ただいま、おかえり




「愚かな義娘むすめシェーレよ…!シーヴァンに謝るのだ…」

「あ…ぁ…!?」




 大広間に重く響き渡る男の渋声に、すっかり威勢を削がれたシェーレは狼狽え、よろりと後ずさった。


 先程までシーヴァンを蔑んでいた深紅の瞳に、畏怖と困惑が混じって帯びる。



「この声は……まさか?」



 声はすれど姿は見えす。


 シーヴァンは声の主を確認しようと、周囲を見渡しながら足を一歩踏み出しーー



「むぎゅう!」



 足下で、件の男の渋声の、悲鳴がした。


 

 靴を通して足裏に伝わるぶよぶよとした感触に、シーヴァンは恐る恐る足下を見下ろす……。



「むっ!?」


 シーヴァンは仰天した。


 全高およそ五十センチメートルに該当する大の黄金こがね色をした毛玉を、シーヴァンは自らの足で踏み潰していたのだ。


 慌てたシーヴァンは咄嗟に飛び退く。



「やはりでしたか…!」



 シーヴァンは毛玉に向かって膝をつき首を垂れる。同時にカウナとラヴィーも同様の姿勢をとった。



「申し訳ありません…!!」

「ふはは…!良い、良い!」



 突如、毛玉がもぞもぞと動き、ゆっくりと起き上がった。



「お前の…我が輩を踏むその力強さ…ルーリア騎士の次世代を担うに相応しいと…このゴルドー…我が身をもって再認識した」



 瓢箪型の全身を覆う黄金色をしたふさふさの体毛。羽のような大きな耳。くりくりとしたつぶらな瞳。


 地球で言う齧歯類が直立したようなその容姿は、ルーリアの被属惑星【プー・ニャン】に棲むプー・ニャン人特有の姿である。


 シーヴァンたちと同デザインの騎士装束の上から羽織った外套をはためかせーー。


 毛玉……ではなく、【メイアリア騎士団】筆頭騎士、《ゴルドー・フ・モフゥ》は、そのプリティーな外見に不釣り合いなほど渋くダンディズムに満ちた声色で、跪くシーヴァンを見上げながら豪快に笑ってみせた。



「ところでシーヴァン…我が輩の頭から何かはみ出てないか?脳味噌とか…?」





 ****





「うゅゆ〜〜!ゴルドーおじちゃま〜〜いらっしゃい!!」

「おぉティセリア様…!お元気そうで…このゴルドー、嬉しゅうございますぞ」



 自身の来訪を喜んでくれたティセリアに、ゴルドー深々と拝礼する。


 その後頭部にはシーヴァンの足跡がくっきりとついていて、カウナとラヴィーは笑いを堪えるのに些か苦労した。



「さてシーヴァン。此度の戦い、真に大義であった」



 傍らに立つシーヴァンを見上げながら、ゴルドーは上機嫌な声を弾ませる。


 ゴルドーの何処からが髭で何処からが体毛なのか、シーヴァンたちには見分けがつかない。



「残念ながら…地球製の騎甲士ナイアルドに後れを取りました…」

「敗北もまた戦争の醍醐味である。…しかしシーヴァン、我が輩の目は誤魔化せんぞ?」

「は…?」

「記録を見た。お前…あの【エクスレイガ】とやらに…態と勝ちを譲ったな?」



 口元をおかしげに吊り上げるゴルドーに、シーヴァンはぎくりと肩を強張らせた。



「い…いえ…それは…私めが…相手を過小評価したが為…」

「思念虹を発現したとはいえ、あの程度の剣術、お前ならば破れようぞ?誰がお前に剣を教えたと思っている?我が輩だぞ?」



 愉快げにゴルドーは再び笑った。


 たちまちシーヴァンは小っ恥ずかしくなって耳と尻尾を垂らしてしまう。



「しかし…僅かながらもお前は地球で生活し、地球人と心を通わせた。我々が尊ぶ宇宙道徳の理念を、お前は見事に遵守して見せたのだ。これにはヨハン皇帝、並びにリーオ総騎士団長も大変お喜びになられている…」

「皇帝陛下が…総騎士団長もですか…?」

「左様。近いうちに陛下が直々に褒美と勲章を授けたいと仰っしゃられていた。楽しみにしていると良い」

「そんな…!勿体なき御言葉…!」



 照れ臭さと気恥かしさ、そして嬉しさにシーヴァンはもうまともに顔を上げることが出来ない。


 ゴルドーからの賛辞を嬉しく思ったのはシーヴァン本人だけではない。


 ティセリアは玉座の上で小躍りを始め、リースンとコーコは顔を綻ばせて拍手をしている。


 カウナとラヴィーはこつこつと手の甲をぶつけ鳴らした。友の栄光を祝うルーリア騎士独特の習わしである。



「シーヴァン、お前のような孝行息子を持って両親シールズたちはさぞ鼻が高いことだろう……。!!」



 途端にゴルドーは目つきを鋭くして、広間の端で居心地が悪そうにしているシェーレを睨め付けた。



「ち、義父ちち上……!」

「シェーレ、この親不孝者め!そんなにシーヴァンが妬ましいか!?」

「ち、違います!違います義父ちち上!私は!私はドーグスがあの地球に、あの野蛮な星に感化されたかとおも、」

「黙らっしゃい!!」



 ゴルドーの一喝に、シェーレはおろか、その場の誰もが沈黙した。


 ティセリアに至っては玉座の後ろに尻尾だけ残して隠れてしまった。



「シェーレ、いい加減にしな!」



 快活な声と共に光の粒子が集束し、また一人の少女が大広間へ姿を現す。


 シェーレと同じアビリス人の少女で、その顔立ちはシェーレと瓜二つであった。


 相違点と言えば、シェーレの尾鰭や髪が桜色であるのに対し、その少女の尾鰭と髪は爽やかな水色であることくらいだ。跨っている歩行器の宝玉の色も水色だ。



義父オヤジ!やっぱりシェーレのヤツ…」

「スァーレ!ティセリア様の御前である!」



 ゴルドーに窘められたその少女は凛とした態度で、玉座から恐る恐る顔を覗かせたティセリアに頭を下げる。



「御無礼を!メイアリア騎士団が一人、《スァーレ・ラ・ヴィース》参上!我が愚妹シェーレの過ちを正しに来た所存であります!」



 するとスァーレは、双子の妹であるシェーレをぎろりと一睨みした後、シーヴァンに深々と頭を下げた。



「シーヴァン、ごめんよ!このシェーレバカ男嫌いでさ!ただでさえメイアリア様が地球に降りて城を空けているもんだから気が立って…アンタが地球人にことが気に入らなくて来たのさ!」



「は…はぁ」スァーレの気迫に、シーヴァンは曖昧な返事をせざるを得ない。



「私達の城【ニアル・スファル】の従士おとこたちのことも邪険にして!私の所へクレームの嵐さ!」

「あ、姉上!?奴らめ…!従士の分際で姉上に告げ口を…、」

「黙りな!あんたは…身なし児だった私達を拾って育ててくれたゴルドーオヤジの顔に泥を塗るつもりかい!?」

「そ、そんなつもりは…!」



 すっかり血の気が失せたシェーレの元へゴルドーが寄る。


 その足音は、ぴょこぴょこ、と可愛らしいものだが……。


「…シェーレ…何ぞ…申し開きは有る……か?」

「ひ…ひぃ…っ!」



 その小さな身体から放つ怒気は、大広間を覆い尽くさんばかりに大きく、重く、禍々しいものだった。


 惑星プー・ニャンに生まれて五十年、ルーリア騎士を務めて三十五年。人生の大半を戦いに費やした古強者のみが放てる気迫であった。



「ち、地球がいけないのですっ!!」



 精神的に追い詰められたシェーレは、大広間の窓に映る地球を睨みながら、感情が圧壊した叫びを上げた。



「あんな下卑た男共がわんさか居る星、封鎖してしまえばいいのですよ!!何故被属させるのです!?被属させるならさっさとすれば良いでしょう!?皇帝陛下は何をのんびりしておられるのか!?お陰で私はメイアリア様に会う事が出来ない!!あんな星にメイアリア様がいるかと思うだけで私の心はボロボロだ!!」



 肩で息をしながら、シェーレは思いの丈を吐き出した。尾鰭の鱗が真赤に染まる。シェーレが興奮している証拠だ。


 ゴルドーは重い、そして微かに酒臭い溜め息を吐く。



「…………成る程。シェーレ…すまなんだ…おまえの気持ちはよ〜く分かった…」

義父ちち上……」

「…辛かったな……?」

「…………」

「…などと言うとでも思ったか!!」

「ひーーーーっ!?」

「馬鹿娘がぁぁ!!」



 激昂し、鬼の形相となったゴルドーは、ぷにぷにの肉球が付いた手で自らの腕輪型通信機を素早く操作する。



「ひ…っ!?」



 途端、シェーレが腰掛けていた歩行器が分割、変形を始めた。


 十字架型に変形した歩行器は、端部からルリアリウムエネルギーのビームを発射。ビームはたちまち光の触手となってシェーレを絡み取り、その肢体を十字状に拘束した。



「お、御許しを!義父ちち上ぇぇ!!」

「シェーレ…!シーヴァンのみならず陛下まで愚弄する身勝手な言い分…騎士道不覚悟!我が輩がニアル・スファルに戻るまで、メイアリア様の肌を抱いて蕩けたその頭…しっかり冷やして置くと良い!!」



 シェーレを拘束した十字架は、ゴルドーの手の動きに従うように大広間の宙を浮遊し、スァーレが乗る歩行器の後ろで制止した。



「スァーレ、シェーレを連れて行け。目障りだ」



 ゴルドーの指示にスァーレは頷くと涙目のシェーレを呆れた眼差しで見上げる。



「仕置きの内容はどうする?」

「我が輩の歌うルーリア国歌を録音したヤツをエンドレスで聞かせてやれ…!」

「……御意レーゲン



 自身への仕置きの内容を聞かされたシェーレは、涙を溜めた眼を見開き、力いっぱい首を横に振った。



「……!?い、嫌…嫌ぁぁ…!!」



 徐々にスァーレ、シェーレ姉妹の身体が光の粒子となり、足下から消えていく。


 ふと、シーヴァンとシェーレの目が合った。


 シェーレは恨みのこもった眼光でシーヴァンを睨みながらーー



「嫌ぁぁあ!!義父ちち上の裏声エンドレスだけは嫌ぁぁぁぁあ!!」



 光そのものとなって霧散し、空間転移させられた。


 悲痛な叫びを残してーー。



「馬鹿娘が…育て方を間違えたか…?」



 ゴルドーはしみじみと、そして何処か悲しげに呟いた。



「我が輩の歌を聞かせて奴の刺々しい心を和ませようとしたのに何故ああも怖がる?のうシーヴァン?」



「…………」シーヴァンは何も答えられず、耳をぺたりと垂らす。



 シーヴァンは知っている。


 ゴルドーの歌声を。


 そのを。



「それではティセリア様!皆の衆!我が輩は陛下の勅命で地球に降りねばなりません故、これにて失礼いたしまする」

「う、うゅ〜…おじちゃまばいば〜い」



 先程のゴルドーの怒号に圧倒されたティセリアは、ぎこちない動作でゴルドーに手を振った。



「勅命…ですか?」



 カウナの疑問に、ゴルドーはにやりと笑って頷く。



「左様、お前達若騎士と…エクスレイガとやらを戦い易くするよう露払いを頼まれた」

「露払い?」

「うむ…。まぁ…楽しみにしておれ?」



 首を傾げるシーヴァンたちの目の前で、ゴルドーは義娘たちと同様、光となって消滅する。


 勿体ぶるような、意地悪な笑顔を置いて……。







 ****





「うゅ〜〜っ!!シーヴァンシーヴァンシーヴァン!!おかえり〜〜!!」



 メイアリア騎士団の面々が去り、緊張感から解放されたティセリアは一目散にシーヴァンの元へと走った。


 気が急いでいるせいで、ティセリアの走る姿はまるで床を高速で這っているように見える。



「ティセリア様っ…!」



 シーヴァンは駆けて来るティセリアを抱き止めようとした。


 だが……タイミングを誤った。


 ティセリアの身体を抱き止める筈だった両腕は宙を滑り、シーヴァン目掛け勢い良く飛び跳ねたティセリアの頭部が、シーヴァンのみぞおちへと深く減り込んだ。



「ごふっ!?!?」



 ティセリア渾身の頭突きに肺の中の空気を抜かれ、シーヴァンは膝をつく。


 シーヴァンに会えた興奮のティセリアは、構わずシーヴァンの背中をするすると登り、その肩に乗った。



「うゅ〜〜ん!シーヴァンシーヴァンひさしぶり〜!うれしいな〜!!」

「ティ…ティセリア様…私もで…あります」



 頭頂部を叩くティセリアを肩車したまま、シーヴァンはよろよろと立ち上がる。


 背後から、リースンが支えてくれた。


 ティセリアとリースンの温もり背中に感じ、シーヴァンは嬉しくなった。



「うゅ〜…シェーレきらい〜。ずっとガミガミいうんだよ〜!メイアリアおねえちゃまみたいにかしこくなれ〜、つよくなれ〜って!あたしうんざり〜!!」



 頬を膨らませるティセリアに、リースンは同意の首肯をする。


 成る程、だから大広間に入室した時、彼女たちは元気がなかったのか。


 納得したシーヴァンは窓辺に向かって歩き、はしゃぐティセリアと共に地球を眺めた。


 漆黒の中で輝く、地球。


 蒼い光が優しくシーヴァンを包み、彼の中で微かに芽生えた猪苗代への郷愁の想いを刺激する。



「シェーレ卿も、素敵な地球人と出会えば…きっと刺々しい心根を変えてくれることでしょう…。私がトキオ達と出会えたように…」

「うぎー!トキオもきらい〜!!」



 頭の中を時緒の阿呆面が埋め尽くし、ティセリアは舌を出した。


 だが、シェーレほど圧迫感はない。むしろ時緒の素っ頓狂な顔は、今ティセリアにとって不思議な程親近感の湧くものであった。


 認めたくはないが……。



「うー……む、むかつく〜!」



 ティセリアはシーヴァンから飛び降りると、シェーレによって投げ潰され、床上で哀れな姿を晒しているケーキの元へ駆け寄った。



「うゅ〜……もったいないな〜…」



 ティセリアはしゃがみ込んで、哀しげな表情でケーキを見つめる。


 そして、小さな指でケーキの上、床に付いてない箇所の生クリームを、ちょんと掬い、舐めてみる。



「うゅ〜〜ん!おいしぃ!!」



 クリームの上品な甘味に、ティセリアは満面の笑みでくるくる踊った。


 結局、ケーキそのものを、真琴の真心をティセリアに食させる事は出来なかった……。


 だが今のシーヴァンには、嬉しそうに踊るティセリアの姿がとても微笑ましく、今の所はそれで満足することにした。



「シーヴァン、君の新型騎甲士ナイアルド届いているよ?早速試乗してみるかい?」

「む?…あぁ…いや…」



 ラヴィーの提案にシーヴァンは暫し考え……地球を見遣りながら、ゆっくり首を横に振った。


 時緒の笑顔を、思い出す……。



「ありがとうラヴィー。だが今日は…ティセリア様と夕飯前まで遊ぶと…心に決めているのだ」

「…そうだね!」

「それが良いな!」



 笑って頷くラヴィーとカウナを背にして、シーヴァンは意気揚々とティセリアの元へ歩み寄る。



「さあティセリア様…!このシーヴァンと一緒に遊んでいただけますか?」

「うゅ〜〜!!あそぶあそぶ〜〜!!いっぱいあそぶぅ〜〜!!」






 シーヴァンは願った。


 いつか、このティセリアの笑顔が、地球人の子供たちとともに咲き誇るように。







 ****






 その姿は地球人の概念で表すならば、”身体の適当な箇所に鎧を付けた巨大なテディベア”。


 それが、ゴルドー専用騎甲士ナイアルド【モフニャーン】の姿である。


 惑星プー・ニャンに古くから伝わる創星神にして戦神の姿と名を冠した愛騎の中で、ゴルドーは独り思いに耽る。



「そうか…あの子が…戦場に立ったか…。記憶を失くしても…亡くしても尚…メイアリア様の騎士と成ったか…!」



 そう呟いて、ゴルドーは腕輪型通信機に指を添えた。


 薄暗い操縦席に、一枚の写真が立体ホログラフとして現れる。


 写っているのは、腕を組むゴルドーと。


 皇族の証たる美麗なドレスに身を包み、優しく微笑むルーリア人の少女と。


 ルーリアの騎士装束を纏い、不機嫌顔をした、



「マリィ…母子揃って…馬鹿弟子が…」



 ゴルドーは静かに瞳を閉じる。


 視覚を遮断し、より鋭敏になった思考が過去の記憶を喚び起こし、その記憶の奔流が波となってゴルドーを覆う。


 思い出す。もう決して戻ることの出来ない過去を。




(ねー!ちっちゃいおじちゃん!)

(なんだ?マリィの倅ではないか?どうした?小便か?)

(ちがうよー!おじちゃん!ぼくにも剣をおしえてよ〜!)

(…何故我が輩がお前みたいな子供に教えねばならんのだ〜?お前の親父に教えて貰えば良かろう?)

(だってパパおっきすぎるんだもーん!おじちゃんちっちゃいからちょうどいいんだよ〜!ね〜ね〜!おしえてよちっちゃいおじちゃん〜!)

(駄目だ駄目だ!我が輩は忙しいのだ!あっちでメイアリア様やアシュレア様と遊んでおれ!しっしっ!)

(え〜!けち〜!おじちゃんのけちんぼ〜!おしえて〜!おしえて〜!!)

(いっ…痛だだだだだだだだ!?み、耳を引っ張るな!!毛を噛むな〜〜!!)




(えいや〜!えいや〜!!)

(そうだ!前をきちんと睨め!相手から目を逸らすな!腰を浮かすな!)

(えいや〜!えいや〜!!)

(そうだ!良いぞ!目標をしっかり持て!夢の為に剣を振れ!お前の夢はなんだ!?)

(ぼくは…きしになるんだ!おねーちゃんをまもれるきしになるんだ!えいや〜!!)

(メイアリア様の騎士か!?ふははははは!!それは良い!!楽しみにしておるぞ!?ふははははは!!)




(き、貴様ぁぁ!!それでもプー・ニャン人か!?ルーリアの医術士かぁあ!?)

(御許しください!御許しください!地球の原始的な医療技術では保存状態が悪く…ルーリアこちらに運ばれて来た時には…身体は黒焦げ…脳の損傷も激しく…!身体組織の再生はともかく、自我を確立出来ただけでも奇跡なんです!)

(黙れっ!!記憶を失っただと!?そんな話があるか!?そんな哀れな話があって堪るか!?マリィ達の顔を見たか!?メイアリア様の泣き顔を見たか!?今すぐやり直せ!やり直せ!!)

(ひぃっ!?)

(あの子を治せ!…あの子を返せ!!肉体も!心も!元通りにして…あの子を返せええええ!!)




(ゴルドー・フ・モフゥ…医術士への暴行の罪で…貴公を皇帝直属親衛騎士団アルダレイアーズから除籍に処する…)

(…………)




 過去を振り返ってしまったゴルドーの頬を温かな涙が伝い落ちていく。


 最近、歳の所為か涙脆くなってしまった。


 ゴルドーは自嘲気味に笑って写真を消すと、操縦席の宝玉に手を添える。



「サナリア様…どうか…貴女様の代わりに…若者たちを導く力を…我が輩に…!」





 続く

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