まるで手の掛かる弟のようで…
『時緒くん!10時の方向、スターフィッシュ6機!』
「はい!新兵装で迎撃します!」
エクスレイガのコクピット内、時緒はスクリーンに映る敵集団を見上げ、操縦桿に力を込める。
エクスレイガが大股でアスファルトを踏み締め、武骨な両手をスターフィッシュ群目掛け掲げる。
【ルリアリウムミサイルマイト、エネルギー充填完了】
「
【全弾発射】
炸裂音が弾けて、エクスレイガの両腕に取り付けられた短筒状の兵装から左右八発ずつ、計一六発の光弾が発射された。
!!!!
光弾は各々宙を乱舞し、回避行動に移ろうとしていたスターフィッシュ数機に次々と喰らい付く。
憐れ、餌食となったスターフィッシュは、内部からぼこぼこと醜く膨んで、爆散。
迸った爆光がエクスレイガの
その時、ひゅう、と風を切る音を、エクスレイガのセンサーが時緒の鼓膜へと届ける。
爆発で舞い上がる粉塵を突っ切って、三機のスターフィッシュが飛び出て来た。
エクスレイガの攻撃を避けた個体があったのだ。
「っ…!ランチャー…!」
エクスレイガが、足下の大砲【ルリアリウム・ランチャー】を手に取ろうとした。
……だが。
「!?」
殺気に震えた時緒は咄嗟にエクスレイガを後方に飛び退かせる。
途端、死角から来たスターフィッシュが自体を高速回転させ、ランチャーと、ランチャーを載せていた移送車ごと斬り裂いて破壊した。
「ちぇっ!動きが速いんじゃないの…!?」
時緒は舌打ち一つ。
回避のバク転をしながら頭部バルカンを掃射、隙を作ったエクスレイガは猪苗代町を地面擦れ擦れに飛行する。
雪国所以の縦型信号機や、栄養ドリンクを持って微笑む和服女性が描かれた看板を斬り飛ばしながら、三機のスターフィッシュがエクスレイガを追随して来る。
「ブレード…っ!」
起爆ボルトでルリアリウム・ミサイルマイトを強制排除し、エクスレイガはルリアリウム・ブレードを構えた。
八相に構え、肉薄するスターフィッシュの一機をすれ違いざまに斬り伏せる。
舞い散る破片がスローモーションに見える程の疾い斬撃。
斬られたスターフィッシュはエクスレイガを無視するように暫くと飛行していたが、やがて思い出したかの如く、ぱっくり真っ二つに割れて爆散した。
「次は!?」
視覚を研ぎ澄ませ、時緒はスクリーン見遣る。
居た。
二機目のスターフィッシュだ。時緒から見て二時の方向、風切り音を発しながら回転し迫り来る。高度と軌道からして、エクスレイガの頭を刎ね落とすつもりだろうと、時緒は予想する。
そうはいかない!エクスレイガはブレードを腰に構え、低く飛んだ。
エクスレイガを確実に仕留めようとスターフィッシュは速度を落としたが、慣性を消しきれていない。その海星型のボディが空中で僅かに揺れた。
その隙を、時緒は逃さない。
エクスレイガの握ったブレードが、時緒の精神力がルリアリウムによって変成された光刃が、スターフィッシュの装甲を撫でるように奔った。
『上手い!』芽依子の歓喜の声がコクピットに響く。
スターフィッシュが砕け、鉛めいた曇天にルリアリウム・エネルギーの花がぱっと咲いた。
芽依子の賞賛の声が嬉しくて、時緒はエクスレイガを斬り降ろしのポーズのまま停止させてしまった。
ただの格好付けだ。ロボットアニメでよくあるシーンである。
だが、それがいけなかった。
同胞が散った爆炎を隠れ蓑にして、最後のスターフィッシュがエクスレイガの背後目掛け特攻を敢行した事に、時緒は気付くのが遅れてしまった。
!!!!
「あ!?!?!?」
スターフィッシュの切っ先がエクスレイガの背中を貫き、時緒が居たコクピットごとエクスレイガの駆体を抉り割った。
エクスレイガはーー。
地球の防人であった巨人はーー。
時緒はーー。
無残に、爆発四散した……。
【
ディスプレイに淡々と浮かび上がる文字を不満げに睨みながら、時緒は溜息を一つして、
****
「なぁブチ
「ペギミンHじゃないスか?」
「あ〜それだ。ペギミンH、ペギミンエイチ…と」
イナワシロ特防隊の格納庫内。
整備用のケーブルに繋がれたエクスレイガの足下で、整備班長の
そんな茂人のもとへ、時緒は勇み足で近寄った。
「チバさ〜ん!エクスレイガのシュミレーション、難易度高くなってません!?」
「あァ〜、時緒でもムズ過ぎだったワケね!」雑誌を工具箱の上に置いて茂人はにやりと笑った。
「シュミレーションデータをアップデートしたのよ!因みに作ったのは…、」
「俺だ。トキオ…!」
時緒と茂人の会話に割って入ってきたのは、茂人たちと同様の作業着を纏ったシーヴァンであった。
「俺がマリコさんとマキさんたちの許可を得て、
「シーヴァンさんが?」
あんぐりと口を開けたままの時緒に、シーヴァンは不敵な笑みを浮かべ首肯した。
「きゃあぁぁ…!作業着姿のシーヴァン君激萌え〜…」
背後で、カメラのシャッター音を連発させている
「トキオ、お前にはもっと強くなって貰わねば困る。しむれーしょんでしっかり勉強するように…!」
「は、はい!」
「因みにキュービル程度でやられていては駄目だぞ。あの後全力全開の
鼻の穴を大きくして、シーヴァンは胸を張る。
「シーヴァン君さっすが〜!」
「シーヴァン君ゲーム作りの才能あるよ!」
「でも確かにあのシュミレーションムズゲーよ〜…俺パソコンでやってみたけどスターフィッシュ二機目でやられたもん」
「へへ…!俺三機目まで!」
「俺は棒立ちのまま八つ裂きにされた…」
腕組むシーヴァンを囲んで、茂人や整備員たちがやんやと囃し立てる。
ふと、時緒は首を傾げた。
(トキオ、お前には
(あの後
シーヴァンの言葉を脳内で反芻した時緒は「ああ!」と大袈裟な声をあげた。
「シーヴァンさん!やっぱり
「…ぎくり」
シーヴァンはバツの悪い顔を浮かべ、睨みつけて来る時緒から視線を外しながら、ふひゅ……と下手くそな口笛を吹いた。
「さ、さぁ?何の事だ?俺はいつも本気だ…!」
「嘘だ〜!?最近僕と剣の鍛錬付き合ってくれますけど、シーヴァンさん僕の剣簡単に受け流すじゃないですか!?」
「…お前の言っている意味が分からないな」
突然シーヴァンはくるくると倉庫内を走りだし、時緒はそれを追いかけた。
「シーヴァンさん!?こら!?逃げるな!!」
「あぁ聞こえない。聞こえないぞトキオ…。翻訳機が壊れたかな?父のお古だからな…」
「こら〜〜!!」
顔を真赤にして両手を振り回す時緒と、そんな時緒をのらりくらりと躱すシーヴァン。
産まれた星は違うけど。
その光景は、二人はまるで本当の兄弟のようで。
茂人も。
整備班員たちも。
そして。
「あら…?」
時緒の様子を伺いに来た芽依子までも。
その微笑ましさに、気を和ませずにはいられなかったのだ。
「あぁ!時緒君とシーヴァン君!尊い!尊いわぁぁ!!」
格納庫の端で酷く興奮した様子の薫が、時緒とシーヴァンの戯れ合いを撮影していた。
「トキオ…」
「はい?」
無邪気に振り下ろされた時緒の拳を受け止めて。
シーヴァンは笑う。
弟を見守る、兄のような笑顔。
「トキオ…ありがとう…楽しかった」
「え…?」
その笑顔を、ほんの少し……寂しげに曇らせて……
「俺は……そろそろルーリアに帰るよ」
****
一方その頃、イナワシロ特防隊基地、会議室。
怪獣映画のBGMの着信メロディを奏でる携帯端末を、真理子はいそいそと手にした。
画面には、【非通知】のデジタル文字ーー。
「……はい?もしもし?どちらさんですか?」
『…失礼?椎名 真理子さんの携帯端末ですか?』
受話器の向こうからは、バリトンの効いた男の声が。やはり、真理子の知らない声だった。
「 ……誰ですか?アンタ? 」
『お気をつけ下さい。
真理子は目を細め、威嚇の気迫を込めた唸りを静かにあげる。
「……てめぇ…何モンだ…?」
しかし、真理子とは裏腹に、受話器から聞こえる男の声は、至極楽しそうな色をはらんでいて……。
『私は《
一方的に、通話が切れてーー。
耳が痛くなるような静寂が、真理子を包み込んだ。
続く
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