集結!四人の戦士たち!!


 ーー時緒は、夢を見ていた。



 何も無い、何処までも何処までも真っ白な空間……その中をパイロットスーツ姿の時緒は歩いていた。


 焦げ茶色の髪を撫でる、無臭の風が寒々しい。


 しばらく歩を進めると……。



「うゅっ……ぐしゅ……うゅぅぅぅ……」



 時緒は、前方に人影を発見する。



 ティセリアだった。



 ティセリアは、その小柄な身体を更に小さく屈めて……泣いていた。


 一人で。独りぼっちで……。



「 ティセリアちゃん……! 」



 時緒はティセリアへ駆け寄ろうとした。だがしかし、上手く前へ進めない。


 まるで、周囲の空気が固まって時緒を雁字搦めにしているようだ。



「ティセリアちゃん!ティセリアちゃんよぃ!」



 時緒はその場で踠きながら、懸命にティセリアの名を叫ぶ。


 何度も、何度も。時緒の辞書に『諦める』の文字は無い。



「 うゅ……だ、誰なのョっ…!? 」



 やっとティセリアは、涙と鼻水まみれの顔で、時緒の方へ振り向いてくれた。



「ティセリアちゃん!」

「ト、トキオだぅ!?」



 ティセリアはおぼつかない足取りで立ちながら時緒の下へと駆け寄ろうとするが……。



「う!?うゅっ!?」



 しかし、ティセリアも時緒と同様に上手く動けず、その場で千鳥足を踏むしか出来ない。



「ティセリアちゃん!一体何があったのさ!?どうしてあんなロボに乗って……!?」

「こっ…こんなつもりじゃなかったんだぅ!」



 ティセリアは激しくかぶりを振りながら、必死の眼差しで時緒を見つめた。



「せんよーき嬉しかったぅ!だから内緒で乗ったぅ!うまくなってシーヴァンやリースンに頭ナデナデしてほしかっただけなのョ…! 」

「でも…なんでこんなことに!?」

「うゅ…!乗ったらね?目の前がいきなりぶぁ〜ってなって……なんだかムカムカして……!もう分かんないぅ!トキオ……しんじてぅ〜!」



「勿論さ!」時緒はティセリアに親指を立てて笑って見せた。



「つまり!今暴れているティセリアちゃんは……ティセリアちゃんじゃないってことだね!?」



「う、うゅっ!」ティセリアは確と頷いた。



「あたしは!あたしは!シーヴァン達みたいに…エクしゅレイガをせーせーどーどーやっつけたかっただけなのョー!!」

「オッケー!よく分かった!」



 時緒は嬉しく思った。


 ティセリアの素が、このようなことを望んでいない。それを知ることが出来ただけでも、時緒にとっては御の字だった。



「トキオ?信じてくれるのぅ……?」

「何故ティセリアちゃんを疑わなきゃなんないのよ!?」

「うゅ………………あっ!?」



 突如、時緒とティセリアの間に白く濃い靄が立ち込め、お互いの姿を視認し辛くしていく。



「トキオ!?トキオーー!?」

「待ってて!絶対助ける!シーヴァンさん達と一緒に!絶対助けるから!!」

「わ、わかったぅ!トキオまってる!まってるのョーー!!」



 そして……。


 木霊を残して、ティセリアは時緒の前から消えた。



「…っ!何なのよ!この靄は!?」

よ」

「わァ!?」



 独り悪態をついたつもりが、咄嗟に背後から返事が返って来たので、時緒は大層びっくりした。



「 ティセリアの精神が無自覚に防御モードに入ったの。貴方の言葉に安心したのだわ 」



 振り返ると、時緒の背後には、麦藁帽子を目深く被った、ワンピース姿の女性ひとがいた。


 沙奈だった。



「あの子……自分の思念虹を制御しきれなかったのね。幼過ぎた……。誰もあの歳で覚醒するなんて思いもしなかったもの……」



 沙奈は、しばらくティセリアが消えていった方向を眺めながらぶつぶつと呟いた後、時緒を見つめて哀しげに苦笑した。



「初めて今の私自身を歯痒く思ったことは無いのだわ……」

「沙奈さん……?」

「ティセリアには……おちちどころか抱っこも出来なかった…… 」



 何故、それ程哀しい顔をするのか?


 沙奈の心持ちを、今の時緒には理解出来ない……。


 そして、今の時緒には優先してやるべきことがあった。



「沙奈さん、すみません。僕征って来ます。ティセリアちゃんとの約束があるので……!」



 すると、沙奈は心底嬉しそうに……顔をくしゃくしゃにして笑った。



「ありがとう……」



 時緒の周りにも靄が立ち込める。



「私は此処でティセリアを見守ります。それしか出来ない……」



 気が遠くなる中、時緒は見た。



「でも時緒。貴方は何でも出来るのだわ……!今までの経験を。大切な人達を忘れないで……!そうすれば貴方は……」



 麦藁帽子を取って、頭を下げる沙奈。



臨駆士リアゼイターの力を……自在に操れる……!」



 沙奈のその頭には銀色の、狐めいた耳が生えていたーー。





 ****




『時緒くん!?時緒くん応えて!!』

「は……はっ!?」



 通信機から響く芽依子の声に、時緒は我に返ってーー



「はああああああ!?」



 コクピットスクリーンに映る、を見て悲鳴をあげた!



「こなくそおいぃぃぃぁっ!!」



 猪苗代の大自然で培われた時緒の反射神経が、キャンプ場にて突っ伏していたエクスレイガを瞬時に再起動させる!


 エクスレイガはスラスターを全開!仰向けのまま地面を滑り、ヴィールツァンドの手刀を紙一重で回避した。



『時緒くん!?ご無事で!?』



 宙の立体ウインドウに投影される芽依子に、時緒は頷いた。



「なんとか!僕どのくらい寝てました!?」

『 寝て……?応答が無かったのは十秒くらいです!』

「そうです…かっ!!」



 エクスレイガは下半身を反転させ、ヴィールツァンドを、キャタピラ付きの右脚で蹴り上げた。


 エクスレイガのキャタピラが高速で回転する。


 ぎゃりぎゃりと不愉快な音を発しながらヴィールツァンドの装甲を擦り、激しく迸るルリアリウム光の火花が、台風に暗く震えていた猪苗代湖、天神浜を不気味に照らした。



『うぎゅうぅ…えくしゅれいがぁぁぁぁ!!』



 その華奢な外見に反し、思念虹を放つヴィールツァンドの力は凄まじく、エクスレイガの脚を徐々に、徐々に押し込んでいく。



「ぐ…く…ぅっ!」



 時緒の首筋を、焦燥の汗が流れ落ちていく。


 過負荷と溜まったルリアリウム・エネルギーによりキャタピラ内部が赤熱化していく。長くは保たない!


 ほんの少しで良い。付け入る隙と決定打が欲しい!


 時緒が願った、その時。



「あ……!?」



 暗黒吹き荒れる嵐の空を、一筋の、山吹色の光が落ちていくーー!


 最初、時緒は稲光かと思った。


 ……が、違う!


 光はみるみる大きくなり、鋭角的なヒトのシルエットを形成した。


 巨大化しているのではない。


 エクスレイガとヴィールツァンドの戦場へと接近している!



『ティセリア様!トキオ!!」



 初めて目にするロボから、シーヴァンの声を聞こえた。


 一瞬、隙が生まれたヴィールツァンドを、エクスレイガは蹴り退かせる。



「シーヴァンさん!?」

『ああ……!遅れてすまない!』



 目前に降り立つシーヴァンの騎体を時緒は凝視する。


 マッシヴでありながら、猟犬を思わせる鋭いフォルム。以前の騎体ガルィースとは違うーー!



「そのロボは……?」

『俺の新たな騎体……〈ガルズヴェード〉だ……。本当はエクスレイガおまえとの再戦の為に作ったんだが……!』



 時緒は心の底から昂ぶった。


 シーヴァンが再戦を望んでいた。また猪苗代に来てくれた……!



『トキオ!大丈夫!?』

『我等も居るぞ!トキオよ!!』



 背後から、ラヴィーとカウナの声がする。


 振り向いたエクスレイガのカメラが、天神浜に居る時緒から見て磐梯山の方角に、雨に濡れる二騎の巨影を捉えた。


 一つはカウナの愛騎〈ゼールヴェイア〉。


 もう一騎は、全体を曲線的な薄緑色の装甲で構成された、偉く特徴の掴みづらい騎体。


 恐らくあの騎体が、ルーリアの量産騎〈ゼラ〉なのだろうと、時緒は予想した。


 時緒の昂りが増す。


 シーヴァンに加え、カウナにラヴィーが、ルーリアの三騎士が集結した。


 この猪苗代にーー!


 時緒は確信した。


 これで、ティセリアを救い出せる。


 ティセリアを、取り戻すことが出来る!





 ****





「シーヴァンさん、ラヴィーさん、カウナさん、聞いて下さい……!」

『む?』



 時緒は先刻の夢の話をシーヴァン達に話してみた。


 ヴィールツァンドの尾が分離した楔型ユニットの攻撃を、エクスレイガのキャノンで撃ち払いながらーー!



「夢の中で……ティセリアちゃんと話をしました」

『夢の中だと!?』



 追いかけて来るユニットに向けてホーミングレーザーを放ちながら、カウナが素っ頓狂な声を上げた。



『トキオよ!こんな時に夢の話とは突飛過ぎであるぞ!! 』

『いや!もしかしたら……!』



 疑うカウナに応えたのはラヴィーだった。



『もしかしたら……トキオはティセリア様と精神感応で繋がったのかも……!』

『せいしんかんのう……?』

『文献で読んだことがある……!臨駆士リアゼイター同士はルリアリウム光に変換した精神波で交信出来るって……わぁっ!?』



 説明をしていたラヴィーのゼラが、楔型ユニットの猛攻に弾き飛ばされ、猪苗代湖の畔を転げ回った!



「ラヴィーさん!?」



 エクスレイガのキャノン二門、ショルダーバルカンが同時に火を噴き、ゼラに追随しようとしていたヴィールツァンドを退かせる。



『分かった……!それで……!?』



 両腕から発振させた三叉の光刃でユニットを斬り払いながら、シーヴァンの駆るガルズヴェードがエクスレイガを見据えた。



『その夢の中のティセリア様は無事なのか!? 』

「は、はいっ!」



 返事をしながら、時緒はヴィールツァンドへ向けてミサイルを撃つ。残念ながら、全弾避けられた……。



「夢の中で……ティセリアちゃん泣いてました!こんなことするつもりじゃなかったって!」

『 ………… 』

「専用騎、造って貰って嬉しかったって!内緒で乗りこなして……シーヴァンさん達に褒めて貰いたかったって……!でも自分の思念虹ちからが暴走してどうしようも出来ないって!!」

『ティセリア様…!』



 ガルズヴェードがヴィールツァンドへ斬り込むがーー



『 うぎゅぎゅぎゅ…… 』



 ヴィールツァンドは不気味なティセリアの笑い声を発し、虹色の残像を纏ってガルズヴェードの斬撃の悉くを回避する。最早、瞬間移動にしか見えない挙動だった。



『トキオ…!俺は…信じるぞ!』



 空中でバック転をしながら、ガルズヴェードは砲撃を続けるエクスレイガの側へ着地した。


 ガルズヴェードの両腕が砲撃形態に変形し、極太の粒子ビームを放つ。



『トキオ!やはりティセリア様を…あの子を助ける為には…お前の力が必要だ! 』

「シーヴァンさん!」



 時緒が周囲を見れば、シーヴァンの騎体ガルズヴェードだけでなく、カウナの騎体ゼールヴェイアが。ラヴィーの騎体ゼラが。


 エクスレイガを中心に、三角形の陣を形成していた。



『何!気負う必要は無い!』



 カウナが笑う。



『トキオ独りに何でもかんでもさせる気は無いからさ!』



 ラヴィーが笑う。



『トキオ……俺達で……ティセリア様を取り戻すぞ!』



 そして、シーヴァンが笑った。



「はい!!」



 シーヴァン達の気迫が、精神の波動が。


 時緒の中へと流れ込んで来る。


 ティセリアを愛する心。


 時緒自身を信じてくれる心。


 そんな若者達の心は、暖かな精神力ルリアリウムの光となってーー。


 時緒の精神ちからの扉を開く!



ルーリアの力……お借りします!!」



【ルリアリウム・レヴ バーストドライヴ】




 そして、エクスレイガの巨躯は、眩い虹の光に包まれる。



 時緒の思念虹ちからが、目醒めるーー!




 続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る