勝者に祝福を 敗者に安息を
「ぅひぃーーーー!?」
激しい閃光がモニターを灼き、ティセリアは仰天の声をあげながら椅子ごと真後ろに転げた。
「な、何なのです!?この光はァ!?」
目を回すティセリアを抱き起こすラヴィーの上擦った声に応えたのは、管制官の一人が驚愕の表情をしながらの「わ、分かりません!」一言のみ。
「【
まるで、熱にでもうなされたかのようなカウナの言葉に、ラヴィーは眉をひそめた。
「し、思念虹って…、二百年前のルーリア女帝セレイナが
「……」カウナが無言のまま頷く。
「ばっ馬鹿馬鹿しい!巨人が!地球人が!?ルリアリウムを限界まで引き出したと!?【
「…ならばあの現象をどう説明出来る?」
「……っ」ラヴィーはばつの悪い顔を浮かべ、何も応える事が出来なくなってしまった。
「それにしても…」
カウナの頬を、一粒の涙が伝った……。
「なんと……美しい輝きか……!」
****
『それがお前の覚悟だと言うのか!?お前の本気のパワーだと言うのか!?トキオ!?』
「よく分かりませんが!その通りです!!多分!!」
『…ははっ…!あはははははっ!』
シーヴァンは笑っていた。
皮肉など一切感じられない、心の底からの喜びに、時緒もつい笑顔になってしまう。
戦場で、男同士の戦いの場でこんなに笑っていいのだろうか?と、時緒は一瞬思った。
『良かった……!騎士になれて良かった!地球に来れて良かった!トキオ!お前に会えて良かった!俺は強い奴と戦い、本気の生きるパワーを見たかった!トキオ!お前と戦えて本当に良かった!』
シーヴァンの嬉々とした言葉に時緒の疑問は吹き飛んだ。
”これで良いのだ!”
母が好きなアニメのキャラクターがよく言うフレーズが脳裏に蘇り、時緒は笑ってしまう。
これで良いのだ!細かい事はこの際無しだ。
自身を抱き続ける猪苗代の空は、大地は、こんなにも青くて、綺麗で、パワフルで、清々しいのだから!
笑わなければ損である!
エクスレイガから溢れる虹の粒子光がその駆体へ、構えるブレードへと凝縮される。
吹き荒れる嵐を無理矢理押し込むように……。
エクスレイガとガルィース……。
二機のシルエットが一瞬消えーー
雷鳴にも似た剣戟音と共にぶつかり合う。
二機のロボットが再びぶつかり合う!
時緒とシーヴァン。
二人の覚悟がぶつかり合う!
「シーヴァンさん!不肖この椎名 時緒!今一度!貴方の胸を御借りします!!」
二つの光が舞う!
虹色の光が翔んで……。
山吹色の光が疾る……!
それらの正体が二騎の巨大ロボットと、常人の反射神経で認識出来るかどうか疑問に思える程の超速で、二騎は剣を交える!
舞い踊るように、戯れ遊ぶように……。
時緒とシーヴァンは剣を交える!
『ぐうぅっ…!?』
最初にシーヴァンが呻いた。興奮に鼻腔がひゅうひゅうと鳴る。
エクスレイガの一撃一撃が今までとは比べ物にならない程速く、そして重い。
(これが思念虹…いや…時緒の力か!!)
ガルィースの斬撃を、幾重もの残像を残しながら回避し、エクスレイガはガルィースの懐の内へと入り込む。
刹那、柄の尻でガルィースの腹を二度三度打ち付けた。
『がっ!?』
衝撃がガルィースの駆体を伝播し、シーヴァンを揺らす。
内臓を揺さぶられる不快感に身を屈めそうになるがーー
『…っ面白いィッ!!』
それを、シーヴァン自身の騎士道精神と純粋な好奇心が許しはしなかった。
『トキオ!決めたぞ!俺は!』
「何をですか!?」
『俺はトーキョーよりも、サッポロよりも!此処イナワシロの占領を目指したい!そして!イナワシロを我が姫ティセリア様御遊覧の地とするのだ!!』
幾重にも虹色の残像を置いて舞うエクスレイガを追撃しながら、歓喜のシーヴァンは心情を吐き出した。
『美しい地だ!気に入った!ここでならティセリア様も御喜びになる!此処に住まう方々とこの自然の中で御遊びになれば、より心健やかになられるだろう!!』
「保証します!」
『だからこそ、トキオ…お前を倒す!…そうだ!お前を倒し、お前もルーリアに連れて行く!お前はルーリアの騎士となるのだ!』
「すみません!それは御断りします!!僕には…やらなくちゃいけない事がいっぱいありますので!!」
『ならば…仕方ないっ!』
二機の光刃がせめぎ合うのはもう何度目になるか。それはもう時緒にもシーヴァンにも分からない。
「帰ると約束した人がいます!」
『勝利を約束した御方がいる!』
「芽依子さん…!」
『ティセリア様…!』
「貴方には負けられない!」
『お前を必ず倒す!』
「だけど…っ!」
『しかし…っ!』
「シーヴァンさん!貴方は強くて面白い!」
『トキオ!お前は強くて優しい!』
「『だから!この戦いが!心地良いと感じてしまう自分がいる!!はあぁぁぁぁぁぁあっっ!!!」』
エクスレイガとガルィースが飛翔しながら再びぶつかり合う!
「これが…ルーリアの戦争…!」
『あぁそうだ!互いに全力を出し合い戦って、最後には讃え合う!これがルーリア銀河帝国の戦争作法だ!』
「凄い…!」
『いずれ地球もそうなる!ルーリアに被属し、ルリアリウムの恩恵を受ければ!地球人を同族殺しの汚名から解放する!その為に俺達は来た!だから、今は全力で俺と戦え!トキオ!』
「合点承知っ!!」
エクスレイガの剣戟に風が荒ぶ。
ガルィースの剣戟に大地が鳴く。
超速の剣戟と剣戟がぶつかり合う、そのエネルギーはもはや空間をも震わす勢い!
まさしく……驚天動地!
『…ふっ!この状況…打破してみるか…!』
先に機動を変えたのはシーヴァンだった。
虹を纏ってより剛胆となったエクスレイガに、新たな戦術を試したくなったのだ。
エクスレイガの斬撃を紙一重で避けながらガルィースは後ろに跳躍、エクスレイガに向けてその無骨な腕を掲げる。
『対艦隊戦用の武装だが…しのごの言ってられんか…!』
途端、ガルィースの両腕が変形する。
掌が割れ拡がり中央から円形のパーツが現れる。
腕の装甲が展開、只でさえ大きなガルィースの両腕が更に巨大になったように見えた。
「…あれは…っ!?」時緒はぎょっとした。
様々なロボットアニメ、バトルアニメ、ファンタジーアニメを見てきた時緒のセンスが、変形したガルィースの両腕の形状を見て脳内に警告を打ち鳴らす。
分割した掌から現れた円形のパーツは、恐らく砲口。
即ち、あれは大砲である……と!
『威嚇だ!避けろよトキオ!』
砲口にルリアリウム・エネルギーが集束し、巨大な光球を形成していく。
太陽の如く山吹色に輝く粒子の塊。
紛れも無い、シーヴァンの全力の賜物。戦闘意思の塊だ。
『
シーヴァンの叫びと共に光球が更に膨れ上がり、それがエクスレイガへと目掛けて放たれる。
轟々と空間を震わせて、光球はエクスレイガの存在箇所の諸々を呑み込み、巨大な炎と化して衝撃波と共に膨れ上がった!
解き放たれたエネルギーが陽炎を発生させ、シーヴァンの視界総てを朧げな存在へと変える!
(何処から来るか!?
先刻の砲撃でエクスレイガを仕留めたとは、シーヴァンは微塵も思っていない。
時緒なら必ず回避しているだろうと。
あの陽炎の向こう側で、一矢報いる瞬間を虎視眈々と狙っているだろうと踏んだシーヴァンは周囲を見回す。
(右か…左か…!?上かっ…!?)
全方位に意識を拡散させて、シーヴァンは警戒戦意を全開にする。
だが……。
シーヴァンは思い違いをしていた。
シーヴァンは、時緒が砲撃を回避していると思い過ぎていた。
故にーー!
「
砲撃の爆心地から、
残留していたルリアリウム・エネルギーの奔流を斬り裂き、エクスレイガが突進してきた!
シーヴァンは仰天!
『よ、避けていないだとっっ!?』
「避けませんでした!!」
『トキオ!?さてはお前…馬鹿だな!?』
「はい!馬鹿は馬鹿でも勉強の出来る馬鹿です!!」
『タチが悪いぞ…ッ!!』
周囲のそこかしこから火花を散らせるぼろぼろのコクピットの中で時緒は笑い叫ぶ。
エクスレイガは酷い有り様だ。
砲撃をまともに喰らった右半身の装甲はどろどろに溶け落ち、グレー一色の内部フレームを露わにしている。
ぱかん、と破裂音をたてて右
しかし、時緒は……エクスレイガは止まらない!
「もっと輝け!ルリアリウム!!僕の精神力を糧にするなら…僕の気迫くらい具現化してみせろぉぉおっっ!!」
エクスレイガの隻眼が一層強く輝き、その超速に尾を引いて舞う!
ひび割れだらけのブレードが虹色に煌めき、エクスレイガの身の丈を超える大太刀へと転ずる!
舞う!駆ける!翔ぶ!
時緒の激情を全身から迸らせて、エクスレイガは翔ぶ!
たとえその身朽ち果てかけようとも…!
エクスレイガは馳せ続けるのだ!
****
『………見事だ…………』
シーヴァンは心底嬉しかった。
ルリアリウムのるの字すら知らなかった地球人の青年が、ここまで自身に食い付き、それどころか奇跡と呼ばれた
これを嬉しいと呼ばずして何と呼ぶのか?
(さて?どうしたものか?)
シーヴァンは考察する。
トキオ・シイナ。この青年を、ルーリアと相対する誇り高い騎士とするには?
銀河中に彼の勇名を轟かせるには?
今、自分に出来る事は?
(何だ……簡単な事じゃないか……)
エクスレイガに斬り裂かれた操縦席の隙間から、シーヴァンはイナワシロの空を見上げてみる。
何故か、懐かしい気持ちだった。
二つの衛星はなくとも、イナワシロの青い空は、幼い頃、ティセリアと共に見上げた空にとても似ていたからだ。
(ティセリア様…申し訳ございません。
地球はルーリアと共に歩むべきなのです。
しかし、他の惑星の幾つかは、地球の銀河連邦参入を快く思わないでしょう…。
だからこそ…今の地球人には…トキオには必要なのです…!
堅実で…確実な…
そう真っ直ぐな瞳で微笑むシーヴァンの身体を……
虹色の光が、包み込んだ。
「我流剣式…【磐越道十文字斬り】!!!!」
時緒の感情を上乗せした虹色の刃がガルィースへと振り下ろされる。
防御に構えられた両腕ごと、ガルィースはその駆体をX字に斬り裂かれて……。
一拍……刹那にも永遠にも思えたその一拍を置いて……。
ガルィースは……爆散した。
芽吹いたばかりの青草が、舞い散る山吹色の光粒子に、揺れた。
****
「うゅ…?」
ふと、ティセリアが虚空を見つめ、小さな首を傾げる。
誰かに、謝られた気がした。
「……シーヴァン…お
続く
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