリアをーー。


 その、無邪気で眩しい笑顔をーー。



(さぁティセリアちゃん……遊びに行こうか……?)

(うゅっ!トキオとあそぶうゅっ!!)



 もう何処にも連れて行かれないように。



 時緒は、ティセリアを確と抱き締めた。




 続く

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