第十三章 美しい転校生

クラスのみんなにはナイショだよ!




『失態だな…椎名 真理子。エクスレイガを衆目へ晒すのはもう少し後の筈だ』

「悪かったっつの。こっちだって想定外だったんだよ」

『メディアは完全にエクスレイガに注目している……。以前のような情報規制による隠蔽はもう不可能だ』

「……いっそのこと発表すっか?”新世紀覇王!究極のバトルマシーン登場!対抗出来るのはヤツしかいない!!”ってさ?」

『……私の胃に穴開ける気か?』

「あんだけ野党や民衆から何やかんや言われても開かなかったんだ。心配ねぇよ」

『ふん、まあ良い。お前の考えに合わせるように”向こう側”からも要請があった。必要な書類は用意する。あと…少しお前の口座に入金しておいた。パイロットになったお前の倅と…に何か美味い物でも食わせてやれ』

「おっ!いつになく太っ腹じゃねえか!じゃあ今晩はすき焼きにでもするかな?」

『……この借りは高く付くぞ?』

「オーケーオーケー。胃薬一年分贈るわ」

『会津の大吟醸!あと蕎麦を寄越せ!びた一文負けんからな…!まったく…お前と…お前たちと知り合って二〇年…碌な事が起こらん…』

「何言ってんだ…”尾野中 千尋おのなか ちひろ”内閣総理大臣閣下よぉ?…碌なことがよ」

『……地球防衛軍め。以前からデカい面して気に食わなかったが、最近どうにもキナ臭い。気をつけろ』

「分かってる。ま、転ばされてもタダじゃ起きねえからさ」

『おそらく…指揮してるのは”あのおぼっちゃま”だろうな』

「懲りねぇなァ…あのボンボン」

『忠告はしたぞ?上手くやれよ??』

「……今度その名前で呼んだら永田町ごと吹っ飛ばすぞ狸ババァ」






 ****







『徳光さん事件です!一体あの白い巨大ロボットは何者なのか、何故この猪苗代町に現れたのか、依然真相は闇の中です!スタジオの徳光さん、徳光さんは巨大ロボットについてどう思われますか?』

『いやー…軍事云々、政治云々の話をしたい所ですが…正直自分ゲキネツオーとかガジンガー世代だから嬉しくて堪らんですよ!やっぱ巨大ロボットはかっこいいですね!ロマンですよ!ロマン!!』

『CMの後は、ルーリアの占領下となった熱海市から緊急生放送!”ルーリア人もうっとり!癒され温泉ランキング”です!』


 …………。



「ロマンだってよ!ロマンだってよ!マジか!?」

「う〜〜む!これは陰謀を感じますゾ!」



 会津聖鐘高校。


 授業開始三〇分前の朝にもかかわらず、一年三組の教室内は、生徒たちの雑談が響くお祭り状態だった。


 教材放送用の液晶テレビを勝手に点け、放送されている情報番組を生徒たちは目を皿にして見入る。


 テレビの話題は、三日前に撮られたエクスレイガの戦闘映像であった。


 素人が携帯端末で撮ったのだろう。動画はぶれてはいたが、エクスレイガが骸骨に向かって回し蹴りをする様がでかでかと映っていた。



「見たかったァ!ナマで見たかったぜェ〜!!巨大ロボット!!」



 強面だが涙脆い巨漢、一年三組ヤンキーグループの一人、《近藤 五郎こんどう ごろう》が、悔しげに染めたばかりの茶髪をくしゃくしゃにした。



「やっぱあのロボットも地球防衛軍なワケ?」

「……にしては防衛軍の車両や戦闘機が見当たらず、単独スタンドアローンで行動しているのが気になりますゾ!」



 首を傾げるヤンキーグループの一人、綺麗好きの《角田 智つのだ さとし》に応えてみせたのは、趣味は勉強を豪語するクラス委員長の《権田原 淳ごんだわら あつし》だった。



「もしかしたら、もしかすると…!かのロボットは、防衛軍とは別の機関が運用しているのかもしれませんゾ!」

「「別の機関〜?」」

「左様、開発中ならまだしも……ロボットが確認されて今日で三日になるのに、防衛軍から何の発表も無いのは怪しいですゾ!」

「「なるほど!」」



 牛乳瓶の底のような眼鏡をぎらりと光らせる淳の推測に、五郎と智は腕を組んで納得の首肯。



「……ところでさぁ」



 ヤンキーグループのリーダーにして紅一点、姉御肌で子ども好きな《小松崎こまつざき みのり》が、訝しげな表情で教室の後ろ側を見遣る……。



「……なんでアンタらはそこでスクラム組んでるんだい?」

「「ぎくり」」



 クラス全員の視線が……時緒、真琴、伊織、正文、佳奈美、律の円陣に、集中した。



「な、何が?」時緒が、引き攣った態とらしい笑みをみのりへと向けた。



「いや……最近お前らおとなしいなと」

「そういや、椎名たちは猪苗代町出身だろ?ロボット、ナマで見れたんだろ!?いいなァ〜!!」



 時緒たち六人は咄嗟に円陣を組み直し、小声で確認し合う。



「良い?絶対…エクスレイガのことは言っちゃ駄目だからね!僕が操縦してることや同乗したこと…絶対!」



 念押す時緒に、真琴達五人は同時に頷いた。



「うん…!大丈夫!」

「任せろ!」

「無論だ…!」

「おっけ!」

「うむ!」




 一抹の不安はあるが、このまま円陣を組み続けても仕方がないので、時緒は顔を上げ、さも残念といった苦笑を顔に貼り付けた。



「いやぁ…実は僕たち、早々に避難しちゃってさぁ…見れなかったんだよね!ロボット……僕も見たかったよ!」



 そう言って笑う時緒に、五郎は「そっか〜…お前らも残念だったなァ…」と、同情の顔。



「ほんと、すっげー残念!」伊織が会話に乗った。



「う…うんうん!」真琴が強張った顔で頷く。



「見たかった…!くっ!俺様としたことが…!」正文、迫真の演技。



「私はあまりロボット物は興味ないが…、現実に出てきたなら…まぁ話のタネに見たかったかな」つんと、律済ました態度を取って見せる。




「ほんとほんと!見れなかったね!!!」



 佳奈美の大声で言ってのけた。



「「……は!?」」



 クラス全員の顔が引き攣った。



「ちょぉぉぉぉ!!」

「とき…もがーーーー!?」



 ”時緒が操縦した!!”


 そう言おうとした佳奈美の口を、時緒は目にも留まらぬ速さで塞いで見せる。


 佳奈美め、言うなと釘を刺して数分も経たない内にこの有様である。堪ったものではない。



「佳奈美!言わない約束だよね!?」時緒は小声で佳奈美に圧をかけた。



「あ、そうだった!忘れてた!」

「忘れないで!わ・す・れ・な・い・で!」

「にゃはは。オーケーオーケー!任せてよ!」



 任せられない、時緒は思った。


 奇妙な眼差しを向ける級友たちに、緊張に血走った笑顔を向けた。


「時緒氏?今…ロボットに乗ったと…?」権田原がずれた眼鏡を掛け直しながら、時緒に尋ねた。


 当の時緒は首を激しく横に振る。


 いや、事実ではあるが……その事実は、何としても隠さねばならない。



「や、ややや嫌だなぁ委員長!そそそそんな!アニメやラノベじゃないんだから!乗る訳、乗れる訳ないじゃないの!」

「で、でも…佳奈美氏が…?」

「も、妄想!佳奈美って夢見がちガールだから!時々妄想するのよ!ね!?佳奈美!?」



 そう言って、時緒は佳奈美を睨む。


 ”話を合わせろ!”と、眼力を込めて。


 佳奈美は間抜けた笑顔で頷く。


 付き合いの長い時緒は確信した。佳奈美のこの笑顔は、”何も考えてない顔”だ。



「うん!もーそー!全部もーそー!」



「「な〜〜んだ」」と級友たちがつまらなそうな声をあげ、時緒達から遠ざかっていこうとーー



「時緒がロボット操縦したもーそー!時緒のママがロボット作ってたもーそー!磐梯山の麓のオバケ倉庫がロボットの秘密基地になってるもーそー!あ!あとあと!時緒ん家に宇宙人泊まってるもーそー!!」



 佳奈美な軽い口が、ぺらぺらぺらぺら高速回転を開始する!


 真琴、伊織、正文、律が、同時に顔をしかめて天を仰いだ。


 温厚を貫くつもりだった時緒の、堪忍袋の緒がぶつりと切れた。



「佳奈美お前はもう喋るなッッ!口も開くなもういっそのこと息もするなッッ!!」

「にゃ〜〜〜〜?」



 時緒は、佳奈美と秘密を共有したことを、心の底から後悔した……。





 続く

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